疑惑だらけの御嶽山救助活動 - 安倍晋三と自衛隊のウソと言い訳

木曽の御嶽山。民謡にも歌われている名高い山で、日本百名山にも選ばれている立派な山だが、御嶽山がどんな姿形の山か、きっとイメージを持っている人は少ないだろう。あらためて写真を見ると、実に秀麗で神々しく、風格と威厳のある見事な山容であることを確認できる。Wikiでは独立峰だと紹介されているが、一峰が屹立する円錐形の山ではなく、むしろ立山や八ヶ岳のような連峰型の台形の容姿をしている。この美しい名山の絵柄が、私も含めて一般の人々の通念にないのはどうしてかというと、写真や映像が多く出回る機会がないからである。なぜ、名前の割に写真や映像が出回ってないのだろうかと想像すると、おそらく、山の全景をきれいに構図にできる撮影ポイントが限られているからだろう。かなり山に接近した特別な地点からでないと、その美しい姿を一望することが難しいから、日常のテレビ番組やマスコミ報道などで目にする機会が少ないのだ。中央本線の特急しなのに乗ると、一瞬だけちらっと、車窓から御嶽山が見える通過点がある。車で東京に戻るとき、帰りは気分を変えて山の中を走ろうかと、名古屋から左に折れて山岳地帯に入るが、中央道から御嶽山の姿を拝んだことはない。左右を高い山脈に挟まれて走る細長い高原の道で、きれいに眺められるのは駒ヶ岳である。地上からは、旅人はなかなか簡単に御嶽山にアクセスできない。ところが、御嶽山がよく見える旅のルートがある。飛行機の窓からよく見える。

羽田から西の方向に飛ぶとき、北アルプスの屏風のような峰々はよく見えるが、その手前に、黒い山が雲の上に顔を出している。航路を案内する機内誌の日本地図の中に、▲マークを付して山の名前を書き入れているのは、機内からよく見える山で、パイロットの航行上の目印でもあるのだろう。全国的に行楽日和だった土曜日(9/27)、噴煙を上げる御嶽山をヘリから撮ったテレビの映像は、噴煙以外は飛行機から見る姿と同じで、いつもの山頂だけが雲の上に出ているものだった。午後、NHKのニュースを見ていたら、安倍晋三が官邸でぶら下がり会見をやり、救助のために自衛隊の派遣を指示したと言っている場面が流れた。私の記憶では、それは午後3時頃だったと思うが、ネットの報道記事で確認すると、NHKでは午後5時前になっている。首相動静の情報を見ると、安倍晋三は午後4時すぎに羽田着になっていて、会見が午後5時前だったことが裏づけられる。あれ、勘違いだったかと思っていたら、時事が午後3時35分に発した記事が残っていて、そこには「安倍首相、救助と安全確保指示」と見出しされていた。この時事の日付時刻が間違いということだろうか。官邸に入る安倍晋三の映像を見たとき、あ、もう帰ってやがる、ずいぶん早いお帰りだなと思ったものだ。まさかとは思うが、もし、時事のタイムスタンプと私の記憶の方が正確であったならば、1日前の首相の行動と発表について、壮大な「1984年」的改竄が行われていることになる。杞憂だろうが。

この件で不審に感じるのは、毎度のことながら、自衛隊の災害救助の問題であり、特に、安倍晋三と自衛隊の災害救助との関係である。この疑惑については、広島の土砂崩れ災害について書いた記事でも執拗に指摘した。安倍晋三は、マスコミのカメラの前では、災害救助への自衛隊派遣の指示を前面に押し出し、それをテレビのニュースと新聞記事で大きく報道させる。自衛隊に救助派遣を命じたと、その映像をテレビで流させ、マスコミの記事の見出しにして報じさせる。広島の土砂災害のときも、あれはゴルフを渋々中断して、河口湖の別荘から官邸に一時的に戻ったときだったが、自衛隊を500名の規模で派遣すると言い、その点を強調した発表をマスコミに報道させていた。安倍晋三のこういう場合の発表は、自衛隊の災害救助を強調し、最高指揮官として自衛隊を使って被災者を救助するということをアピールして印象づけるためのものだ。その点を意識的にやっている。そのことで、自衛隊の存在意義を国民に宣伝し、また同時に、自衛隊が総力を上げて救助に動くから大丈夫だと、国民に安堵を与える意味のメッセージ発信が企図されている。自衛隊が助けに行くから任せろと、俺が自衛隊に指示したぞと、いつもそういうメッセージを誇張してマスコミで撒いている。「自衛隊」にアクセントが置かれている。江川紹子は、その胡散臭さに敏感に感づき、おそらく以前から神経質になっていたのだろう。9/27夜に、Twでその問題意識を吐露し、右翼から叩かれる騒動が起きていた。

江川紹子の批判は、安倍晋三の軍国主義に対する警戒感としては理解できるけれど、災害救助の方法論としては私は全く逆の認識と立場であり、今回のような災害こそ、自衛隊が大規模かつ迅速に出動すべき案件だったと考える。広島の土砂崩れのときも、自衛隊のヘリが安佐南区の奥に飛ばず、工兵(重機と土木工事の部隊)が機動的に出動しなかった点が疑問だった。今回、救助しなくてはいけない遭難者は、3000メートル級の高い山頂近くに数十名、あるいは百名を越える規模で発生している。これを素早く発見して救助となれば、当然、ヘリ主体で上から攻めるという計画立案になるだろう。ヘリを5機10機と機動的に飛ばし、レスキュー隊員と備品を降ろし、倒れている遭難者を引き上げて運ぶ、ヘリでのピストン救助と空輸、そうした電撃速攻のプロジェクトが設計考案され、瞬時に採択され発動されるのが当然で、東京消防庁のレスキュー隊と連携して、大規模なヘリ作戦を敢行するのが適当だったと思われる。災害発生(噴火)が9/27の正午前。時間的には、十分にその日の午後にヘリを飛ばし、山頂付近の遭難者を発見、回収、搬送することが可能だった。噴火がマグマによるものではなく、水蒸気性のものであることは、噴火発生後すぐの時点で、名古屋大(地震火山研究センター)の山岡耕春がNHKの臨時ニュースの中で解説していた。名大の理学・工学部は優秀である。つまり、この後も連続して大きな噴火と火砕流が起こる可能性は小さく、一回かぎりの爆発だと分析・診断した。

であるならば、その専門家の科学的知見を根拠に、自衛隊は果敢に出動してよかったのである。空からの救助行動に即刻動くべきだった。山頂付近に数十人が倒れている情報は、山頂小屋に避難した者から9/27のうちに連絡が入っていたのだろう。が、9/27(土)夜の報道では、これほど大きな災害になるという伝え方はされておらず、犠牲者は7名ほどで、不明者がまだ若干いるけれども、他の登山者はほとんど自力で下山したか、山頂の山小屋に避難して無事だという説明だった。9/28(日)の午後になって、いきなり31人が心肺停止というニュースがネットに上がり、それを見て愕然とさせられる。前日(9/27)分と合わせ、40人近くが犠牲になったということではないか。9/28の午後6時前には、31名の心肺停止に加えて43名がなお行方不明という情報が出た。カウントすれば80名以上になる。広島の土砂崩れの犠牲者は74名。9/28夜のテレビ報道の空気は、9/27とは一転して重々しいものになった。一夜明け、本日(9/29)の朝日の紙面を見ると、43名の不明の情報は消えている。長野県警が訂正したか、安否が確認されたのだろう。さて、問題は、昨日(9/28)の捜索と31名の心肺停止の件だ。朝日の1面記事では、「死亡4人、心肺停止27人」と大見出しになっている。死亡の男性4名は、警察と消防が山のふもとの小学校まで運び、そこで(医師によって)死亡確認されている。自衛隊のヘリは、山小屋にいた20人の救助に使われていて、心肺停止の27人の救出・搬送には使われていない。

心肺停止の27名について、現場にそのまま放置したまま、彼らは下山している。これは、国民としては唖然とさせられるのではないか。最高司令官である安倍晋三は、災害発生直後に、自衛隊の総力をあげて救助すると明言しているのである。実際、昨日(9/28)、どのような救助活動が行われたのか、朝日の社会面(37面)に記事があるので、長くなるが引用しよう。「御嶽山の噴火から一夜明けた28日、山中に取り残された登山者らの救助は難航した。自衛隊や警察、消防などは、長野県側だけで21人を救助。ただ、灰に埋もれ、心肺停止した人々を確認しながら、強い硫黄の臭気に阻まれ、多くの搬送が断念に追い込まれた。長野県側の捜索ルートは、黒沢口登山道(木曽町)と王滝口登山道(王滝村)の二つ。早朝、計367人態勢で頂をめざした。王滝村役場の対策本部で指揮を執った陸上自衛隊松本駐屯地第13普通科連隊の田中浩二第1科長によると、隊員らは防塵ゴーグルと防塵マスクをつけ、噴火に備えて防弾性のあるヘルメット、防弾チョッキを着用。通常の災害派遣時をはるかにしのぐ重量だ。入山後、救助隊から『足場が険しい』『視界が狭い』との報告が入った。山頂付近は灰が50センチほど降り積もり、水分を含んで泥沼化した場所もあった。ふもとは晴天、山頂付近は強風で灰が舞い上がっていた。途中に遭難者がいないかを確かめつつ、足元にたまる有毒な火山ガスを検知しながら慎重に歩く。普段なら8合目まで2時間ほどの行程に、3時間40分ほどかかったという」。

「救助隊は正午ごろに山頂付近に着き、ヘリでの捜索と連携。山小屋などにいた登山者計20人をヘリでつり上げるなどして救助した。歩けない人は、担架で灰の少ない場所へ運んだ。灰に埋まって動かない複数の人を発見したが、硫黄の臭いがきつく、これ以上の活動は危険だとの報告を受け、救助は見送った。午後1時半以降、順次下山を開始。田中科長は『厳しい条件の下、救助を求める人を優先せざるを得なかった。まだ生存者がいるかもしれず、29日も全力を尽くす』。両方の登山口には、戦車型の装甲車5台が待機、気密性が高く、ガスや粉塵に強いため、急な噴火時の避難先になるが、28日は本格的な活動機会がなかったという。(略)捜索は岐阜側でもあり、県警の山岳救助隊や医師ら計25人が登山者の救助にあたった
」。この朝日の記事は、要するに、無為無策で何もしていない自衛隊の言い訳の弁を記者が代筆してやったものだ。山頂に登るまでに、通常の倍の3時間40分かかったという説明は本当だろうか。本当に早朝から出動したのだろうか。その記事のある37面に、朝日のヘリから撮影した現場の救助作業の写真が大きく載っている。山頂付近の傾斜のあるガレ場で、全部で23人ほどの男たちが作業している。最も多いのは、オレンジの制服を着た消防隊員だ。14人いる。そして、ブルーの制服を着た県警の隊員が5人いる。写真の左側に、自衛隊員らしき姿が4人ほど見える。ブルーの県警の隊員たちは、地面に横たわっているであろう遭難者に屈み込んでいる。

これは、心肺停止の医学的判断をする法的権限とか役割の問題だろう。警察がカバーする任務なのだ。作業者の数は圧倒的にオレンジの消防が多い。今回、王滝村の対策本部では、自衛隊(第13普通科連隊)の現地幹部がマスコミ対応を仕切っている。まさか、この男が対策本部長なのだろうか。写真をよく見て欲しい。消防と県警の隊員は、防弾チョッキなど身に着けていない。いつもの災害救助の服装だ。朝日の記事では、重い防弾チョッキを着用して出動したために、登山に時間がかかったという説明になっている。消防と警察の隊員はそんな重装備ではなく、この説明は当たらない。一体、救助に赴いた367人のうち、消防と警察と自衛隊はどういう比率なのだ。朝日の記事では、現場の硫黄の臭気が強かったためという理由で、午後1時半でその日の捜索を打ち切っている。これは事実なのだろうか。疑念を覚えるのは私だけだろうか。心肺停止の判断をした対象は、全部で31名だ。正午に到着し、1時間半で31名の心肺停止を判断している。そのうち、4名を警察と消防がふもとに運搬した。何名がかりで31名の心肺停止を判断したのか不明だが、相当に素早い活動だと考えられる。問題は、午後1時半以降の時間で、その時間に、ヘリに遭難者を上げることはできなかったのか。あるいは、硫黄ガスと灰の少ない場所に移動させることはできなかったのか。どう考えても、1時間半で作業を切り上げるのは早すぎる。警察や消防は、王滝村の災害対策本部長は、本当に彼らの判断で午後1時半での作業打ち切りを決定し、指示したのだろうか。

安倍晋三(官邸)が決定し、現地を仕切らせている自衛隊(科長)に指示したのではないのか。産経の報道では、9/28の午前11時半に撮した写真で、山頂付近の石の台座に寄りかかって救助を待っている女性の姿がある。この女性は、まる一日、この場所にいたのだ。レスキューが救助活動もできないほど硫黄ガスが有毒で危険なら、この女性はとっくに死んでいないといけない。自衛隊の発表は真っ赤なウソだ。不作為ではないのか。



by yoniumuhibi | 2014-09-29 23:30 | Trackback | Comments(3)
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Commented by あつい at 2014-09-29 22:17 x
なるほど、そういう経緯ですか。

ちょっと話がそれますが、片山さつきがまた妙なデマを流していたようですね。
噴火被害は民主党の仕分けのせいだと印象づけるような。

あっさり論破されたようですが、ネトウヨ達もそれを拡散しまくったので、またデマ被害が出ますね。
 
Commented by 梅子 at 2014-09-30 07:27 x
デマについて、そもそも民主党は三年しか与党をやってなかったし、その間東日本大震災やらあれこれあったし、自民党が与党に返り咲いて2年も経つと言うのに、何かがあるたびに「あれは民主党がやったこと」と開き直る(しかもデマ)不誠実な政権。おまけにそんな政権を6割の国民が支持。
先日アメリカの態度が最近変わったと書きましたが、アメリカ(と言わずどこもそうでしょうが)自国に友好的であれば、内政には干渉しないのが当たり前です。例えばサウジアラビアなどは人権のじの字もないサウド家による独裁国家であるが、そんなことは外国には関係ないことであり、その国の民がそれでよければ他国がとやかく言うことではない。安倍政権の場合、日中戦争太平洋戦争の正当化を図っているようなので、その点はアメリカとしては看過できないところではあるが、日本人の多くが支持しているのなら大人の態度を示すしかない、おまけに集団的自衛権でアメリカの役に立ってくれそうだし、というところでしょうね。行くところまで行くかもしれない。
Commented at 2014-10-01 00:46 x
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