●鶴見大学日本文学会・ドキュメンテーション学会/鶴見大学図書館[編]久保木秀夫・中川博夫[著]『新古今和歌集の新しい歌が見つかった! 800年以上埋もれていた幻の一首の謎を探る』(笠間書院)
Tweet10月下旬の刊行予定です。
鶴見大学日本文学会・ドキュメンテーション学会・鶴見大学図書館[編]
久保木秀夫・中川 博夫[著]
『新古今和歌集の新しい歌が見つかった! 800年以上埋もれていた幻の一首の謎を探る』
ISBN978-4-305-70741-3 C0093
菊判・並製・60頁・フルカラー
定価:本体800円(税別)
2012年、鶴見大学図書館に「古筆手鑑」一帖が収蔵され、その中から、『新古今和歌集』の歌としては、これまでまったく知られていなかった一首が、新たに発見されました。鎌倉時代のごく初期に書写された巻子本を、主に観賞目的で分割した、いわゆる古筆切(断簡とも)の一葉として、それは姿を現しました。
本書は、その『新古今和歌集』新出歌を記載している断簡について、あらためて紹介し、かつ関連資料を徹底的に集めた上で考察するものです。
日本古典文学研究の推理小説的な面白さや奥深さ、必要性、重要性を存分に伝えるエキサイティングな書。本書の原本資料を活用した、書誌学的・文献学的方法に基づく論述は、古典文学研究の魅力をあますところなく伝えます。図版多数掲載、フルカラー。
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■著者紹介
○編者
鶴見大学日本文学会・ドキュメンテーション学会/鶴見大学図書館
○著者
久保木秀夫(くぼき・ひでお)Kuboki Hideo
1972年生まれ。鶴見大学文学部准教授。博士(文学)。
主要編著書に『平安文学の新研究 物語絵と古筆切を考える』(共編著、新典社、2006年)、『林葉和歌集 研究と校本』(単著、笠間書院、2007年)、『中古中世散佚歌集研究』(単著、青簡舎、2009年)、『伏見院御集[広沢切]伝本・断簡集成』(共編著、笠間書院、2011年)、『日本の書と紙 古筆手鑑『かたばみ帖』の世界』(共編著、三弥井書店、2012年)などがある。
中川博夫(なかがわ・ひろお)Nakagawa Hiroo
1956年生まれ。鶴見大学文学部教授。博士(文学)。
主要著書に『前長門守時朝入京田舎打聞集全釈』(共著、風間書房、1996年)、『沙弥蓮瑜集全釈』(共著、風間書房、1999年)、『藤原顕氏全歌注釈と研究』(笠間書院、1999年)、『新勅撰和歌集』(明治書院、2005年)、『大弐高遠集注釈』(貴重本刊行会、2010年)などがある。
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【目次】
ご挨拶 [鶴見大学図書館 図書館長・二藤 彰]
はじめに―新出歌は、古典文学研究の推理小説的な面白さや奥深さを伝える。[久保木秀夫]
『新古今和歌集』とは
複雑な成立過程と異本歌
新たに発見された『新古今集』の歌
本書で明らかにしたいこと
第1章 『新古今和歌集』新発見の一首の謎を探る―紹介と考察―[久保木秀夫]
1 古筆手鑑・古筆切の資料的価値とは
2 今回鶴見大学図書館に収蔵された古筆手鑑一帖
3 新発見の一首―伝寂蓮筆『新古今集』巻子本切―
4 新発見の一首のツレ―もとの古典籍から切り出された仲間―を探す
5 やはり『新古今集』の新出異本歌と認められるものであった
6 この巻子本切はいつ頃書写されたのか
7 巻子本切と竟宴本
第2章 作者・解釈・配列 [中川博夫]
1 作者・藤原隆方について
2 歌の解釈
3 他出の確認
4 『新古今集』巻第十一恋歌一内の配置の可能性
●主要参考文献
●鶴見大学図書館のご案内
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【本書「はじめに」全文掲載】
はじめに―新出歌は、古典文学研究の推理小説的な面白さや奥深さを伝える。
[久保木秀夫]
二〇一二年度、鶴見大学図書館に「古筆手鑑」一帖が収蔵され、その中から、『新古今和歌集』の歌としては、これまでまったく知られていなかった一首が、新たに発見されました。鎌倉時代のごく初期に書写された巻子本を、主に観賞目的で分割した、いわゆる古筆切(断簡とも)の一葉として、それは姿を現しました。この発見については、二〇一三年一〇月二日の読売新聞朝刊と、翌日の朝日新聞夕刊とで相次いで報じられ、さらに翌々日の共同通信によって全国的に配信され、と同時に数多くの全国紙・地方紙のWEB版にも掲載され、それらがまたインターネット上で大拡散されましたので、ご記憶の方もきっと多いかと思われます。
本書は、そのような『新古今和歌集』新出歌を記載している断簡について、あらためて紹介し、かつ関連資料を徹底的に集めた上で考察し、学術的価値を明らかにしていくことを目的とするものです。
▼『新古今和歌集』とは
『新古今和歌集』は、後鳥羽院の命により、院自身が深く関わりながら、藤原有家・家隆・定家・雅経・源道具によって撰ばれた、第八番目の勅撰和歌集です。天皇・上皇・法皇の命によって撰進された勅撰集は、全部で二十一作品(二十一代集)に及びますが、中でも最も完成度の高い作品として、第一番目の『古今集』と並び称されているのが、この『新古今集』です。
▼複雑な成立過程と異本歌
編纂が開始されたのは建仁元年(一二〇一)十一月で、元久二年(一二〇五)三月には、ひとまずの竟宴―いわば完成お披露目祝賀会―が催されました。が、その直後から早くも「切り接ぎ」と呼ばれる編纂作業が再開され、数年にわたって続けられていきました。のみならず、さらに承久三年(一二二一)のいわゆる承久の乱を経て、隠岐に流された後鳥羽院自身によって、「隠岐本」と呼ばれる精撰本が再編纂されたりもしました。
そのような複雑な成立過程や、伝来過程を経たためでしょう、この『新古今集』に関しては、現在残っている写本や版本それぞれの間に、実に多くの本文異同が生じています。それは細かな語句の違いといったレベルの事例にとどまらず、ある本には入集している歌が、別の本には入集していないとか、本によって歌の配列が異なっているとかといった、撰集としてのいわば構成に関わる事例も、相応に見出されています。特に、ある限られた伝本のみに見出される歌については「異本歌」と呼ばれ、先学による徹底的な調査の結果、少なからぬ伝本の中から、あわせて三十首前後が集成されるに至っています。
▼新たに発見された『新古今集』の歌
ところが今回、鶴見大学図書館蔵の古筆手鑑から発見された一首は、それら既知の異本歌の中には、含まれていないものだったのでした。言い換えますと、今回の一首は、『新古今集』の歌として、これまでまったく認知されていなかったものなのです。
そのような、極めて重要な歌を記した当該断簡の書写年代は、では一体いつ頃とみられるでしょうか。断簡右肩に付けられている極札(鑑定札)では、伝称筆者を「寂蓮法師」としています。が、彼は撰集途中で亡くなっていますので、彼の真筆ではあり得ません。ただ、寂蓮とほぼ同時代の、鎌倉時代ごく初期に製作された写本の、一部分であることは確かなようです。また、その他いくつかの徴証を考慮に入れれば、もしかして、もしかしますと当該断簡は、『新古今集』竟宴の際にお披露目された、竟宴本そのものたる巻子本の、その一部分であった可能性が、少なからず生じてくるようでもあるのです。
▼本書で明らかにしたいこと
そこでこのたび、本書において、当該断簡と、現時点で見出せたツレの数々―もと同一伝本から切り出された断簡同士―を、集められるだけ集めた上で、それらの学術的価値を、より具体的に明らかにしていくことを目指してみました(久保木秀夫執筆)。と同時にまた、当該断簡記載の一首について、作者たる藤原隆方の経歴・歌歴などを追跡しながら、それがどのような歌であるのか、また分割以前の巻子本だった状態時、一体どのあたりに配置されていたのか、といった諸問題についても論じていきます(中川博夫執筆)。このふたつの論文に関しては、やや専門的な内容とせざるを得ませんでしたが、それでも本書を通じ、原本資料を活用した、書誌学的・文献学的方法に基づく日本古典文学研究の、まさに推理小説的な面白さや奥深さ、必要性、重要性を、少しでも感じ取っていただけるようでしたら幸いです。
思い返せば二〇一三年の二月頃、収蔵済みの古筆手鑑全体を本格的に調査し始めた際に、当該断簡が有する学術的価値の計り知れなさに(やや遅ればせながらも)気づき、「これは大変なものを見つけてしまった...」と、文字どおり身震いしました。ただし、ここまで述べ来たったような今回の発見は、たまたま古筆手鑑が収蔵され、たまたまそこに問題の断簡が貼られていたから、できた、といった程度のことではありません。創立以来の長年にわたる、本学図書館の収書に対する類い稀なる熱意と、文学部歴代教員による地道にして実直な調査研究活動と、大学当局、ひいては本二〇一四年度に、ちょうど創立九〇周年を迎える総持学園の、収書と研究、展示に対する深い理解とが、それぞれに積み重ねられてきたからこその、まさに本学ならではの成果である、と言うべきでしょう。これを「伝統」と呼んでよいのであれば、そのような素晴らしき伝統を、今後も継承し、発展させつつ、教育と学問の深化に、なお一層努めていかなければならないと、関係者一同、意を新たにしている次第です。
なお本書は昨二〇一三年度の、鶴見大学創立五〇周年・鶴見大学短期大学部創立六〇周年記念、第一三五回鶴見大学図書館貴重書展「新収資料展 風格の古筆手鑑、深奥なる古筆切」(二〇一三年一〇月四日〜二七日)の展示解題、及び特別講演会(一〇月五日)の講演内容に基づいています。また本二〇一四年度の、総持学園創立九〇周年記念、及び、鶴見大学文学部ドキュメンテーション学科設立一〇周年記念、という意味合いも込められています。
本書刊行に際し、ご所蔵資料の特別観覧や、図版掲載等をご許可下さいました、石川県立美術館・五島美術館・佐野美術館・書芸文化院春敬記念書道文庫・東京国立博物館と各ご所蔵先の関係各氏、及び池田和臣氏・日比野浩信氏に、格別のご厚意を賜りました。記して深謝申し上げる次第です。