ナガコと撮影ギークたち(4)「HIGASIX 後編 feat.正田真弘」

ナガコと撮影ギークたち(4)「HIGASIX 後編 feat.正田真弘」

林 永子
林 永子 (ID273) 公認maker 2014/09/30
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電源ボックスを小脇に抱え、ウィッグにリングライトを仕込んだ天使の衣装、通称「イージーエンジェル」を纏って登場した照明技師のHIGASIX。何の前振りもなしに、いきなりご覧の通りの奇抜な出で立ちで現れた際には度肝を抜かれましたが、結果、リングライトが女優ライトの役割を果たし、いい感じの照明をあてて頂いて大満足です。

さて。衣装もさることながら、行動も謎過ぎるHIGASIX。近しいスタッフによると、飲んだ後は、家でも駐車場でもなく、明後日の方向に帰るそうです。主にサウナに寝泊まりしているとか、高速道路の路肩に止めた車の中で寝ていたとか、ほぼほぼ都市伝説と化したエピソードが満載。そんなHIGASIXの謎過ぎる魅力を、前編( https://media.dmm-make.com/item/1981 )に引き続き紐解いて参ります!

東元丈典aka.HIGASIX
Lighting Director。2005年、GO-SUNSを設立。2007年、照明技師として独立。近年はKIRIN、KOSE、Kanebo、SUNTORY、SHARP、SONY 、Yahoo!等々の広告映像を中心に、ムービーとスチール両者の照明を手がける。昨年はアートディレクターの町口寛氏、原耕一氏により、高橋恭司氏『punctus contora punctum』( http://imaonline.jp/ud/photobook/52e21bf5b31ac93606000001 )と宮原夢画氏『シンケンシラハドリ』( http://www.superlabo.com/catalogue/omp008mm/ )の写真集の表紙撮影に選出された。

所属事務所Volante
http://www.volante.cc/members/takenori_higashimoto/tv-commercial/

ジョージ・クルーニーもびっくり!? 現場に「勝手に行く」シリーズ

—前編の『キシリッシュ』CM以外の作品の話も聞きたいのですが……、まずは『淡麗グリーンラベル』撮影時、ジョージ・クルーニーに「ハロー アイアム ジャパニーズ照明マン」って言ったというまことしやかな噂を検証しようか(笑)。

いや「Gaffer(照明)って日本語で何て言うんだい?」って聞かれたから、「しょうめいぎし!」って言っただけっていう(笑)。

—この照明はどんなコンセプト?

ロスのパラマウントスタジオでの撮影とロケの2パターンがあって、ロケはつやっぽい透明感のある光、スタジオは逆に太陽光の順光で気もちよく一灯ライティング、ということになるのですが……。これ、僕に依頼があって引き受けた仕事ではなくて、カメラマンの正田真弘さんの現場に自腹で行って、勝手に潜入したんですよ(笑)。

—そうだった! HIGASIXといえば、呼ばれてないのに現場に行く男だった! 謎!

「勝手に行く」シリーズは、最初はね、高崎卓馬さんの『ホノカアボーイ』っていう映画の撮影で。10日間くらいだったかな。その後、NY、中国、台湾、ドイツにも行っています。まあ、要は旅行に行きたいだけなんだけど(笑)、どうせ行くなら海外の現場も見たいじゃないですか。特に、アメリカの撮影現場はすごく興味があって。

—すごい行動力だよね。行く先々で待ち受ける出演者も、ジョージ・クルーニーとか、ロバート・デニーロとか、ミランダ・カーとか、豪華だし。

ロバート・デニーロはNTTドコモ『dビデオ』のCM( https://www.youtube.com/watch?v=sN5tfWWTXGU )撮影だったんだけど、カメラマンがフレデリック・エルムスで。ジム・ジャームッシュの作品とか、凄く好きな映画のデヴィット・リン チ『ワイルドアットハート』とかを撮影している有名な撮影監督だった。全編ロケーションだったんだけどNYの映画撮影スタイル、ライティングはすごく勉強になりました。

—勝手に行って、しかも働くんだよね?

そう、勝手に行って、勝手に働く。こないだ『コマーシャル・フォト』を読んでいたら、『グリーンラベル』のスタッフリストに僕の名前が載っていました。勝手に行っただけなのに(笑)。やってみるもんだなって。

—そうやってどんどんチャンスを増やしていくんだ。

いや……、っていうか『グリーンラベル』の時はね、正田さんのスケジュールがミラクルだったんですよ。12月に正田さんと一緒にとある企業CMの仕事をしていたのですが、年明けにロスでの撮影も一部分あって、予算的に僕は現場には連れて行ってもらえないことが決まっていて。日本で撮影したカットの切り返しと、外のシーンをロスで撮影するので、事前に向こうのGafferと使用したライトなんかを報告してプランは伝えたんだけど……、やっぱり、行きたいなぁと。その撮影が1月4日からで、全く別のプロジェクトの『グリーンラベル』の撮影が、偶然同じロスで、カメラが正田さんで、宿泊するホテルも同じで、しかも前日の3日だった。その現場も見たいから、「関係ないけど、もう行っちゃおう」って(笑)。

正田真弘、緊急参戦!「雑誌撮影のスケールを越える」

—って正田ミラクルの話をしていたら、正田真弘がやって来た! ミラクル!

正田:あれ、HIGASIX今日の衣装、ちょっとおとなしめじゃない?

HIGASIX:正装だから(笑)。

正田真弘
1977年生まれ。高校の写真部への入部を機に写真をはじめる。東京造形大学デザイン科を卒業後、スタジオフォボスに入社。スタジオマンを経て、写真家・石田東氏に師事後、ニューヨークへ渡米。2009年、帰国。2008年、International Photography Awardのセルフポートレイト部門において作品"Uneasy Connection"が金賞をおさめ、同作品がアート誌「IANN」に収録され若手写真家として評価を得る。現在は宝島社企業広告、TOYOTA、KIRINなどの広告写真、テレビCMやポートレイトの分野で幅広く活動を続け、クライアントからのオファーに独自のアイデアを加え、洗練された技巧で表現できる逸材として内外から注目を集めている。
http://d-cord.com/shoda/shoda.html

—これまで『キシリッシュ』CMや『淡麗グリーンラベル』のエピソードを教えてもらったんだけど、2人がタッグを組んだ他の作品についてもお話を聞きたいなと。たとえば、雑誌『GINZA』のグラフィックとか。

HIGASIX:『Miu Miu』のグラフィックですね。正田さんからは、光を散りばめてほしいというオーダーがあったので、ミラーを平面的に貼ったフレームを作ってサーチライトで反射させています。

—同じ『GINZA』の歌謡曲特集もとてもロマンティックでいいね。

正田:ベネチア国際映画祭で最優秀女優賞を撮る直前の黒木華ちゃんがモデルです。歌謡曲特集だから、『東京ブギウギ』の笠木シヅ子のイメージでやりたいというオーダーが編集部からありました。ポージングは、Perfumeの振り付けでおなじみのMIKIKO先生で、彼女のダンサーチームが出演してくれています。現場では、編集部から「まるで映画のような撮影ですね」って言われていましたね。

—雑誌としては、かなり規模が大きな撮影ですよね。

HIGASIX:機材量で言えば、トラック1台分違います。

正田:今、雑誌って、減っていく一方じゃないですか。文化として誌面に夢がないのは良くないと思って、素敵な企画の時は徹底的にやりきろうってことで。

HIGASIX:僕も雑誌文化は大好きだから、積極的に参加したい。『BRUTUS』では、ホンマタカシさん撮影の小津安二郎特集で、当時のライティングを再現しています。オープンも室内も全部タングステンのライトを使用して、バーとか、土手とか、『東京物語』の家でのお父さんのシーンとか、実際の小津監督の映画作品と同じシチュエーションで撮影しています。ムービー撮影の再現だったのでかなり大規模な撮影でした。

信頼のおける特殊部隊

—ムービーの時って、照明技師さんががっつり入るけど、グラフィックはカメラマンが自ら調光することの方が多いよね。そこを敢えて正田さんがHIGASIXにお願いしたくなる理由は?

正田:とことん世界観を作り込みたい時に呼びます。HIGASIXは「1」を言うと「10」で返してくれる。感覚とロジックのバランスも絶妙で、チームにいたら本当に心強い存在。粘り強く、諦めずにやってくれるし、ハードワークの労力も惜しまない。仕事に対する姿勢を尊敬しています。

—グラフィックの照明には、どれくらいHIGASIXのアイデアが含まれるの?

HIGASIX:自分から提案することもありますが、基本的にはオーダーがあれば何でも受けます。僕はとにかくカメラマンが優先だと思っているから、それはもう、何でも言うこと聞きます(笑)。一緒にやるというよりは、右腕になっている気持ち。特にグラフィックのカメラマンは自分の光を持っているから、それを具現化するためにどうすればいいかを考えますね。

正田:こっちもけっこう抽象的に伝えちゃうからね。「光を、こう、ふぁーっと」とか。

—感覚をいかに具現化するか。

HIGASIX:正田さんの意図する「ふぁー」を感覚的に分かっている分だけ、難しいのは、それを作る現実的な環境ですね。撮影現場でぴたっとはまることもありますが、創意工夫をしなければなかなか具現化できない。

正田:でも、朝行ったら、俺の「ふぁー」を越えてた世界観が出来ている。

HIGASIX:僕の現場、帰るのがすごく遅いんですよ。アングルチェックの時はガッチリ作らないというか、余裕を持たせるんです。アングルチェックしながら100%作り込んで終わらせ帰るチームもあるけど、僕はざっくり準備をしてから後にじっくり作り込む。早く帰る方が制作会社としては嬉しいとは思うけど、いつも遅くまで作業していますね。僕のチームはプリズンなんで(笑)。

正田:いつも、アングルを決めたら、そこからはHIGASIXの時間。俺は帰っちゃう(笑)。次の日、本番に来ると、すごいものが出来ている。あとね、HIGASIXの照明部は組織がちゃんとしているんです。とても優秀な集団で、SWATみたいな特殊部隊(笑)。だいぶ無理してもらっています。

HIGASIX:いや、無理じゃないけど、正田さんからは「急な無茶ぶり」シリーズがあって(笑)。一番記憶に残っているのは、AKB48『ハートエレキ』のジャケット撮影の時かな。「もしスケジュールあいていたら来てください」って言われて。何も聞かされずに、現場に行ったら、白ホリを「カラーライティングしたい」ってオーダーがあって、でも正田さんが持ち合わせたフィルターだと色味がいまいちだったんで、その場ですぐに業者に発注したり、必要な機材を調達しました。スタジオでソロショットの撮影が進む中、僕はその隣で「どうしよう」とか言いながらグループショット用の照明をスタジオの方々とセッティングしていましたね。

HIGASIX:あ、でも前日に1つだけ、服のドレスコードは「グループサウンズ」だって教えてくれましたよね。

—衣装のイメージと照明を合わせるヒントとして。

HIGASIX:いや……、前日に連絡が来てから、「グループサウンズ」風の服が家にはなくて、お店を回って探したんだけど、やっぱりなくて、結局自前のフリンジのついたジャケットを着ていったら、カウボーイみたいになっちゃって。

正田:俺もがんばって「グループサウンズ」風の衣装を買って、着て行ったんだけど、なぜか、ダサいフォークの人みたいになっちゃって……。

—ちょっと待て。ドレスコードって、照明の参考にするためのAKB48の衣装のコンセプト情報じゃなくて、2人が着て来る洋服のこと!?

正田:そうそう。AKB48が「グループサウンズ」の衣装を着るなら、僕も着るし、「良かったら、HIGASIXも一緒に」って。

—なんでだよ(笑)!

HIGASIX:空気感の共有です(笑)。

正田:あの時、スタジオに着いても、誰もリアクションしてくれなくて寂しかったよね……。この人は普段からこういう洋服が好きな人なのかなって、流されて……。

HIGASIX:ノータッチ……。僕ら2人とも、あの方向性に近づけなくて……。

—だから、なんで近づくの(笑)。

正田:どうせなら楽しもう、と。「俺もいつかはAKBを卒業するんだ」っていう気持ちで撮影していたから(笑)。このジャケ写はとても気に入っているんですよ、ちょっとへんてこで。アートディレクターの木村豊さん(CENTRAL 67)がポーズとかを指示してくれて、ライトはHIGASIXだから、俺、あんまり何にもしてないんだけどね(笑)。

HIGASIXが刑事に扮した『キシリッシュ』CM現場にて。名タッグ!

美しい照明装置のホスピタリティー

正田:あとHIGASIXの照明ってね、建築的に美しいの。空間デザインというか、セットみたい。天井から仕切り用の布を垂らす時も、巨大なオーガンジー、通称ヒーガンジーって呼んでいるオリジナルグッズを華麗に登場させたり(笑)。

—確かに、舞台のセットみたい。映画の撮影現場をフィーチャーした映画っぽい。

HIGASIX:空間はすごく意識しています。天井から布が一枚ぺろんって垂れているよりは、綺麗に整えた方が、現場の空気が絶対的にいい。あと、スタジオの中を撮影上の都合で、暗幕で覆ったり、仕切ったりする時、中が熱くなり過ぎて、演者がつらそうなことがある。クライアントも、外のモニターでは確認できても、実際に中は見えなかったりするから、撮影に差し支えのない範疇のシースルーを用意しようかなと。

正田:気が利いているんですよ。女優さんがその中に入って、気持ちがいいの。女性のお部屋のセットの時に、アロマまで炊いてくれるし。

HIGASIX:ヒガアロマね(笑)。汗臭いから、現場は。

—すごい細やか! ホスピタリティーが半端じゃない!

HIGASIX:最新作はヒガレインボー、幸せな気持ちにさせます。

正田:演者のマインドを作ることにちゃんと貢献しているんです。ほら、HIGASIXにも役者のマインドがあるから(笑)、演者側の気持ちになれる。だから思いやりが行き届いている。

期待の未来は大河ドラマ!

—今後、やりたい仕事や展望はある? こんな現場に行ってみたいとか。

HIGASIX:ひたすらに過酷な現場がいいですね。もう死ぬぐらいの。過酷さってだんだん慣れていっちゃったりするから、今の自分では想像できないくらい、辛ければ、辛いほどいい。100本ノックのような現場って、すごく発展性があって、新しい引き出しがあくんですよね。突然、限界を越えた場所にたどり着くことがある。正田さんも難しいチャレンジを振ってくれるので、どんどん面白くなって来る。この前の『キシリッシュ』も、フィルムレコーディングをネガだけでなくポジにしたり、LEDをたくさん使って、全カットを卓上でオペレートしたり。常に新しいこと、難しいことに挑戦し続けたいです。

—最後に、正田さんがHIGASIXに期待することは?

正田:大河ドラマに出てほしい(笑)。

—まさかの、っていうか、やっぱり、出る方向性で(笑)

正田:ゆくゆくは。っていうのも、仕事だと、僕らはもう1つ1つ目の前にある課題をクリアしていくしかないじゃないですか。だから、先のことって分からないんだよね。明日の撮影をいかに良いものにしていくかしか考えられないし、照明技師のHIGASIXとはこれまで通り一緒に仕事はできる。だからこそ、役者として活動するカードもあってほしいなと。竹中直人さんに憧れて、紆余曲折を経て照明の世界に入るってエピソード(前編参照)から考えれば、役者として活動する機会も、回り回ってもう1回あるんじゃないかな。

—どうする、HIGASIX!

HIGASIX:いつか、正田さんと劇団を作れるようにがんばります(笑)。けっこういるんですよ、業界でも演劇好きな人。普段裏方の人が表に出る業界劇団を作るのもなかなか刺激的ですよね。だから、この場を借りて、劇団員を募りたいと思います!

—きたれ、猛者ども!

編集後記

取材翌日、正田さんから数枚の写真が送られて来ました。タイトルは「今日のHIGASIX」。

(撮影:正田真弘)

この日は、2人がタッグを組む『toto BIG』CMシリーズの三部作の撮影とあり、天空より地上を統べるポーズにも気合いがみなぎっております。

一見奇抜なHIGASIXですが、照明技師としての確かなスキルも、他に類を見ない気遣いも、人々を楽しませる破壊力のある衣装も、すべては彼に備わった天性のホスピタリティーの成せる業であることを、改めて知る素晴らしい機会になりました。

HIGASIXさん、正田真弘さん、ありがとうございました。読者のみなさまにおかれましては、照明の仕事はもちろんのこと、彼が大河ドラマや映画やCMに役者として出演する日を是非、楽しみにしていてくださいね。震えて待て!

インタビュー撮影:池田晶紀(ゆかい)
取材場所協力:モノポール


これまでの連載

ナガコと撮影ギークたち(1)「片平長義 前編」
https://media.dmm-make.com/item/1205/

ナガコと撮影ギークたち(2)「片平長義 後編」
https://media.dmm-make.com/item/1385/

ナガコと撮影ギークたち(3)「HIGASIX 前編」
https://media.dmm-make.com/item/1981/

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