相続税改正で中古価格が下がる!?大半は売却する可能性 マンション業界の秘密
住宅地の地価が6年ぶりに上昇したというニュースがあった。アベノミクスによる景気浮揚感が、不動産価格を上昇させているのだろう。
しかし、地価が継続的に上昇するには、何よりも景気が良くなって不動産に対する需要が増えなければならない。足元の景気を見ていると、どうも心許ない。今回の上昇は一時的なものだと考えるべきだ。
地価が下がる材料の方がいろいろある。第一に人口が減っているわけだから、住宅に対する需要は必然的に細る。にもかかわらず、住宅は余っている。現に地方や大都市郊外では、地価が継続的に下落している。
平成27(2015)年からは相続税が改正される。基礎控除額が「5000万円+1000万円×法定相続人の数」だったのが「3000万円+600万円×法定相続人の数」になる。
これまでは不動産の評価額が1000万円で現金5000万円、法定相続人が3人だった場合、相続税はかからなかったのが、改正後は単純計算で、1200万円分に対する相続税が発生する。
現金や株式などを5000万円程度所有している人は、かなりの数に上るだろう。それに都市部に立地するマンションなら1000万円程度に評価されるケースが多い。つまり、ごく普通の人も来年以降は相続税の課税対象になる。
富裕層の一部はすでに、相続税対策のために金融資産を不動産に転換し始めている。タワーマンションや賃貸アパートなどを買っているのだ。しかし、これはごく一部の動き。大半の人々は、ほぼ何もしていない。そして、何の準備もないまま、相続の日がやってくる。
先に挙げた例のように、金融資産が5000万円で、不動産が1000万円なら、相続税が発生しても現金で支払える。しかし、逆の場合はどうなるのか。
亡くなった方が自宅や投資用のマンションをいくつも持っていたけど現金は少なかった場合、相続税の支払いにあてる原資が足りなくなる。当然の成り行きとして「マンションを売ろう」ということになる。
もちろん、まずマンションの名義を変更しないと売却はできないし、名義を変更するには相続を届けなければならない。だからつなぎの現金は必要になる。
親の建てた家に子供が住むというのはよくあるケースだった。だが、親が購入したマンションに、相続した子供がそのまま住むという例はかなり少ない。子供たちが相続すると、大半は売却されるだろう。
来年からの相続税の改正で、このパターンはさらに増えると考えられる。特に大都市郊外や地方都市のマンションは、相続が発生したらほとんどが売却に至る可能性がある。持っているだけでも税金がかかるし、借り手は付きにくい。
都心に近い立地でも売却されるケースが多くなりそうだ。
相続税の改正は、売り出される中古マンションを増やし、市場価格を下落させる可能性が高い。
■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。1962年、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上携わる。不動産会社の注意情報や物件の価格評価の分析に定評がある(www.sakakiatsushi.com)。著書に「年収200万円からのマイホーム戦略」(WAVE出版)など。