「72時間の壁」を逆利用する安倍晋三と自衛隊の不作為と二重思考

救助活動2日目の昨日(9/29)も、その活動の中味は一昨日と全く同じく空虚なものだった。総勢400人態勢で捜索・救出を行いながら、午後1時半に早々と活動を切り上げている。昨日の成果は、たった8人をヘリで下まで搬送したことと、新たに5人の心肺停止者を発見したことだけだ。400人の自衛隊・消防・警察で、1日でわずかこれだけの実績しか達成できないのか。昨夜のテレビ報道と今日の朝日の紙面は、この無内容な「救助」活動の言い訳ばかり並べている。硫化水素ガスの濃度が高くて危険だとか、火山灰が膝まで積もっていて歩きにくいとか、水分を含んで泥状になって滑りやすいとか。言い訳コピペばかりだ。広島の土砂災害を思い出すではないか。同じことを言っていた。捜索・救助は雨で難航している。予想以上の土砂に阻まれて先に行けない。重機を入れられないので作業できない。あのときも、2日目、3日目と全く不明者を発見できなかった。土の中から掘り出せなかった。72時間を無為に過ごした。広島のときと同じだ。陰謀論の誹りを恐れず、正直に恐ろしい仮説を言えば、これは国が意図的に不作為をやっている。生存率の「72時間の壁」が、今は当局によって逆の意味で使われていて、72時間以内に救出しなくてはいけないのではなく、72時間を過ぎてから遺体を回収する、の意味になっている。オーウェルのダブルシンク(二重思考)になっている。焦眉の72時間は、わざと怠慢に時間を稼ぐのである。 

「救助活動をやっている」アリバイの絵をマスコミに撮らせ、「活動難航」の言い訳をマスコミに撒かせ、実際は何もせず、72時間のタイムラインを越えさせるのだ。72時間を過ぎれば、生存率の論理でそれは絶望として諦められ、自然な事故死として世間に認められる。納得される。国に責任が問われることはない。もし、72時間以内に、現場で倒れている意識不明の者を救助・回収し、病院に搬送したとすれば、その遭難者が死んだとき、救助に関わった者の何らかの責任が問われる可能性がある。もっとこうしておけばとか、何でこう応急処置をしてくれなかったのかとか、どうしてこの病院に運んで救急蘇生をしてくれなかったのかとか、不手際や過失を遺族やマスコミに責められる可能性がある。72時間が経過してしまえば、それは言わば平板な遺体として扱うことができる。だから、自衛隊が作業と広報を仕切っている今回の救助隊は、心肺停止の者をヘリで敢えて下ろさないのである。確実に即死者として断定できる者だけを選び、ヘリで運んで死亡認定させているのだ。72時間、現場に放置するのだ。初動の救助を不作為するのだ。「72時間の壁」は、国の災害対策行政によってダブルシンクで操作され機能している。安倍晋三が災害発生時にマスコミの前で言うところの、「自衛隊に救助に全力を挙げるよう指示した」の言葉も、これもダブルシンクである。真実の意味は、「自衛隊は救助のフリだけでして何もするな」だ。マスコミ報道に列挙される「言い訳」は、当局の不作為の正当化に他ならない。

これは極論だろうか。陰謀論だろうか。穿ちすぎの過剰な悪意の政府批判だろうか。私はそうは思わない。まず、火山ガスの言い訳の問題から反論しよう。一昨日(9/28)までは、「強い硫黄臭」とプリミティブに表現していた。昨日(9/29)から急に、尤もらしい科学的合理性の説明を補強し、念入りに「有毒ガスの危険性」を強調してプロパガンダするようになっている。今日(9/30)の朝日の紙面記事は、その言い訳の代筆ばかりでびっしり埋められている。ところが、この言い訳が、無理に数字の裏づけで説得工作を始めたために、何やら逆に矛盾が露呈して破綻する形になっている。語るに落ちると言うか。具体的に見てみよう。朝日の1面の見出しには、「山頂捜索 有毒ガスが阻む」と大きく打たれている。1面の記事には、「約400人態勢で捜索・救出を再開したが、山頂付近で有毒な硫化水素ガスの濃度が上がったため、29日午後1時半すぎ、活動打ち切りを余儀なくされた」とある。2面を見よう。「捜索 有毒ガス基準値越える」と見出しが示され、記事には次の具体的な記述がある。「長野県警と自衛隊の指揮官は安全性に最大限配慮し、呼吸障害などの原因となる硫化水素の濃度が1ppmを超えれば、作業を中断すると決めていた。心肺停止状態となった人が多く見つかった山頂の神社付近では、検知器で絶えず濃度を測りながら活動。29日中は午前中に3回、1.3-1.4ppmを検出して作業を中断した。昼過ぎからは常時2ppmを上回り、作業は打ち切られた」。このように数字で根拠を示している。

ところが、同じ2面の下に、関連する囲み記事があり、そこにはこう説明しているのだ。「宇井忠英・北海道大名誉教授(火山地質学)は、『火山ガスの中でも二酸化硫黄は特に危険だ』と話す。鼻をつくような刺激臭があり、10ppmでせきが出るという。『さらに濃度が高くなれば、死に至ることもある』と指摘。卵の腐った臭いの硫化水素も同様に危険で、100ppmを超えると生命の危機につながるという」。救助隊が下山の根拠にしたのは、1ppmから2ppmの硫化水素であり、宇井忠英によれば、硫化水素は二酸化硫黄よりも危険度は小さい。仮に両者が同じとして、せきが出る濃度が10ppmだ。1ppmで作業中断という今回の基準は、一体どのような医学的知見から持ってきたのだろう。昨日の記事でも書いたように、最も火山ガスの濃度の高い山頂の神社の台座で、女性は横たわりながらもへリに手を振っていた。噴火発生から約24時間後のことである。しっかり生存しているのだ。現場の火山ガスの「有毒性」の実態は、せいぜいその程度であり、1人の女性を24時間その場に滞在させても生命に危害は与えない。山頂は何の遮蔽物もない空間で、風が吹き、大気はよどみなく流れていて、室内のようにガスが充満する条件はない。多くの遭難者が助かったのも、最初の一撃の火山ガスは濃度も熱気も人体の生存に過酷な脅威だったけれど、そのとき巧く呼吸器をガードすれば、噴煙がすぐに収まり、その後は特に危険なレベルではなくなったからだ。自衛隊が硫化水素濃度2ppmで下山するのは、本当に妥当で適正な基準値なのだろうか。

1面の記事中には、「同行した化学科の隊員の意見を受け、二次災害を防ぐために消防と協議。午後1時半過ぎに捜索を打ち切った」とある。「化学科」というのは、自衛隊の化学科のことだ。つまり、自衛隊の方が先に打ち切りを言い出し、消防がそれに応じたという事実経過になっている。分かりやすい。現場の消防隊員は、もっと救助活動を続けるべきだと主張したのだろう。「化学科の隊員」は、安倍晋三と菅義偉の(極秘の)指示を受けて、アリバイの根拠を作るために同行しているのだ。この「救助活動」がどうして遅々として進まないのか、「心肺停止」の実態は何なのか、山頂付近の現場で何があったのか、その真相を一瞬で直観させる情報が、昨夜(9/29)の報ステの中で紹介された。3人の仲間で登山して、うち1人の女の子が被害に遭った話だった。9/27正午の山頂付近、噴火で飛んできた大きな岩石が女の子に当たり、片方の足がちぎれそうになるほどの大怪我を負った。2人の友人は彼女を介護し、山頂から携帯で109番や110番に電話して、すぐに救助に来て下さいと要請した。状況を説明して何度も必死に懇請したけれど、電話の向こうからは、今はそちらへは行けませんという拒否の返答ばかりだったという。その場に3時間半、2人は女の子を励まし、声をかけ、救助要請の電話をかけ続けたが、女の子は元気がなくなり、最後に母親と話したいと言い、携帯で母親と会話し、やがて意識が途切れて行った。2人は女の子をその場に残し、泣く泣く下山した。胸が詰まる。

これが事実なのだ。いろんなことが分かる。第一は、最初の噴火の一撃の後は、火山弾にせよ、火山ガスにせよ、現場はまずまず安全な環境になったのである。だから、2人の友人が3時間半そこに付き添うことができた。第二は、御嶽山の山頂は電話回線が通じているということである。携帯(スマホ)でどこにでも自在に連絡ができ、実際に、古館伊知郎が紹介した上のケースだけでなく、山頂付近のそこかしこで、同じように、一緒に登山した仲間の中で無事だった者が、不運にも重症を負った者を助けようとして、警察や消防に懸命に電話をかけまくっていたということだ。つまり、警察と消防は、山頂からのこうした電話を多く受け、9/27の噴火直後から、きわめて詳細に現場の状況を認識できていたということだ。そこから推理することができる。恐ろしい「72時間の壁」のダブルシンクの仮説を論証することができる。まず、政府当局は、こうして現場から寄せられた非常電話で、どれだけの負傷者がどこにいたかを、きわめてリアルタイムに、そして正確に把握していたということだ。怪我の原因も、その程度も、人数も、電話からの情報収集で押さえていたということだ。また、現場の状況についても、安全かどうか判断できていた。すなわち、そうした情報を分析して救助当局の責任者が意思決定すれば、現場にヘリで直行することは可能だった。それが可能な状態だったからこそ、2人の友人は諦めずに救助を懇願をしたのだ。消防と警察が直行しようと思えば、自治体の現場の決断でそれが可能だったなら、すぐにヘリで救助に飛んで行っただろう。

誰かが、それを制止しているのである。政府の上の方で、消防と警察を束ねるトップのところで、要するに官邸で、今日(9/27)は行くな、動くなという指示が下されているのだ。9/27の午後は様子見となり、「救助部隊」の態勢整備に費やされ、翌日(9/28)に370人が下から山頂に向かう。自衛隊員は重い防弾チョッキを着せられ、わざと時間をかけるようにさせられた。時間を浪費するアリバイ工作に利用された。9/27の当日、現地の消防や警察から状況報告を聞き、行くなと指示したのは、安倍晋三と菅義偉だ。「72時間の壁」を逆利用し、助かる者の命を助けず、見殺しにする意思決定をしたのは、安倍晋三と菅義偉だ。なぜ、そんなことをしたのか。見殺し策を選んだのか。それは、広島の土砂災害の「救助」活動の始終を鑑みて洞察できる。答えは明確だ。災害被害を自己責任にするためである。政府は助けない。自助しろということだ。助けるポーズはする。タテマエでは救助を大言壮語し、自衛隊に全力で救助させると宣伝する。しかし、実際の行動は逆なのだ。救助せず、見殺しにし、サボタージュするのである。地震にせよ、津波にせよ、洪水にせよ、土砂崩れにせよ、噴火にせよ、国民が重大な自然災害に遭ったときは、自力で脱出し、自力で生命を守れと、そういうホンネの政策方針を示唆しているのである。安倍晋三にとって、自衛隊は国民を災害から守る部隊ではないのだ。中国と戦争する自分の軍隊である。私的なフォース(暴力装置)なのだ。だから、このリソースは国民の命を守るためには使わない。出動させない。そんな公共的な任務には従事させない。

弱者は死ねということだ。もし、この噴火と災害が小渕内閣(1998-99)のときに起きたものだったら、官房長官の野中広務が、即刻決断し、当日の午後1時すぎに、ヘリでの電撃救助作戦を指示していただろう。現場で片足を失い、2人の仲間に見守られ、午後3時半に意識不明になった女の子は、レスキュー隊員に引き上げられ、救急搬送され、一命を取りとめたかもしれない。心肺停止者にされ、そのまま放置される運命にはならなかっただろう。最後に2点、昨日(9/29)の記事で、朝日の紙面から「43名の行方不明」の情報が消えた点に注意を向けたが、今日(9/30)の朝日の紙面でも、やはり行方不明者について言及がない。が、消えたと思われていた行方不明者は、昨夜(9/29)のテレ朝とTBSの報道で復活し、41名が行方不明と伝えられた。この問題も、何か闇が深いというか、疑惑を禁じ得ない。もう一つ、一昨日(9/28)まで王滝村に置かれていたはずの災害対策本部が、昨日(9/29)から木曽町に移動していた。その理由については特に説明がない。些細なことには違いないが、裏で何が行われているか分からず不気味だ。長野県警と自衛隊が仕切るという表向きで、実質的に自衛隊が仕切り、その裏で具体的指示を出しているのは官邸だろう。広島のときと同様、災害対策本部の正式な会見なり発表が、一切マスコミの表に出ない。広島のときは、災害対策本部長は広島市長で、72時間を過ぎた頃から顔を出すようになった。今回、災害対策本部長は誰なのか。どうして会見がないのか。どうして「救助活動」の報告や質疑応答がないのか。マスコミで報道されないのか。何もかも不思議でならない。

現時点で31名の犠牲者と41名の不明者、その数はさらに増えるという、とんでもない大規模災害なのに、対策を担当している現場責任者が顔を出さず、正式な会見も発表もない。自衛隊が新聞記者に対応し、都合のいい言い訳を並べて記事に書かせている。恐ろしい。中国や北朝鮮と同じ国だ。
 


by yoniumuhibi | 2014-09-30 23:30 | Trackback | Comments(4)
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Commented by wildbones88 at 2014-09-30 20:03
安倍晋三は「過去の失敗」を認めません。そのために、「過去の失敗」をあえて繰り返し、「デフォルト化」してしまうのです。最初の失敗は今年の2月、山梨県の大雪です。あの時の政府の対応は完全に失敗、安倍晋三は「天ぷら野郎」と揶揄され、その件がよっぽど頭に来たのだと思います。次が広島でした。あの時が最初の「デフォルト化」、そして今回…。広島の時もそうでしたが、今回も地元消防、警察の対応は早かったけれど、自衛隊が来てから、急にペースが落ちました。報道ヘリも飛ばなくなりました。自衛隊の人員、装備も全くの不足、安倍晋三の「デフォルト化」による見殺しだと思います。
Commented by haku at 2014-09-30 21:52 x
「戦争する組織」に衣替えしようとしている自衛隊は、実際その動作が劣化しているのかもしれない。
戦場では人命や装備の損害を最小限にすべきであるものの、ゼロにしなければならない訳ではない。戦闘において極端な環境条件ではそもそも戦いにならない。要するに戦場はできれば無理すべき場所ではない。一方、災害派遣の現場では被害者も救助者も生命を損なってはならない。極端な条件でぎりぎりの行動をする場合もある。活発に噴火するごく近傍での救助という、滅多にない厳しい条件において、いくら訓練された自衛隊といっても、事前に演習を繰り返していないと機動的に動けないとも思える。さらに、「戦う組織に」と示唆されながら、実際腹を括れと言われている訳でもない、なんとなく宙ぶらりんの状態で、隊員の肚はいったいどこに座ればいいのか。
今回、政府のあるまじき関与があったとは思いたくないが、現首相の態度が図らずも国民が一定の信頼を寄せる組織に由々しい劣化をもたらしているとしたら、大きな問題だと思う。
Commented by ijkl at 2014-09-30 22:22 x
「安倍晋三にとって、自衛隊は国民を災害から守る部隊ではないのだ。中国と戦争する自分の軍隊である。私的なフォース(暴力装置)なのだ。だから、このリソースは国民の命を守るためには使わない。弱者は死ねということだ。」

新しい公共の標準は、このフレーズに尽きますね。ここまで劣化した救助の時代、政府の時代に生きている我々は不幸だと思います。被災したら死ぬのを待つのみということになりますから。ここでの被災は、文字通りの被災以外に、社会的な被災(解雇やDVなどで片親になってしまうこと)なども含まれます。いずれにしても最後は、日中戦争での爆撃の対象になることを覚悟しないといけません。
Commented by tokyoletter at 2014-09-30 23:40 x
災害を利用した軍隊式トリアージ演習が優先され、避難人命救助が後回しにされているように思いました。自然災害との闘いは、政治権力の象徴であって、それをないがしろにしている政権は早くつぶれるのが必至。小渕内閣だったらのくだりに、うなずきました。砂防会館が権力の中心であった時代が懐かしいです。
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