僕はネットによくいる、成功しないタイプの人間
—— 前回のお話で、川上さんがいわゆる「オヤジキラー」ではないということはわかりました。でも、鈴木敏夫さんや角川歴彦会長といったオヤジたちと仲良くなれたのは、相性の問題だけなんでしょうか。
川上量生(以下、川上) やっぱり希少性というのは大きな要因だと思いますよ。だって、こういう会社をやっていて、まったく働いてない創業者ってあんまりいないと思うんですよね。
—— ジブリでプロデューサー見習いを始めた当時は、あんまり出社されてなかったんでしたっけ。
川上 当時もそうだし、今もそんなに働いてないですよ。
—— いやいや(笑)。
川上 いや、そうなんです。経営に対する気概もあまりないし……僕みたいな立ち位置で仕事をしている人って、世の中にすごく少ないと思うんですよね。僕と似ているように見える人が、世の中には少ないということです。組み合わせとして少ないという、希少性が本質的な問題なんじゃないかな。
—— すごくシンプルな理屈ですね。それだけで説明できるんですか。
川上 もう少し、人間がどういうときに「似てる」と思うかについて考えてみましょう。例えば、加藤さんと僕って、DNAレベルで99.99%くらい同一ですよね。手が2本、足が2本、目が2つあるところも同じ。でも、「僕たちすごく似てる!」とは思いませんよね。
—— はい。
川上 じゃあ、どういう時に「似ている」と判断するかというと、自分がもっているある形質で、多くの他人が持っていないものを持っている人がいた時に、「あ、似てる」と思うんです。加藤さんの好きなものってなんですか? できればマイナーなもので。
—— ええと、最近そんなにマイナーじゃないですけど、将棋ですかね。一時期、羽生善治さんの棋譜を全対局分並べてみるくらい、はまってました。
川上 じゃあ、将棋がすごく好きで、同じく羽生さんの棋譜をすべて並べたことのある、すごい茶髪の人が現れたとします。そうしたら、髪の色は違っても、加藤さんはその人のことを「自分と似ている」って思いますよね。
—— ああ、なるほど。レアなところが共通していると、似ていると思いやすいんですね。
川上 そう。鈴木さんとか角川会長って、普通に考えれば、今までの境遇や生きてきた世界が違うから、僕と似ているはずがないんです。客観的に、僕らのことを知らない人が見ても、あまり似ているとは思わないでしょうね。でも、鈴木さん角川さんも、そして僕も「似ている」と思う感覚がある。それは何なのかというと、希少性のあるところで共通性がある、と思っているということです。
—— その希少性ってなんなんでしょう。名前が上がっているお二人と川上さんって、かなり特別な存在ですよね。みなさんやはり孤独だということなんでしょうか。
cakesに登録すると、多彩なジャンルのコンテンツをお楽しみいただけます。 cakesには他にも以下のような記事があります。