MF文庫J8月新刊『女騎士さん、ジャスコ行こうよ』の感想です。
女騎士さん、ジャスコ行こうよ (MF文庫J)

あらすじ

とあるど田舎、平家町に住む普通の高校生、瀬田燐一郎はある日、夜の田んぼで行き倒れているお姫様、ポーリリファと彼女に仕える女騎士、クラウゼラを発見する。二人はなんと異世界“魔法地平”から命からがら逃れてきたと言い出して、そこから始まるトンデモドタバタストーリー!?…と思いきや、「実は…この町では割とよくあることなんだ」「なんじゃと!?」異世界人が珍しくない普通の田舎町で繰り広げられる女騎士系田舎日常コメディ、特に何事もなくのんびりスタートです。



以下、途中までのネタバレがあります。

編集部ブログがきっかけで一躍話題になった本作。
タイトルとあらすじが一番面白い出オチ作品かと思いきや、タイトルを超える衝撃的なストーリーでした。
ジャスコネタと女騎士ネタ以外も濃すぎる!
バカラノベが読みたい人には超おすすめの一冊です。

口癖が「くっ、殺せ」の女騎士さん、地球にやって来る

異世界《魔法地平》の『イース神聖連合王国』の姫君ポーリリファと女騎士クラウ。

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オークによって王国が攻め落とされ、 二人は《大扉》を使用して異世界へと逃げ出します。
彼女たちがワープした先は岐阜と長野と愛知の県境近くにある平家町(総人口873人のド田舎)。
あぜ道で気を失っていた二人を、たまたま通りがかった瀬田麟一郎が助け、瀬田家の居候になることに。

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この口絵を見て、「異世界の常識と日本の常識のギャップを楽しむほんわかコメディ」なのかなと思っていたら全く違った……。

キャラが濃い!

メインヒロインの女騎士クラウの口癖は「くっ、殺せ」。
やたらと陵辱されることへの想像が豊かです。多分、前世はエロゲーライター。

「違うだと?ははあ……さては『グフフフ、まだ手はつけておりませんよ、まだね』と言いたいのだな!?姫殿下を人質に取り、私を陵辱するつもりなのだろう!?私が逆らうなら、代わりに姫殿下を陵辱すると脅して!クッ……そんなことをされれば、いくら私でも、なす術なく陵辱されてしまうしかない……」
(P31)

当然のようにチョロインです。

姫君ポーリリファことポー姫が輪をかけて酷い。
異世界の8歳幼女なのにオタク趣味への造詣が深すぎる。特にエロゲー。しかもオーク陵辱ものと触手もの。

「このクラウゼラはすごく優秀なのじゃぞ。なぜって、妾を連れて脱出するのに成功したのじゃからな。『オークに攻めこまれた都から姫を連れて脱出する』というミッションに成功した女騎士なぞ、ニホンのエロゲーでは一人たりとも見たことがない」
(P46)

ポー姫が日本文化に詳しい理由は、そもそも国交があったから。日本政府よ、いつの間に異世界と。

「ポー姫、日本を知っていたのか?」
「もちろん知っておるのじゃ。我らがイース神聖連合王国とは国交もあるしのう」
(P42)

ちなみに宮崎吾朗さんはイース神聖連合王国を訪問したことがあるそうです。

「余談じゃが、先ほどクラウゼラがやっておった我が国伝統的謝罪スタイルのゲドザ、あれはニホンのアニメ監督がアデルベーンを訪れた際、自分の映画の酷さをあのポーズで謝罪したのが由来なのじゃ。ゲドザのゲドはそのタイトルである」
(P43)

ジャスコよりもジブリにお伺いを立てたほうが良かったのでは……。 

ポー姫はオークから王国を取り戻すため、瀬田家に亡命政府を樹立します。
臥薪嘗胆、姫君は深夜アニメとインターネットにどっぷり浸かった生活を送ろうとしますが、ド田舎がそれを阻む!

「残念だが……お前のiPadは壊れたんじゃない。このへんは携帯電話のアンテナが立ってないんだ」
「な……なんとっ!? そんな、まさか……!!」
「ネット用の光ケーブルも、この平家町には通っていない。ADSLやISDNもだ。NTTの支局が遠すぎるし、そもそもパソコンが一般家庭に普及してない。『人間をダメにする』と抵抗感が強いせいでな」
(P89)

結局、ポー姫はテレホタイムに電話回線でネットを使うことに。
テレホーダイってまだ存在していたんですね。(NTT東日本テレホーダイサイト) 

サブキャラクターも豪華な面子が揃っています。
平家町は平家の落武者が逃げこんで作った町のため、他所から落ち延びてきた者を積極的に受け入れています。
過疎化対策にもなって一石二鳥の政策ですが、『オケラだってアメンボだってみんなみんな生きているんだ友だちなんだ』精神すぎてカオスなことになっています。

「銀河広域軍事帝国ハーストゥール」の権力闘争に敗れたタコ型宇宙人一派。

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「ゴメンクダサイ!今ノハ威嚇射撃デアル!ワレワレハ宮籐サンチニ居候シテイル”銀河広域軍事帝国はーすとぅーる臨時正統政府”ノ者デアル!(略)」
(P72)

アトランティス亡命政府とその守護女神で学園のマドンナ的存在の水神ハイドォラさん。

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「キシャー、シュルルル」
「いや、水神さんがそう言うならいいけどさ……。でも、姫、一言謝っとけよ」
(P104)

彼女を本気でマドンナとして扱っている主人公のSAN値は既に直葬されてしまっている模様。

その他、ドイツからフランスを取り戻すことを目的としている”自由フランス政府”、町外れの”ヴラド派トランシルヴァニア伯爵領”、平家の落武者の生き残りとして平景清もお隣に住んでいます。 
このごちゃ混ぜ空間、素晴らしい! 

衝撃の展開!

平家町のおもしろ地獄絵図が描かれる一方、ジャスコは序盤ではほとんど登場しません。
溜めに溜めたジャスコが、第5章でついに登場!
田舎でオタク趣味を満喫できずに落胆するポー姫に都会の匂いをかがせてやるため、麟一郎はジャスコに連れて行ってやることに。

遠い都会に憧れながらも、しかし緑に囲まれて暮らすしかない哀しき人々――そんな俺たちの心を癒してくれる施設がある。
いわゆる”ジャスコ”。
週末のためのユートピアだ。
(P128)

キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
平景清が運転する軽トラに乗って麟一郎、クラウ、ポー姫の三人は”ジャスコ”に!
しかし、ここで衝撃の展開が発生!

田畑のど真ん中に建つ、白くて四角い巨大建築物――高さこそは三階建てだが、敷地面積がやたらと広く、その周囲をさらに広大な駐車場に囲まれている建物が。
あれこそが”いわゆるジャスコ”。
『あなたの町を街にする』のコピーでおなじみ、ダイナマイトジョニー山端店だ。
(P135)

ダイナマイトジョニー???

これこそが、いわゆるジャスコ。
さっきから『いわゆる』と強調しているが、これはつまり『本物のジャスコではない』という意味だ。別の会社が建てた『ジャスコ的な大規模お買い物施設』。
(P136)

ジャスコじゃねえ!
女騎士さん、ジャスコ行ってねえ!


ジャスコじゃない理由はすぐに明らかになります。

(※ジャスコ関係者の皆様へ:この店はこのあと悪事に加担するため、『本物のジャスコではない』という設定にいたしました。ご了承ください)
(P136)

すごいネタバレの仕方をみた。 

この後もろくでもない展開が続く、素晴らしいバカラノベでした。
なんと続刊のヒキまであります。出るの!?

女騎士さん、ジャスコ行こうよ (MF文庫J)
伊藤 ヒロ
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