ぐるりみち。

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『艦隊これくしょん』に見る、作品の人気と二次創作活動

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東方Projectから艦これに人が流れるワケ - おせちブログ

 

 読みました。確かに、この前の冬コミをぐるっと回った時にも、そんな印象は受けましたねー。

 一方では、2chまとめサイトなどの煽りもあって、昨年末頃から、『艦隊これくしょん*2『東方Project*3の対立構造(実際、それがあるかは別として)について、随所で話題になっております。

 

 そんな『東方』と『艦これ』、前者は原作が同人ゲームで、後者はブラウザゲームという違いはありますが、共通点も多いように思います。その中でも、ファンが取り組む「同人活動」に焦点を当てて、考えたことをまとめてみました。

 

 

『東方Project』の人気の理由

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 まず、『東方』の人気の理由について。

 

 一応、『東方Project』に関して簡単に説明すると、『東方』とは、同人サークル「上海アリス幻樂団*4」が制作し、即売会や同人ショップで販売している、弾幕系シューティングゲームのことだ。

 メインコンテンツはゲームだが、他に、音楽CDや、商業誌として書籍も出版しており、その関連商品も含めて『東方Project』と呼ぶのが一般的かと。

 

 特徴としては、日本的な世界観、独特の設定・性格のキャラクター達、その設定の重厚さ、質の高い音楽などが、大きな魅力としてファンに支持されている。また、その制作は、プログラムからグラフィック、BGMに至るまで、神主ことZUN氏がほぼ一人で全てを担っている。

 

 『東方』の人気の理由としてまず挙げられるのが、魅力的なBGMだ。ZUN氏が「ゲーム音楽を作りたかったから、ゲームごと作った*5と話しているように、この作品は音楽が中核にあると言っても過言ではない。

 

 楽曲の人気っぷりは、コミックマーケットを始めとする即売会を見ると、よく分かる。音楽系のサークルと言えば、昔はスクエニ*6や、葉鍵*7といったPCゲームアレンジが主流だったが、その次に現れてきたのが『東方』だ。

 最近は、ニコニコ動画で発展した、「ボーカロイド」や「歌ってみた」といったジャンルも大きくなっているが、今もなお、同人音楽界隈で『東方』の占める勢力圏は広いと言えるだろう。

 

 もうひとつは、多様なキャラクターと、独特な世界観だ。いわゆる「旧作」と呼ばれる、上海アリス幻樂団として活動を開始する前の5作品も含めれば、ゲーム版の作品の数は14以上あり、商業誌のものも加えると、かなりの数になる。

 それだけの数のストーリーと、多数のキャラクターが存在しており、決して飽きることがない。

 

 そして、何よりも大きな理由としては、「同人活動の盛況っぷり」にあると僕は考える。

 今年で11回目を数える、『東方』のオンリー即売会、「博麗神社例大祭」では、昨年、参加サークル数が5000を突破した。昨年末のコミックマーケット85でも、およそ2200のサークルが『東方』で登録しており、ジャンルとしては最大手となっている。

 

 なぜ、そんなにも、『東方』の二次創作活動は人気なのだろう。ざっくり言えば、「二次創作がしやすいから」だと思う。

 原作としての大本のストーリー、キャラ設定はあるが、それはあくまで「最低限」のものであって、受け手によって、いくらでも解釈のしようがあり、自分で好きに料理ができるからだ。

 

 加えて言えば、その設定に「元ネタ」があることも大きい。各ストーリー、各キャラの多くには、伝承や創作物、歴史の人物などのモデルが存在している。そのため、ゲーム内の設定+元ネタの設定を使った、多様な表現が二次創作者には可能となっている。

 そのような「設定」を借りて、自分なりに解釈・アレンジし、自身の表現に落とし込めるという創作環境が、二次創作者にとって魅力的な「場」となっているのではないだろうか。

 

『艦隊これくしょん』の人気の理由

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 『東方』の説明が長くなってしまったが、では、『艦これ』の人気の理由はどこにあるのだろう。

 

 『艦これ』に関しても、「同人活動」という視点で見れば、その人気の構造は、『東方』と非常によく似ていると思う。ゲーム自体は、キャラを集めて、育てて、敵を倒すという単純なもので、ストーリーらしいストーリーはほとんどない。

 しかし、『東方』のキャラと同じように、「元ネタ」としての設定が存在している。

 

 『東方』ではそれが伝承や創作物だったが、『艦これ』の場合は、それが「史実」となる。過去の大日本帝国海軍の艦艇、その特徴や由来が、しっかりとキャラに落とし込まれている。

 それは、グラフィックとしての身体的特徴に限らず、「台詞」にも反映されており、その「元ネタ」を知っていれば、より一層、作品に親しめる仕様となっている。

 

 そんな「元ネタ」の設定は、『東方』と同じく、二次創作者に広い表現の幅を与えてくれるが、『艦これ』には、オリジナルの「敵」の存在もまた、想像をかきたてるものとなっている。

 

 『艦これ』では、「深海棲艦」と呼ばれる敵艦と戦うことになるが、その正体は公式に明かされていない。

 どこか不気味な風体で、強力な深海棲艦は女性の容貌をしていることから、「轟沈した艦娘の成れの果てなのでは…?」という説がまことしやかに流れているが、その真偽も不明。既存の艦娘との共通点が見られたり、イベント時の台詞が意味深だったりと、不気味ではあるが、魅力的な存在だ。

 

 そのような、曖昧で不気味、いくらでも解釈ができる「敵」の存在は、二次創作に多様性をもたらしている。

 深海棲艦に限らず、そもそもの「艦娘」という存在の詳細な設定、果ては『艦これ』の世界観すら明言されていないこともあり、創作者によって、全く違った話が展開されているため、非常におもしろい。

 

『艦これ』は、『東方』と『アイマス』のハイブリッド?

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 一方で、二次創作作品における「視点」という観点で見れば、『東方』と『艦これ』は大きく異なっている。これに関しては、冒頭の記事で書かれている内容に同意です。

 

 提督というのは艦これにおけるプレイヤー、つまり自分自身なのだ。提督があれをしてこれをして、で、ゲームが進行していく。

 

 一方の東方Projectには、「自分」となれる存在はいない。主人公機は毎回数名の女の子で構成され、それぞれが「意思(自意識)」と「ストーリー」を持っている。ここに「自分」が感情を移入する余地はない。

 

  さらに、「どちらかというとアイマスに近い」とも述べられているように、構図としては、『THE IDOLM@STER*8とよく似ている。

 中心となる「自分」(提督、プロデューサー)があって、その周りに「キャラクター」(艦娘、アイドル)たちが存在している形。

 

 加えて言えば、数多く存在するキャラクターの「カテゴライズ」がされている点も、共通点と言えるだろう。

 『艦これ』であれば、「西村艦隊」といった部隊ごと、あるいは、同タイプの艦艇ごとに類別化することが可能であり、『アイマス』であれば、ユニットごとにグループ分けをすることができる。

 

 そのような「カテゴライズ」は、複数いるキャラクターに関係性という「意味」を持たせることになり、二次創作に当たっても、そのグループの中で「物語」を創りやすくなるというメリットがある。

 ちなみに『東方』で言えば、作品ごとに「紅魔組」などと分けられていることが、これに当たるだろう。

 

 そう考えると、コンテンツとしての『艦これ』は、『東方』と『アイマス』が合わさったものとも見えなくはない。

 設定としての最低限の「元ネタ」を持つ『東方』と、魅力的なキャラクターたちの中心にいる無名の「自分」という構造を持つ『アイマス』。どちらも、コンテンツとしてはかなり長く人気が続いている作品であるため、『艦これ』も、一時の流行では終わらないような気がする。

 

人気作品の条件は、「終わりなき物語」であること

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 話は変わるが、「もうずっと、長年の間、人気が続いている作品」と言えば、何が挙げられるだろうか。

 例えば、『ドラゴンボール』はそうかもしれないが、現在、二次創作はさほど活発ではない。『ガンダム』はいつの時代も人気だが、シリーズごとに物語は独立しており、それぞれを単体として見れば別作品だ。

 

 ピンとくるのは、『新世紀エヴァンゲリオン』だ。来年でテレビ放送から20年となるが、2007年からの新劇場版は完結しておらず、公開されるたびに大ヒットとなってきた。

 考えてみれば、シリーズでも何でもないひとつのアニメ作品が、それ一本で、20年近くも続き、ファンに愛されているというのは、とんでもない話だ*9

 

 『エヴァ』に関しては、スピンオフやゲーム版などがあれど、常に人気で、親しまれ続けているのは、旧劇場版を含めたアニメと、新劇場版になる。

 二次創作に関しても、即売会におけるサークル数は多くはないが、あちこちで関連の商品やコスプレは見かけるし、ネットでもたびたび話題に挙がる。なぜ、『エヴァ』はここまで人気なのだろう。

 

 この問いに関して、先日読んだ『承認をめぐる病』では、『エヴァ』のこんな特徴が語られていた。

 

 エヴァという物語の最大の特徴は、その徹底した「成長の拒否」にある。エヴァの呪縛によってチルドレンたちが成長できない、という意味ばかりではない。物語の初期基本設定から、入念に「成長」や「成熟」の可能性が排除されている、ということだ。だからエヴァは終わることができない。なぜか。

 成長や成熟は、エヴァの中核に位置するシンジ、アスカ、レイという三人のキャラの同一性を破壊してしまう。この三人がエヴァを象徴するキャラである以上、それはエヴァという作品の同一性すら破壊してしまいかねない。だから彼らは決して成長しないし、同じ意味でその関係性が変化することもない。シンジがアスカと結ばれたり、レイを養子に取ったりという変化はありえないのだ。

 

 物語に対して、中核を担っているキャラが「成長しない」こと。それは、二次創作における「可能性」を担保するものとなる。

 

 『エヴァ』に関して言えば、テレビ版は「アレ*10」で終わり、一応は終劇を結んだ旧劇場版も、多くの議論を呼ぶものとなった。

 そこには、あったかもしれない「別の可能性」や、「その後」を、受け手に想像させる力がある。だからこそ、エヴァの「考察」や「評論」を含む二次創作は、非常に盛り上がった。

 

 このことを鑑みれば、最初から最後まで本質の変わらない、「終わりなき物語」という要素は、作品人気のひとつの条件となるのではないだろうか。

 

 『東方』には作品ごとのエンディングはあるが、ひとつひとつが独立した物語であり、明確な「終わり」はない。『アイマス』にも、ゲーム(アニメ)としてのエンディングがあり、作中ではキャラの成長も描かれるが、様々な可能性を考える余地は残してある。

 そして、『艦これ』に関しては、そもそもの物語が、始まってすらいないのだ。

 

 最近の作品を他に挙げれば、『魔法少女まどか☆マギカ*11は、劇場版新編によって、前後編の物語の「終わり」を否定した。自分一人で決心し決着をつけた、まどかの願いを、ほむらがものの見事にぶっ壊した。

 一度は迎えた物語の結末を、公式に否定するというある種の暴挙は、結果、再び数多くのファンを惹き寄せることとなった。もちろん、二次創作も盛り上がっている。

 

 逆に、人気作品ではあるが、二次創作活動は大きく広がらなかったものとして、『ひぐらしのなく頃に*12が考えられる。

 『東方』と同じく、同人ゲームが原作という共通点があるが、物語そのものが大団円を迎えてしまったこともあり、その後のメディア展開はあまり振るわなかったように見える。

 

 『ひぐらし』は、いわゆる「ループ物」であるため、二次創作とは相性が良いように思えるが、新しい物語を自ら生み出そうとする創り手は、ほとんど見受けられなかった。スピンオフやらOVAやら、公式でいろいろと作りすぎてしまった感はあるが。

 

 「原作が終われば、人気は落ちる」は、その通りであると思うが、他方では、『エヴァ』のように息の長い作品も存在する。「二次創作」には問題点も多いとされるが、それが作品人気の指標となっているのも事実だ。

 そう考えると、長きにわたって愛されるような「魅力的な作品」とは、終わりながらにして終わっていない、「終わりなき物語」であるのかもしれない。

 

 明確な物語がなく、アニメ放映もまだの『艦これ』は、「始まってすらいない」作品ではあるが、一方で、「既に終わっている」作品であると取れなくもない。

 史実、終戦で終わりを迎えた艦艇をサルベージし、現代に蘇らせたもの。「終わりは始まり」とも言うが、終わりも始まりも不明瞭な『艦これ』は、いったいどこへ向かうのだろう。

 

 とは言え、人間、いつかは飽きがくるものなので、終わりを迎えるその時まで。一人の提督として、そのコンテンツを楽しんでいきたいと思う。時雨かわいいです。

 

 

承認をめぐる病

承認をめぐる病

 
コンプティーク 2014年 02月号 [雑誌]

コンプティーク 2014年 02月号 [雑誌]

 

*1:うちの鎮守府。大鳳さんかわいい。

*2:艦隊これくしょん -艦これ- - Wikipedia

*3:東方Project - Wikipedia

*4:上海アリス幻樂団

*5:―特集― シューティングの方法論

*6:スクウェア・エニックス。当時は別会社だった2社のゲーム音楽が人気だった。

*7:PCゲームブランドである「Leaf」と「Key」の総称。

*8:THE IDOLM@STER - Wikipedia

*9:『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』は、「人気」の方向性が違う。

*10:25話と26話。世界の中心でなんちゃらありがとう。

*11:魔法少女まどか☆マギカ - Wikipedia

*12:ひぐらしのなく頃に - Wikipedia