眠い目をこすりながら、5時過ぎに起床した。
昨夜、下ごしらえをすませた食材をフライパンや鍋で、ジュージュー、グラグラと調理していく。
数日前、「何が食べたい?」と子ども達に聞いてみると「たこさんウインナー!」「ポテトサラダ!」「からあげ」「おにぎり」「デザートの果物も忘れないでね♡」などなどたくさん挙がった。
娘にいたっては「はい、これ」とご希望のおかずが書いた紙を私に渡してくれた。その紙は100点のテストの端を惜しげもなく切り取ったものだったので、娘の食に対する意欲に私は白旗をあげざるを得なかった。
昔、給食調理の仕事をしていたこともあるので、同時進行で料理をするのには慣れている。3つあるコンロをすべて埋めてしまうと「あぁ、4つめが欲しいなぁ」と心の底から思った。でも、実際のところ、そこまで同時に調理することは少ないだろうから必要ないとは思う。
出来上がったおかずを大きなお弁当箱に詰めていく。出来るだけ美味しく見えるような並べ方を考えるのは難しい。それでも何とかお弁当箱に収まったところで、朝食づくりを開始した。トースターでパンを焼き、フライパンに卵を落とす。野菜を切り、皿を並べてから子ども達を起こした。
果物を切り、食卓に置いてから、洗濯物を抱えて外へ出た。
空はどこまでも高く、真っ青だった。
快晴。
これでもか!と言うほどの運動会日和。
空をずっと眺めている訳にもいかないので、慌てて洗濯物を干し始めた。家へ入り、洗濯かごを置くと、すぐに着替えはじめた。
簡単に化粧をほどこし、「じゃあ、私は行ってくるから気を付けて学校へ行くんだよ」と子ども達に伝え、「いってらっしゃーい」の言葉を背中で聞きながら玄関のドアを開けた。
車に乗り、近くのグラウンドへ向かった。そのグラウンドは運動会へ来る保護者への駐車場として開放されている。役員である私は朝の7時30分からここで駐車場整理をするのだ。
役員は運動会前日の観覧席ロープ張りもするし、駐車場整理もする。大変だけれども役員でなければ知りえなかったことを私はたくさん自分の中へ入れ込んだ。
1台、1台、車が来るたびに、誘導棒を振って順番に並べていく。
「おはようございます」
声をかけると、車から降りて来られた方も「おはようございます」とあいさつを交わす。「朝早くからご苦労様」と言って下さる方もいる。
それだけで少し気持ちが安らぐのだから不思議だ。
8時45分から運動会が始まるため、8時30分頃には車が次々にやってきた。少し早目に上がって・・と目論んでいた私を含む役員は「このラッシュが終わらないと行けないね」と顔を見合わせ軽く笑った。
***
駐車場整理を終え、急いで家に帰り着くと、私はお弁当や敷物などを担いでまたすぐに家を出た。
学校はすぐそこなので駆け足で向かったのだが、運動不足の身体とけっこうな荷物のおかげで思ったより前に進んでいかなかった。
学校へ到着した時にはすでに開会式が始まっており、準備体操を行っている最中だった。
自分の地区の観覧席に行き、敷物をふわっと広げて敷いた。その横に折り畳みのイスを置くと、私はそこに腰掛け、「ふぅ」っと息を吐いた。
運動会は日差しの照り付ける中、長時間行われるので自分の子どもが出ていない時は手持無沙汰になる時がある。ずっと眺めていても良いのだろうけど、気分転換も必要だと思い、予めノートとペンをバッグに入れておいた。普段見ることのない子どもの動きや息遣いを感じていたら、自然とノートに何か書き記していた。
玉入れで娘が投げていた白い玉は全然上に上がっておらず、籠まで届いているのかもわからなかった。だが、玉を投げている娘の顔は嬉々としていて、一生懸命だった。
息子の徒競走は毎度、落ち着かずに眺めている。運動が苦手な息子の足が一歩でも二歩でも早くゴールへ着くように。それだけを願った。
娘のお遊戯は先日のブログでも書いた通り、おしりを振る仕種が含まれているのでそれを今か今かと待ち構えていた。実際、その場面に出くわすと「おおっ、おしりの振り方も成長してる!」と変な感動を味わった。周りの子と比べても娘のおしりふりは上手いと思う。腰から入れておしりを振るので、良い角度で左右に動く。感動的に書こうと思ってもここの文章だけはいつも変態っぽくなるので、そっと見守って頂きたい。
息子の団体競技は、赤・白と二手に分かれた真ん中に、ロープ、棒、マットなどが置いてあり、それをわーーっと駆けて行って自分の陣地に持ってくるというものだった。
思っていた以上に面白かった。五年生同士、六年生同士の対戦はそこまでガツッと惹かれるものはなかったが、女子同士、男子同士の対戦になると、お互い遠慮がなく、引きずられてもマットを離さない子もいて、とてもエキサイトしていた。砂埃が舞い、多くの子が白い体操服を茶色く汚していた。ちなみに息子はと言うと、手にはめていた軍手が取れたとかで、たいした活躍をしていなかった。争い事が苦手であるのは知っているが、もう少しガツンと行っても良いのではないかと母は思ったよ。
それから全校児童で行う綱引き。娘も息子も同じ白組だったので応援がしやすかった。50人ぐらいで綱を引くのに、互角の勝負になるのはすごいなぁと思った。私も綱を引いてないくせに、手に力が入っていて驚いた。
この後は昼食だった。シートの上でお弁当を広げた。同じ内容であっても外で食べるご飯は美味しい。更にイベント事だと尚更美味しい。ぱくぱく。朝ご飯を食べることが出来なかった私が一番食べていたように思う。
娘はデラウェアにはまり、おちょぼ口をしながら次々と口の中へ放り込んだ。息子は自分の分を死守するのに必死だった。デラウェア、うちでは人気過ぎる。
午後の競技開始。
娘の徒競走。娘はものすごく足が速い訳ではないが、無難にこなすタイプなので息子ほどドキドキすることはなく、安心して見られた。1位だった。
次の競技は1年生から6年生の代表者が走る紅白対抗リレーがあった。
実はこのリレーに娘が出たのだ。
娘は代表者を決める際「やりたい人ー!」と聞かれ、真っ先に手を挙げたら他にやりたい人がいなく、すんなり決まってしまったようなのだ。最初は喜んでいたのだが、練習が始まると、「あんまり速く走れないなぁ。。」とちょっぴり弱気になっていた。1年生の女子は第1走者なので、「バトンを落とさないようにして、少しでも速く次の子に渡すんだよ。そしたら他の子がぴゅーって頑張ってくれるから。それがリレーなんだから」と話すと「うん」とほんの少しだけ気持ちが楽になったようだった。
運動会前日に学校で準備をしている時、娘の担任に話しかけられた。
「あのね、リレーに出る子は他学年と一緒に練習しないといけないので、休み時間が削られるんですよ。だからそれでも出来る人!って聞いてから決めてるんですね。その時にあやちゃん(娘)はそれでもやる!って言ったんですよ」
そんな話、娘の口から聞いたことはなかった。自ら挑戦する姿勢。私が見習わなくてはいけないと思った。
肝心のリレーだが、娘は6人中3位でバトンを渡した。娘のチームは4位だった。
そして、運動会最後の競技である組体操が行われた。
6年生の息子は最後の運動会。運動が苦手で運動会の練習が憂鬱であったと思うけれど、泣き言も言わず良く頑張ったと思う。1つ1つの動きを見ていくうちに、保育園で固まって動かなかったお遊戯を思い出し、そこからの9年分の成長がパラパラマンガのように頭の中でめくられていた。指まで真っ直ぐ伸ばして立っている姿だけで胸にグッとくるものがあり、きっとそれは子どもの成長だけではなく、私自身が手探りで過ごしてきた時間を反芻し、身体が反応しているのだと思った。
歯を食いしばり、ピラミッドを支える時、息子は何を思うのだろう。
私はあなたがそこにいるだけで十分だと思いました。
***
運動会を終えると、役員は後片付けをする。保護者席を区切っていたロープと杭と片付けながら、ゴミ拾いをする。お菓子のゴミ、おにぎりが包まれていたであろうラップのゴミ、ティッシュなどが緩い風に吹かれてカサカサ地面を動き回る。「なんか運動会の競技みたいだな」と思いながら、ゴミを追いかけ拾い上げる。
子ども達が使う校庭を保護者が汚してはいけないと思う。綺麗になって良かった。
家にたどり着くと、体がとても重かった。日に焼けた肌もなんとなくピリピリしている。
だけれども頭の中は遠くの方まで旅をしたようで、色んなことを吸収した。
おかげで、一つ短い小説を書くことができました。
りんごを一つ携えて。
私と子どもとみんなの過ごした時間の先に見えた風景かも知れないのです。
そこまで引っくるめて、とても有意義な一日でした。