AKB48 秋元康Pのプロデュース術はどう変わった? スタッフのアクター化と拡大する組織を分析
リアルサウンド 9月30日(火)11時8分配信
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AKB48『心のプラカード(Type A)』(キングレコード) |
AKB48グループの総合プロデューサー秋元康が、今月上旬から参加し始めたばかりのSNS「755」で、活発にファンからのメッセージに返答している。とりわけ最近の投稿からしばしば垣間見えるのは、48グループの運営に関わる意思決定のあり方への言及である。秋元は17日の48グループじゃんけん大会の際に発表された38thシングル選抜メンバーについて、スタッフの推薦を尊重して採り入れた結果、人数が「多すぎる」結果になったと自ら認め、選抜過程においてスタッフたちの意見に重きが置かれていることを語った。また、27日には「沖縄48」という構想が以前からあることを明かしつつ、自らは相談を受けただけだとし、「運営が決めることなので、まだまだ、わかりませんが…。」と述べている。
ここでふと違和感を覚えるのは、秋元自身による「運営が決めることなのでわからない」という発言である。外から見た時に48グループの運営のトップは疑いなく、秋元康その人だからだ。実際、その投稿を受けてファンからは、秋元は運営ではないのか?という問いも投げかけられた。秋元はそれに対して一言、「運営は運営チームです」と応じ、自身を「運営」を行なう「チーム」とは異なる立場にさえ位置づけようとしている。これらの発言は、48グループに対する秋元自身の及ぼす力が変化してきたこと、あるいは秋元が多くを他のスタッフにゆだねるようになったことをほのめかしているようにも見える。
もちろん、秋元康は、意思決定を行なう運営やそこに関わるスタッフ自身を、グループのメンバーと同様に表舞台にさらし、そのパワーバランス自体をエンターテインメントとしてきた人である。自らもメンバーと同一のSNSの中に身を投じ、メンバーも運営スタッフも同じ水準に立つアクターとして、その挙動をコンテンツにしてしまう。時に本音をはぐらかすような彼の振る舞いからすれば、己を「運営」ではないと語り、他のスタッフが意思決定に大きく影響しているように見せている状況もまた、額面通りに捉えるだけでは見えないものが多いのかもしれない。
しかしそうした詮索はともかく、結果的にこの38thシングル選抜の会議で、スタッフが競ってメンバーを推薦し、そのスタッフの主張が重視されて秋シングルとしては異例の大人数選抜になったことには、ある面で、秋元康が本当に「運営」でなくなって以降の未来に向けた希望も見いだせるように思えた。
秋元は32人という選抜メンバーの人数について「多すぎる」と認めながらも、スタッフたちが競って推薦する声に負けて、その数を削ることができなかった。もちろん、このシングル一曲だけを考えれば、選抜メンバーが「多すぎる」ことには気がかりな点もないわけではない。しかし、それだけ活発にメンバーを推薦し続けたスタッフの声の大きさは、いつかは本当にやってくるポスト秋元康期に向けた下地として、大事なことなのではないだろうか。
「運営」の絶対的な象徴であり、対外的にも大きな看板である秋元康の手から48グループがいつか離れた時、今回の38thシングル選抜にうかがえたような運営スタッフの主張の強さは、むしろ頼もしさになるはずだ。秋元が示唆した、選抜会議での各スタッフの存在感の大きさや、多くのメンバーを推薦しようという姿勢は、自らが担当するグループやそのメンバーへの思い入れが強くなっていることの証でもある。48グループ総体の顔である秋元が離れて以降もなお、各グループが均衡を保って持続するならば、それは秋元のような桁違いのキャリアを持つトップの威光によってではなく、各グループ運営の緊張関係によって成立すると考えた方が現実的だろう。その均衡には、運営たちの思い入れと主張の強さが不可欠になる。
渡辺麻友とのWセンターにHKT48の宮脇咲良が選出された今回の選抜会議で、AKB48以外の各姉妹グループ運営の主張がそれぞれどれほどであったのかは、秋元の発言から詳しくは読み取れない。しかし、そうした主張の強さが各姉妹グループのスタッフにも同様であったならば、各地のグループがよりフラットに拮抗状態を保ちながら、歴史を紡ぐ未来があるに違いない。そして、48グループが普遍的なジャンルとして存在していくためには、それは必要なプロセスでもあるはずだ。
近年、AKB48グループに対して強いモチベーションを持続しているように見える秋元が、近い未来にグループから手を離すという予測は現実的ではない。しかし実際、48グループのこれまでにない規模の拡大によって、相対的に秋元の目の届く範囲が小さくなっていることは想像に難くない。その意味で、「755」での発言が示唆するように、他のスタッフに判断を委ねる割合が大きくなっていることは間違いないのだろう。その環境が各グループ運営の自覚と思い入れの強さをさらに醸成していくのならば、それは「秋元康が運営ではない」未来に向けたポジティブな準備であるはずだ。もちろん、これはまだちょっと先回りしすぎた未来像だろう。しかし、選抜人数を削れないほどに各運営が拮抗してメンバーを推薦する姿には、現在のところ希望を見出したいと思う。
香月孝史
最終更新:9月30日(火)11時8分
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