まず金額面。昭和40年代に主流を占め、「どてらい男」などを収録した「2インチ(約5センチ)・オープンリール式VTRテープ」の価格は、60分で当時10万円程度したそうです。仮に、60分ドラマ1本を制作した場合、テープ代だけで100万円かかったとの証言もあります。幅約5センチのリールですから、保管に場所が必要なことも「保存」を遠ざける要因だったかもしれません。
在阪局では、読売テレビが制作した、同じく花登氏作品「細うで繁盛記」(昭和45~46年放送)もやはり第1話と最終回しか残っていません。ABCが昭和33~平成2年に放送した「部長刑事」が60本残していたのは珍しいといえます。実は「どてらい男」も当初、関テレには2本しかなく、山善関係者らの協力で何とか形にしたのが実情。在京キー局もほぼ同じとみていいでしょう。
こうした流れは、持ち運び便利なカセット式の「1インチ」「β-カム」「D2」と呼ばれるテープがテレビ局で主流を占める昭和60年~平成元年あたりまで続きます。現在は、60分ドラマにかかるテープ代は数千円に過ぎません。
さらに、保存を遠ざけた要因として「著作権の曖昧さ」があります。当時のテレビ界には、現在のように著作権について明確なルールはなく、手続きも繁多なため“放送・再放送1回ずつで終了”というのが常識でした。