消費税の増税は中止できる—消費税は廃止すべき悪税—
元静岡大学教授・税理士 湖東 京至
来年4月に8%へ引き上げが予定されている消費税について、元静岡大学教授で税理士の湖東京至氏に意見を寄せていただきました。なお、この文章は2013年6月24日、「消費税率引き上げをやめさせるネットワーク宮城」で行った講演要旨をまとめたものです。
1 消費税はこの世にあってはならない悪税
消費税はあまりにも不公平、あまりにも矛盾に満ちた悪魔のような税金です。ですからこの世に存在してはいけない税金だということをはじめに申し上げたいと思います。つまり私は消費税廃止論者です。消費税を廃止させるためには税率を8%、10%に引き上げさせてはなりません。まず増税を中止させ、やがて廃止にもっていくべきです。以下に消費税がどんなに悪税かをお話していきます。
2 消費税はなぜ際限なく税率を引き上げるのか
消費税タイプの税金をヨーロッパでは付加価値税と呼んでいます。ヨーロッパ諸国はすべて付加価値税を導入しています。なぜならEUの共通経費を賄うため、加盟国は付加価値税収の一定割合を拠出することになっています。つまりEUに加盟するためには付加価値税を導入しなければならないわけです。
EU加盟国の多くの国は付加価値税を導入した時から二桁税率でした。その後どんどん税率を引き上げ、現在の標準税率はデンマーク、スウェーデン、ノルウェーなどが25%、ギリシャ、ポルトガル、イタリアが23%、ベルギー、スペインが21%、イギリスが20%、フランス19.6%、ドイツ、オランダが19%と、高い税率になっています。もっとも、ヨーロッパ諸国は標準税率のほかに福祉、医療、食料品などに軽減税率が適用されています。
なぜこんなに高い税率になっているのでしょうか。一つの理由は政府の財政需要、つまり税収がなければ国の財政が維持できないからです。付加価値税タイプの税金は1%引き上げただけでも巨額の税収を国にもたらします。この理由はわかりやすいですね。
もう一つの理由は後でも詳しくお話しますが、輸出企業に巨額な還付金があるからです。輸出販売は税率が高くなればなるほど還付金が大きくなるのです。そのため、どこの国でも輸出大企業の要求により税率が高くなっていくのです。
こうした事情はわが国も同じです。つまり、一方で税収が欲しいという政府・与党の欲望、一方で財界の還付金が欲しいという欲望、二つの欲望が相俟って消費税・付加価値税タイプの税金は際限なく税率を引き上げていくのです。
3 消費税はなぜ膨大な滞納をまねくのか
所得税や法人税などの国の税金のなかで消費税の滞納発生額は常に第一位を占めています。消費者からすると、「私たちが払った消費税が国にそのまま納められないなんて許せない」と思うかもしれません。たしかに政府・財務省は「消費税は次々と転嫁され最終的に消費者が負担する税金」だと説明しています。だが、この説明はまったくのウソ。消費者と事業者を対立させるためのペテンです。
消費税法にはそもそも「消費者」という文言も、「価格への転嫁」という文言も「預り金」という文言もありません。では消費税は何に課税するのかというと、事業者の売る物や事業者の行うサービス、つまり事業者の年間売上高から年間仕入高を差し引いた額(これを経済学では付加価値といいます)に課税します。ですからヨーロッパ諸国では消費税タイプの税金を付加価値税といい、納税義務者は事業者です。消費者は法律上消費税と無関係の存在なのです。消費税の納税義務者である事業者は売上があれば赤字でも納税しなくてはならず、そのため本質的に滞納が発生しやすい税金なのです。簡単にいえば「赤字でもかかる事業税」のような税金です。
一般に消費税は「モノにかかる間接税」だと説明されていますが、これも正しくありません。消費税はよくアメリカにある小売売上税(州税)と同じ税金だという人がいます。アメリカの小売売上税は小売店でモノを買う消費者が納税義務者で、お店は一個一個の税金を預かってそっくりそのまま税務当局に納めます。いわば透明度の高い間接税です。
これに対し消費税は事業者の年間売上高に5%をかけた額から、年間仕入額の5%を差し引いた額を事業者が納めます。一個一個のモノにかかる税金ではないのです。これは裁判で明確に示されています。この判決内容を主導したのは時の政府です。判決は次のようにいっています。
……消費者が事業者に対して支払う消費税分はあくまで商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有しないから、事業者が、当該消費税分につき過不足なく国庫に納付する義務を、消費者との関係で負うものではない。(東京地裁平成2年3月26日判決。この判決は原告(消費者側)も国側も控訴しなかったため確定判決となっている)。
つまり消費者が税金だと思って負担している3%分(当時)は、税金ではなく物価の一部であって、事業者は消費者から税金を預かったことも、消費者が事業者に預けたこともない、というわけです。消費税は事業者が自分で計算して納める、それだけの税金です。消費税の本質的性質の一端ががおわかりいただけたでしょうか。
4 消費税はなぜトヨタなどの輸出大企業に還付金をもたらすのか
財界は消費税の税率をヨーロッパ並みの20%まで引き上げたいといっています。財界が消費税の税率引き上げに執着する理由は輸出還付金があるからです。消費税の税率が上がれば上がるほど輸出大企業への還付金が増えるのです。私の試算によれば、いまの5%税率でもトヨタ自動車は年間約1700億円の還付金をもらっています(2011年4月〜2012年3月事業年度)。国全体の輸出企業に対する還付金は消費税収の25%、およそ2兆5000億円に上っています(2012年度)。これは完全に輸出補助金といっていいでしょう。
なぜ輸出還付金制度が認められるのでしょうか。政府は「外国の消費者から日本の消費税はもらえないので輸出企業が仕入れの際に払った消費税分を返すだけ」と説明します。ところが輸出大企業は仕入先や下請に実質的にも法律的にも消費税を払ったことは一度もないのです。さきに紹介した判決文をトヨタと下請の関係に置き換えてみましょう。
……トヨタが下請業者に対して支払う消費税分はあくまで商品や役務の提供に対する対価の一部としての性格しか有していないから、下請業者が、当該消費税分につき過不足なく国庫に納付する義務をトヨタとの関係で負うものではない(東京地裁平成2年3月26日判決をアレンジ)。
つまりトヨタが消費税だと思って負担している3%分(当時)は、税金ではなく物価の一部であって、下請業者はトヨタから税金を預かったことも、トヨタが下請業者に預けたこともないというわけです。この判決がいうように消費税は税金ではなく物価の一部だからトヨタは下請単価を堂々と値切ることができるのです。払ってもいない税金、他人が税務署に納めた税金を還付してもらうのは「いわば横領」といってもいいでしょう。
輸出還付金のカラクリは簡単です。消費税は事業者が年間納税額を、[年間売上高×5%−年間仕入高×5%]として計算します。[仕入高×5%]を引く仕組みを「仕入税額控除方式」といいます。この仕組みを悪用し、輸出売上高にゼロ税率をかけます。答えはゼロ。ゼロから[仕入高×5%]を引くためマイナス、つまり還付金が発生するのです。このゼロ税率を考え出したのはフランスで1954年のことです。ゼロ税率による輸出還付金制度はフランスが世界に輸出した恐るべきカラクリです。
前にも述べましたが消費税・付加価値税の税率が上がれば輸出還付金額も増えるわけで、そのため財界が税率引き上げに執着するのです。輸出還付金制度は消費税の不公平性のなかでも最たるものです。
5 医療機関はなぜ非課税で損をするのか、ゼロ税率と非課税の間の不公平
お医者さんの社会保険診療報酬や住宅の家賃、身障者用品などは非課税になっています。そのため患者や顧客から消費税分をもらうことはできません。もらえないのはともかく、仕入や器具の購入費、電気代・ガス代など経費に含まれているであろう消費税分(実は物価なのですが)を還付してもらえないため、非課税がかえって損となるのです。
つまり、ゼロ税率が適用される輸出販売の完全非課税に対し、単なる非課税は不完全非課税(ニセ非課税)であるばかりか、典型的な不公平税制です。それも価格を上げられる業種・業界なら何とかなりますが、診療単価が決められている社会保険診療報酬は税率引き上げのたびに大損することになります。これは消費税にある本質的欠陥です。むしろ軽減税率で課税されたほうが事業者=医療機関は経済的には助かる場合もあるわけです。しかし相手(患者さんや顧客)があることです。もちろん社会保険診療報酬にゼロ税率が適用されれば問題はありませんが、それは他の業界との間で新たな不公平をもたらすことになります。消費税を廃止する以外根本的な解決策はありません。
6 消費税はなぜ景気後退をまねくのか
事業者が消費税分を価格に転嫁できなければ物価が上がらず、消費者にとっては被害がない、つまり消費税は「それほど景気の後退をまねかない」と説明する人がいます。とんでもない間違いです。消費税は消費者に物価として負担を求めますが、なかでも電気・ガス・水道、電車・バス・タクシー、電話などの公共料金の値上げは確実に家計を圧迫します。 給料が上がらず、家計支出が変わらなければ、公共料金の値上げなどによって圧迫された家計は嗜好品、食料品などへの支出を押さえることになります。たとえば外食を控え、本や新聞を買い控え、床屋や美容院の回数を減らす……。それはこれらの物やサービスを提供している商人、事業者の売上減少をまねきます。その結果、自由競争下にあるほとんどの事業者が消費税の増税にたえられなくなり、さらなる滞納が発生します。
滞納激増→倒産・廃業→失業者増大→景気後退となり、アベノミクスがもくろむ経済回復はガタガタと崩壊します。アベノミクスなどはどうなってもかまいませんが、消費税の増税は中小事業者に壊滅的打撃をもたらし、家計の崩壊をまねきます。何としても、2014年4月の8%への引き上げ、2015年10月の10%への引き上げを阻止しなければなりません。
7 消費税はなぜ被災地の復興に逆行するのか
消費税は東日本大震災の復興を妨げます。所得税や法人税は被災者・被災企業に対し何らかの税額減免措置が設けられています。しかし、被災事業者には消費税の納税額の減免措置は一切ありません。その理由は、消費税が間接税で顧客から預かった税金を納めるだけだから、という誤った理由からです。
すでに指摘したように、消費税は単純な間接税ではなく、事業者は自分で納税額を計算し、自分の責任で納める税金です。災害で納税できないときは2年間の納税猶予の措置はありますが、2年過ぎたら納めなければなりません。せっかく事業を復活させたとしても、納税猶予の期限が過ぎた消費税があれば払わなければなりません。そのうえ復活した事業には消費税の納税が待っています。
これが、地域経済回復の足を引っ張ります。このうえ税率が引き上げられれば負担は大幅に増加します。現在でも消費税の滞納率は都市部より農・漁村地区のほうが多いのです。たとえば、宮城県内の各税務署の消費税の新規滞納発生率をみると、仙台中税務署が2.70%、仙台北税務署が3.02%なのに対し、気仙沼税務署が7.56%、塩釜税務署が7.35%、古川税務署が5.50%、石巻税務署が5.49%、大河原税務署が5.49%となっています。これは平成22年度分の推計額ですが、被災後の滞納税額はさらに大きくなるものと思われます。
私は被災事業者に対する救済措置として輸出販売に適用されているゼロ税率制度を提案します。被災地の事業者に対し消費税の納税額計算の際、売上高にゼロ%をかけます。答えはゼロ。そして仕入れに含まれているであろう消費税分[仕入高×5%]を還付します。つまり被災事業者に消費税申告を通じて補助金を出すのです。財源は輸出大企業への還付金を棚上げすれば十分まかなえます。輸出還付金制度をやめ、被災事業者還付金制度に切り替える、こうして復興資金を税制を通じて保証します。世界で初めての画期的救済措置です。
8 消費税の増税を中止させる方法はある、カナダの税率引き下げをみならおう
よく「増税しなければギリシャのようになる」と心配する人がいますが、その心配はいりません。たしかに日本の国債発行残高は平成25年度末には1,000兆円に達しようとしています。ただ、借金のほうだけ見て悲嘆に暮れる必要はありません。日本には借金に見合う財産があるのです。
たとえば、株や有価証券などの金融資産が約500兆円、国有地や建物、構築物や機械などの固定資産が580兆円あります(内閣府国民経済計算部編『平成24年版、国民経済計算年報』)。会社でいえば、貸借対照表のバランスがとれているのです。家庭でいえば、住宅ローンはあるけれど財産として土地や建物があるのです。住宅ローンがあるため「心配で心配で眠れない」という人はいないでしょう。ただ、借金返済の目途がたたないとなれば心配です。
そのためには、これ以上借金を増やさないこと、あるところからしっかり税金をとることです。ないところからとろうとすると滞納が発生します。消費税はその典型です。税金は能力に応じて払ってもらう。これを応能負担原則といいます。幸い日本には払う能力のある大企業や高額所得者がいます。この人たちに払ってもらうのです。
不公平な税制をただす会が毎年行っている「不公平税制の是正による増収試算」によれば、現在の不公平税制を是正し応分の税率で負担してもらうことにより、国税で14兆3千億円、地方税で7兆3千億円、合計21兆6千億円の増収が見込まれるとしています(2013年度分)。21兆円といえば消費税の税率10%にほぼ匹敵する税収です。消費税を増税しなくても財源はいくらでもあるのです。消費税の増税を中止することは財源の面からも可能なのです。要は誰からとって誰に回すかという根本的な考え方を変えることです。
消費税の増税を中止させる外的要因もあります。カナダは1991年に7%で消費税タイプの税金・商品サービス税(GST)を導入しました。カナダは2006年から6%に引き下げ、さらに2008年から5%に引き下げています。なぜカナダは税率を引き下げたのでしょうか。その理由の一つはアメリカからの圧力です。カナダはアメリカと北米自由貿易協定(NAFTA)を結んでおり、またアメリカと国境を接しているという地理的条件もあり、アメリカからの貿易圧力があったと思われます。
理由の二つ目はカナダ国民の猛烈な反対運動です。GSTが導入された1991年のあと最初に行われた国会議員選挙(1993年10月)で同税を導入した与党の進歩保守党は169議席からたった2議席に転落しています。国民はGSTの増税に反対であるばかりか日本の税率である5%に引き下げることを選択したのです。カナダの例は大いに参考になります。
日本が税率を引上げ、やがてヨーロッパ並みの高い税率になることを最も嫌うのはアメリカです。輸出還付金制度を持たないアメリカは日本との貿易摩擦を避けるために消費税の税率引き上げを好ましく思うはずがありません。それはTPPの交渉参加におけるアメリカの強硬姿勢によく現れています。ここに消費税税率引き上げを中止すべき外的要因があるのです。
消費税中止の可能性の最大の主体的要件は、何といっても国民の反対の声です。東京都議会議員選挙でその一端が示されましたが、まだまだ増税反対勢力は大きくはありません。国政選挙でカナダのように増税勢力を引きずり下ろさなくてはなりません。そうすれば消費税増税が阻止できるばかりか、消費税を廃止する展望が見えてきます。悪税はこの世にあってはならないものです。ご一緒に消費税をなくすまで頑張りましょう。
湖東京至氏のプロフィール
1937年(昭和12年) 東京都生まれ
1965年 税理士一般試験合格、税理士事務所開設
1972年〜 以降 毎年税制・税務行政・ヨーロッパの付加価値税制の実態を学ぶため、フランス、ドイツ、アメリカ、カナダなどを歴訪、国際税制の研究を深める。この間、全国青年税理士連盟会長、税経新人会全国協議会事務局長、東京税理士会理事を歴任 1994年4月 静岡大学人文学部法学科教授、静岡大学人文社会科学研究科(大学院)教授(税法担当)
2001年4月 関東学院大学法学部教授、同大学法学研究科(大学院)教授(税法担当)
2004年4月 関東学院大学法科大学院教授(税法担当)
2008年3月 同大学院 定年退職
2008年4月 中野合同税理士事務所所長・税理士 主な社会活動 「TCフォーラム(納税者権利憲章をつくる会)」代表委員 「不公平な税制をただす会」運営委員
主な著書 『消費税法の研究』(2001年1月、信山社、単著) 『世界の納税者権利憲章』(2002年12月、中小商工業研究所、編著) 『日本税制の総点検』(2008年10月、勁草書房、共著) 『税が悪魔になるとき』(2012年8月、新日本出版社)…発売中