興味深いエピソードがある。ホー氏の右腕であったボー・グエンザップ将軍は「抗日を旗印にしたが、日本が降伏するとホー氏は『日本人と戦うな。彼らを保護せよ』といった。日本人はその後もクアンガイの士官学校で軍事指導もしてくれた」と証言している(『20世紀特派員』産経新聞ニュースサービス)。
何があったのか。
インドシナで敗戦を迎えた日本軍将兵の中に、残留してベトナムの独立のために戦おうとする者が現れたのだ。また、ホーのベトナム民主共和国側も、日本軍の兵器譲渡を求め、日本軍将兵を教官として迎えたいと願い出てきたのである。
こうして、46年6月1日、教官と助教官が全員、元日本陸軍の将校と下士官というベトナム初の士官学校「クアンガイ陸軍中学」が設立された。選抜されたベトナム青年約400人は、日本人教官から戦技・戦術をはじめ、指揮統制要領など日本陸軍の実戦ノウハウを学んだ。
そして、約800人ともいわれる残留日本兵は、ベトナム人とともにベトナム独立のためにインドシナ戦争を戦い、その尊い命をささげたのだ。このことが「親日国家・ベトナム」の誕生に大きく寄与したことを忘れてはならない。
■井上和彦(いのうえ・かずひこ) 軍事ジャーナリスト。1963年、滋賀県生まれ。法政大学卒。軍事・安全保障・外交問題などをテーマに、テレビ番組のキャスターやコメンテーターを務める。航空自衛隊幹部学校講師、東北大学大学院・非常勤講師。著書に『国防の真実』(双葉社)、『尖閣武力衝突』(飛鳥新社)、『日本が戦ってくれて感謝しています−アジアが賞賛する日本とあの戦争』(産経新聞出版)など。