名曲案内〜交響曲編T〜
(サン=サーンスからシューベルトまで)



    
  やはりクラシックの華といえば大編成のオーケストラによる交響曲(シンフォニー)でしょう。
  日本のコンサートのプログラムでは常にメインに陣取る大曲ばかりです。
  クラシック鑑賞は、交響曲に始まり交響曲に終わるといってもいいでしょう。 

サン=サーンス     ・シベリウス     ・シューベルト


交響曲編U(シューマン〜チャイコフスキー)へ     ・交響曲編V(ドヴォルザーク〜フランク)へ

交響曲編W(ブラームス〜プロコフィエフ)へ     ・交響曲編X(ベルリオーズ〜ベートーヴェン<運命>)へ

交響曲編Y(ベートーヴェン<田園>〜<合唱>)へ     ・交響曲編Z(マーラー〜メンデルスゾーン)へ

交響曲編[(モーツァルト〜ラフマニノフ)へ




☆サン=サーンス
交響曲第3番「オルガンつき」  ★★★  最新更新日 2013年11月
  

 この交響曲はサン=サーンスの代表作であるとともに、交響曲にオルガンを導入するという画期的な試
 みがなされた曲です。また楽曲構成も、普通の交響曲ならば4楽章から構成されているのですが、この
 曲は第一部、第二部に分かれていて、それぞれ2つの部分から成り立っています。曲数は結局4曲で同
 じです。通称は「ガンつき」。
 サン=サーンスはちょうどロマン派から20世紀の現代音楽に移り変わる時の過渡期に生まれた作曲家
 で、古典派、ロマン派の様式を大切にしながらも、新しい形式の音楽を模索していました。
 この交響曲はその意図が見事に表された名作で、オルガンとオーケストラの音色が絶妙な形で織り交ぜ
 られています。

第4楽章(チョン・ミュンフン指揮)
 ☆推薦盤☆    ◎デュトワ/モントリオール交響楽団(82)(デッカ)             S   ・デュトワ/モントリオール交響楽団(82)(デッカ)             S     ▲ミュンシュ/ボストン交響楽団(59)(RCA)               A  S○・ミュンシュ/ボストン交響楽団(59)(RCA)               A   ・ミュンシュ/ボストン交響楽団(59)(RCA)               A    ○チョン・ミュンフン/パリ・バスティーユ管弦楽団(91)(グラモフォン)   A      一番のお薦めはデュトワ盤ですが、音質向上もあってミュンシュ盤の評価が再浮上。    今までの実績から言えばデュトワ盤で、録音も良く、SHM−CDもお薦め。安定度から言っ    て、このCDをまずお薦めします。ミュンシュ盤は現在廃盤中(?)という事情もありますが。    ミュンシュ盤は59年録音の割には、RCAだけあって音が良好。通常のCDはカップリング    も魅力ですが、XRCDはこの作品のみなのでご注意を。上から4番目のhybridSACDは普    通のCDプレイヤーでも再生可能です。    チョン盤は、A評価とは言っても将来デュトワ盤に並びうる可能性を持っており○評価です。   
☆シベリウス
交響曲第2番  ★★★  最新更新日 2013年11月
  

  シベリウスの交響曲というと、何でも「第2」「第2」と言われることが多く、7曲ある彼の交響曲の
 中では断然の演奏機会を誇っていて、最もポピュラーな作品です。通称「シベ2」。
 では、最もシベリウス的な作品であるかというと、シベリウスの【本質】は「第4」「第5」あたりに
 あると言われています。
 この「第2」に人気があるのは、シベリウスの交響曲の中では唯一と言っていいほど解りやすいからで
 しょう。特に、第3楽章から第4楽章にかけてのスケールの大きな旋律はいかにも北欧のムードに溢れ
 ていて、覚えやすいです。シベリウスの「本質」からは、ずれるかもしれませんが、何とも言えない醍
 醐味があり、この旋律に惹かれる方は多いのでは。
 しかし、この曲や「ヴァイオリン協奏曲」はあくまでシベリウスの入門用。シベリウスの本質は、内省
 的、つまり他人に「うける」音楽を作ったわけではなくて、大衆向けではなく、もっと暗く、非常に解
 りにくい音楽と言われています。
 この曲に惹かれて「第5」あたりを聴いても、何だかよく解らないと思われるのでは。

第4楽章(6:40からです)
   ☆推薦盤☆   ・ベルグルンド/ヨーロッパ室内管弦楽団(97)(フィンランディア)    S  ◎ベルグルンド/ヘルシンキ・フィル(86)(EMI) 2枚組       A売れてます!   ○ベルグルンド/ヘルシンキ・フィル(86)(EMI)           A  ・ヴァンスカ/ラハティ交響楽団(96)(BIS)             A   △バルビローリ/ハレ管弦楽団(66)(EMI)              A S×・バルビローリ/ハレ管弦楽団(66)(EMI)              A   △ベルグルンド/ヨーロッパ室内管弦楽団(97)(フィンランディア) 全集 A  ▲ベルグルンド/ヨーロッパ室内管弦楽団(97)(フィンランディア) 全集 A      現在、演奏自体の評価が高いのは、ベルグルンドの新盤。97年という新しい録音も大変魅力    的で、指揮者がベルグルンドとくれば当然イチオシ。1番上のCDは2枚組で、1番から3番    までが入っています。しかし、廃盤中。ジャケットだけでもと思い、残しておきました。稀に    在庫が入ることがあります。    下から2番目にあるのはベルグルンドの新盤の全集で、これがあれば第7番まですべてことが    足りるのですが、在庫がないことが多く、お値段も高いです。一番下は全集の輸入盤で、国内    盤の半額以下です。輸入盤とは言え、結構お薦めです。    ベルグルンド&ヘルシンキ・フィルの旧盤も評価はそう劣っていません。国内盤もありますが、    私のお薦めは2つ目の輸入盤。第1番から第4番までが入っている2枚組なのに、お値段は何    と、国内盤1枚よりお安いというお得さ。    どうしても輸入盤がお嫌いな方は仕方ないですが、これはお得!いきなりシベリウスの音楽か    ら聴く初心者の方がもしいらっしゃっても、お買い得なこの輸入盤がお薦め。     なお、ベルグルンドは、2012年1月に亡くなられました。    また、2012年6月にEMIから発売されたCDは上記の推薦盤ではないのでご注意下さい。      3番目のヴァンスカは、1953年生まれとまだ若い指揮者。フィンランド生まれで、無名だ    ったラハティ交響楽団と20年に渡ってシベリウスを研究、演奏し続け、90年代の録音によ    って一躍、名シベリウス指揮者に名を連ねた逸材。今後の評価次第では、ベルグルンドを抜い    て過去最高のシベリウスのスペシャリストになる可能性もあります。その意味でこちらもお薦    めですが、2番目の輸入盤のベルグルンド盤に比べると、かなり割高。リンク先はHMV。    バルビローリ盤(66年の新盤)もA評価。録音年の割に音はみずみずしいけれども、シベリ    ウスと言ったらやはりベルグルンドの演奏を聴いて頂きたいところです。バルビローリのSA    CDは専用再生機器が必要です。    よって、現在、シベリウスの交響曲(第1番〜第7番)を鑑賞するには、ベルグルンド&ヘル    シンキ・フィルの2枚組の輸入盤2種を揃えるのが現在の常道ということになるでしょう。    お値段は、2セット、計4CDで3000円弱です。
交響曲第5番  ★★★★★  最新更新日 2013年11月
  

 シベリウスの交響曲で、作曲者の本質に満ちているのは第4番から第7番と言われます。いずれも孤高
 の作曲家シベリウスらしく、寂寥感に満ちた内省的な音楽なので、大衆性からはほど遠く、非常に難解。
 つまり、シベリウスの音楽というものは、モーツァルトのように作曲依頼があって、大衆受けする曲を
 作曲するという職人作業のようなものではなく、全くと言っていいほど、「聴き手」を無視した、自己
 満足的な作曲作業なのです。シベリウス自身が、我々聴き手に「うける」音楽を作ろうとしないので、
 理解するのが難解になってしまっています。言わば、心の内面を書き綴った日記のようなもの。
 それらの中で、最もシベリウスの魅力を味わえるのが、この「第5」と言われています。シベリウスは、
 作曲中に次のように記しています。

 「日はくすみ、冷たい。しかし春はクレッシェンドで近づいてくる。今日は十六羽の白鳥を見ること
  が出来た。神よ、なんという美しさであろうか。彼らは私の頭上を長いこと旋回し、くすんだ太陽
  の光の中に消えていった。自然の神秘と生の憂愁。これこそ第5交響曲のテーマなのだ。」

 つまり、北欧の清らかな自然と、有限である生に対する内省的な虚無感がシベリウスのテーマ。
 これをヒントに是非聴いて頂きたいと思います。
 

第1楽章
 ☆推薦盤☆    ・ベルグルンド/ヨーロッパ室内管弦楽団(96)(フィンランディア) A   ◎ベルグルンド/ヘルシンキ・フィル(86)(EMI) 2枚組    A売れてます!    △バルビローリ/ハレ管弦楽団(66)(EMI)           B  S×▲バルビローリ/ハレ管弦楽団(66)(EMI)           B    ▲ベルグルンド/ヨーロッパ室内管弦楽団(97)(フィンランディア) 全集 A   ○ベルグルンド/ヨーロッパ室内管弦楽団(97)(フィンランディア) 全集 A    シベリウスの第2番のベルグルンドの新盤のCDは2枚組なのでお高いのですが、第5番には    1枚だけのCDがあって、演奏自体も現在トップ評価。1番上のCDです。カップリングは第    7番なので、こちらもファンにはたまらないでしょう。    しかし、このCDも廃盤中。時々、在庫があることもありますが…。    現在の常道、2枚組の輸入盤は、曲数は多いのに格安。第5番から第7番までが収録されてい    るので、まさにシベリウスの本質が凝縮されたCD。これが現在では一番のお薦めです。    下から2番目の国内盤の全集は高すぎですが、現在は廃盤中のようです。    一番下は輸入盤の全集ですが、国内盤の半額以下なので、○評価としました。    ヴァンスカ盤は97年という新しい録音で、この演奏によって一躍、名シベリウス指揮者に名    を連ねた新進気鋭のヴァンスカによる演奏。まだ評価が確立していないだけに将来性に期待し    たいところですが、いくら国内盤だとしても、ちょっとお高いのは難点。    バルビローリ盤は、ベルグルンド以外の演奏を聴きたい方にお薦めです。バルビローリはイギ    リス出身の指揮者ですが、数少ないシベリウス指揮者の一人。SACDもありますが、専用の    再生機器でないと聴けません。    やはり、現在、シベリウスの交響曲(第1番〜第7番)を鑑賞するには、ベルグルンド&ヘル    シンキ・フィルの2枚組の輸入盤2種を揃えるのが現在の常道ということになるでしょう。    お値段は、2セット、計4CDで約3000円弱です。
交響曲第6番  ★★★★  最新更新日 2013年11月
  

 第6番は、第5番に比べると聴きやすいでしょう。もちろん、シベリウス独特の、内省的で孤独な音楽
 であることに変わりはありませんが、この第6番には清らかな自然の詩情が溢れています。また、北欧
 の舞曲が加わっていることもあり、愉しさと寂寥感を持ち併せている曲。
 よって、第2番ほど大衆向けの曲ではありませんが、第5番がまだ解りにくいと感じた方は、こちらの
 第6番を先にお薦めします。

第1楽章
 ☆推薦盤☆        ◎ベルグルンド/ヘルシンキ・フィル(86)(EMI) 2枚組       A売れてます!    ○ベルグルンド/ヘルシンキ・フィル(86)(EMI)           A   △ヤルヴィ/エーテボリ交響楽団(83)(BIS)             A    △ヴァンスカ/ラハティ交響楽団(97)(BIS)             A      △ベルグルンド/ヨーロッパ室内管弦楽団(97)(フィンランディア) 全集 A   ▲ベルグルンド/ヨーロッパ室内管弦楽団(97)(フィンランディア) 全集 A      ベルグルンド盤には例によって第1番とカップリングの国内盤がありますが、やはり今は第5    番から第7番までが入った輸入盤が第一にお薦めです。現在、シベリウスの交響曲鑑賞の常道    と言えるCDで、3つの交響曲が入っていてこのお値段は格安と言えるでしょう。当然、もう    一組も揃えたいです。    次のヤルヴィ盤とヴァンスカ盤もベルグルンドに匹敵するほどの評価を得ています。ヤルヴィ、    ヴァンスカ、バルビローリも名シベリウス指揮者なので、安心してシベリウスの魅力を満喫で    きるし、新しい録音も魅力なのですが、かなり割高です。ヴァンスカ盤は国内盤です。    できれば、ベルグルンドの新盤の全集が一番のお薦めなのですが、それに当たる5番目のCD    は現在廃盤中のようで、復活したとしても高すぎます。価格を気にしない方には一番のお薦め。    その半額以下なのが一番下の、新盤の全集の輸入盤ですので、今はこちらの方がお薦めです。    やはり、現在、シベリウスの交響曲(第1番〜第7番)を鑑賞するには、ベルグルンド&ヘル    シンキ・フィルの2枚組の輸入盤2種を揃えるのが現在の常道ということになるでしょう。    お値段は、2セット、計4CDで約3000円弱です。  
☆シューベルト
交響曲第5番  ★★  最新更新2014年7月
  

  シューベルトの交響曲というと「未完成」「ザ・グレイト」の2曲の演奏機会が断然多く、「第5」は
 それほどポピュラーな曲ではないため、「私の隠れた名曲」になってしまいそうですが、モーツァルト
 の第35番「ハフナー」と似ていて、交響曲にしては各楽章が短く、覚えやすい旋律に満ちています。
 第1楽章などはとても明るいので、初心者の方向けの交響曲としても良い作品。「未完成」はポピュラ
 ーですが、短調の曲であるし、曲の意味も解りづらいので、もっと情緒にあふれた、明るいこの曲の方
 が親しみやすいのでは。ワルター盤はほぼ下リンクから聴ける演奏のテンポです。
 その分、情緒重視で、あまり深みのない曲なので、中〜上級者の方には飽きが来やすいかも。
 

第1楽章(ビーチャム指揮 ワルター盤のテンポに近いです)
 ☆推薦盤☆   ◎ワルター/コロンビア交響楽団(60)(SONY)         S売れてます!  ▲アーノンクール/ロイヤル・コンセルト・ヘボウ(92)(テルデック)S   ○ブリュッヘン/18世紀オーケストラ(90)(デッカ)       A   △アバド/ヨーロッパ室内管弦楽団(86)(グラモフォン)      A      録音年の古いワルター盤と、アーノンクール盤の争い。    私の一番のお薦めは以前から文句なくワルター盤です。ワルターらしく、情緒や歌いを重視し    ているので、シューベルティックな、ウィーンのムードが溢れる愉しさを満喫できます。    アーノンクールとは正反対の19世紀的スタイル。なので、テンポが遅すぎると感じる方がい    るかもしれません。    カップリングは「未完成」で、この「未完成」は次でご紹介しているように、第一に推しても    いい程の歴史的名演ですから、むしろ第5番は「未完成」のカップリング曲として聴けます。    一石二鳥というか、こちらのCDの方が1枚で全く無駄がないという意味では第一のお薦め盤。    2番目のアーノンクール盤はコンセルトヘボウとの録音なので現代楽器です。「未完成」「ザ    ・グレイト」も入った2枚組で、現在はSHM−CDしかありませんが、第5番はおまけと考    えれば、結構お得なのかもしれないCDです。    この演奏は、現代楽器のオケによるものですが、いわゆるピリオド・アプローチ。彼は現代楽    器での演奏においても、こういうスタイルが多いです。この点に違和感のない方にはお薦め。    個人的には、情緒重視のこの作品にはどうも合わない気がしますが…。    ブリュッヘン盤は完全な古楽器による演奏。古楽器好きな方には文句なくお薦めしたいのですが、    「個人的には」イマ一つ第1楽章が堪能できないのが不満なところです。    どうしてもワルター盤が古いという方には、アバド盤をお薦めしたいのですが、カップリングが    「第6番」という超マイナーな作品。どうでしょうか。
交響曲第8(7)番「未完成」  ★★★  最新更新日 2013年11月
  

  シューベルトはおろか、あらゆる交響曲の中でも知名度はトップクラス。普通、交響曲というのは4つ
 の楽章から構成されているのですが、名前のごとく、2つの楽章しかありません。よって演奏時間が短
 いので、初心者の方にはそれだけでも聴きやすいでしょう。未完成に終わってしまったのが意図的であ
 るのかは、未ださだかではありませんが、シューベルトがそれ以上書けなかったからという説が定説。
 曲はシンフォニックな第1楽章と、ウィーン情緒に溢れた第2楽章から。特に第2楽章の美しい弦の響
 きは筆舌に尽くしがたいでしょう。しかし、初心者の方には、特に第1楽章など今一つ難しいところが
 あり、短調ゆえの暗さもあるので、やや中級者向けとしてみました。
 昔はベートーヴェンの「運命」との組み合わせのレコードが最も売れた時代もあるらしいです。
 ちなみに、巷のCDショップや書籍では今でも「交響曲第8番」で通っていますが、近年、「第7番」
 ではないかという説が浮上。そのため、録音の新しいCD、例えば推薦盤に挙げたアーノンクール盤で
 は「第7番」となっているのでご注意を。再発売のたびに「第7番」に変わっているCDが多いので、
 近い将来に全面的に変わるかもしれません。
 ちなみに、「シュー8」とは呼ばれず「未完成」と呼ばれるので、第7番になったとしても大丈夫。


第1楽章(何とクライバー指揮!)   全楽章(フルトヴェングラー指揮)
 ☆推薦盤☆   ○カルロス・クライバー/ウィーン・フィル(78)(グラモフォン)  Sかなり売れてます!   ・カルロス・クライバー/ウィーン・フィル(78)(グラモフォン)  S   ▲インマゼール/アニマ・エテルナ(96)(SONY)        A   ◎☆ワルター/ニューヨーク・フィル(58)(SONY)       Aかなり売れてます!  △アーノンクール/ロイヤル・コンセルト・ヘボウ(92)(テルデック)A   △ヴァント/ベルリン・フィル(95)(RCA)           B   ☆ムラヴィンスキー/レニングラード・フィル(77)(ALTUS)  ?      A評価が3つ並んだように「未完成」には断然のCDはありませんが、その中でもクライバー    盤が一歩リード。この演奏はいかにもクライバーらしい演奏で、スコア(楽譜)に忠実に、現    代的な、シンフォニックなアプローチによる演奏。第1楽章は彼の音楽性が存分に活き、強音    と弱音のバランスが絶妙。そして切れ味が抜群。ぜひ上のリンクからどうぞ。    それ以上に素晴らしいのが第2楽章で、極めてデリカシーに満ちた旋律の歌いが特筆もの。彼    の耳の冴えの才能には改めて脱帽です。    古楽器演奏の第一人者とも言える、イン・マゼール盤は個人的には素晴らしいと思います。古    楽器なので、ワルター盤のように古き佳き時代を伝える演奏とは逆に、斬新な、21世紀的ア    プローチの古楽器演奏。となると、下記のアーノンクールピリオド・アプローチと似ている    ということになりますが、こちらは強弱の差や音楽の構築が崩れることがなく、クライバー盤    並みに力強い演奏。アーノンクール盤とは似て非なる演奏で、古楽器演奏としてはベストなの    は言うまでもなく、古楽器演奏を超越しているほどの素晴らしさ。彼の演奏は、決してこじん    まりとはしていません。私はアーノンクールの演奏の後に聴いたので、正直驚きましたが、こ    の作品だから合っているという面もあるとは思います。古楽器ファンは必聴もの。超お薦め。    インマゼールには、もうひと仕事、素晴らしい名演を残してくれることに期待します。    ワルター盤は古くからの名盤。第2楽章はテンポを落とし、古き佳きウィーン情緒を伝えます。    いかにも彼らしい演奏で、最もシューベルトを堪能できる演奏といったらこれでしょう。これ    こそ19世紀生まれの大巨匠ワルターが現代の私達に伝える、19世紀のウィーン音楽そのも    のです。情緒性満点の、「癒し」の音楽です。    私は指揮者としてはクライバーの方が好きなのですが、この曲の演奏だけに限って言えば、ワ    ルターの演奏の方が好みです。どちらも甲乙つけがたい名盤で、この楽曲のファンの方は是非    両方揃えたいところでしょう。古楽器がお嫌いでなければイン・マゼール盤もぜひ。    アーノンクール盤は、第5番での紹介がそのままあてはまります。あえてヴィブラートをあま    りかけずに、音を短く刻むピリオド・アプローチ。しかし結構スケールは大きいので、この演    奏をベストに挙げる方もいるかもしれない程の演奏。私個人的には、スタイル的に第2楽章が    今一つ堪能できないし、第1楽章も合わせて、やけに弱音が弱々しいのでは、と感じます。    お買い得度として、現在は1枚ものがないのも痛いでしょう。     なお、「ロイヤル・コンセルト・ヘボウ」と「アムステルダム・コンセルト・ヘボウ」は同じ    オーケストラです。     ヴァント盤は従来からの解釈に基づいた20世紀風「未完成」。どっしりと地に足の着いた、    充実した響きを聴かせてくれる、オーソドックスな巨匠的スタイルの名演、模範的演奏です。    最後のムラヴィンスキー盤は、20世紀の大巨匠ながら常識を超越した芸術家、ムラヴィンス    キーの個性が存分に顕れている伝説的演奏です。楽譜通りではないため、さすがに大衆的な要    素には欠けますが、辛口音楽評論家のU野氏が「いのちを捧げてもいい」と思った演奏。何が    違うのかと言いますと、音色から表現からすべて。表現したいものすら理解するのが難しい、    極めて抽象的、異次元の「未完成」ですが、ムラヴィンスキーの録音の中では珍しく音質が良    いものでありますし、彼の芸風を知る意味では、U野さんの言葉を信じてみるのもいかが。    私の評価はA〜Sで、この作品が好きな方には絶対に聴いて頂きたい演奏です。
交響曲第9(8)番「ザ・グレイト」  ★★★★ 最新更新日 2013年11月
  

  クラシックの名曲紹介などに書いてあるこの曲の解説は、大体が「シューベルトは本来小品向けの作曲
 家だが、50分を超える大作を作るに至った。それが交響曲第9番『ザ・グレイト』である。この曲は、
 いたるところにシューベルトならではの美しい旋律が散りばめられ、かつオーケストラは堅固な造形を
 持ち、スケールの大きな名作となった。シューベルトのロマンティシズム溢れる世界が堪能できるだろ
 う。シューマンはこの曲のことを『天国的長さ』と評した」のようなものとなっています。
 この曲のファンの方ならば事実そのように思われるかもしれませんが、シューマンの「天国的長さ」と
 いう言葉は、真にこの曲を理解できえた者のみが味わえる至福の時ということで、裏を返せば、初めて
 この曲を聴く方にとっては、単に冗長にしか感じられず、いかにも退屈な音楽であることを示唆しても
 いるらしいです。よって、この曲は数回聴いただけで好き嫌いがはっきりと分かれてしまう曲であり、
 また指揮者によっても退屈そのものとなってしまうでしょう。
 推薦盤に挙げた指揮者は「評論家の評価が高い」指揮者を挙げたわけなので、必ずしも初めて聴く方の、
 「聴きやすさ」を示したものではないという点にご注意下さい。
 「聴きやすさ」の一番の目安となるテンポについても触れながらご紹介していきます。
 また、そういった曲の性質から、楽章ごとに分けて聴き込んでいくのもいい方法ではないでしょうか。


第1楽章(ベーム指揮)
 ☆推薦盤☆   ◎フルトヴェングラー/ベルリン・フィル(51)(グラモフォン)     A   △インマゼール/アニマ・エテルナ(96)(SONY)          A   △インマゼール/アニマ・エテルナ(96)(SONY)          A   △フルトヴェングラー/ベルリン・フィル(42)(グラモフォン)     A   ○ヴァント/ベルリン・フィル(95)(RCA)             A  ・ヴァント/ベルリン・フィル(95)(RCA)             A   ▲ワルター/コロンビア交響楽団(59)(SONY)           B   ・ベーム/ベルリン・フィル(63)(グラモフォン)           B       この作品にはこれといった突出したCDがありません。おそらく聴く人によって要求が異なる    からでしょう。◎▲などは、少々私の主観を交えたお薦め度合いです。    まず、一番目から三番目のフルトヴェングラー盤ですが、彼は言わずと知れたドラマチックな    演奏が特徴の指揮者なので、一度気分が乗ったときは、速いテンポで一気に突っ走ってしまう。    よってどちらかというと聴きやすいはずでしょう。一番目が正規の国内盤のCDです。    4番目は42年録音と古いのですが、こちらの方が臨場感があるという意見もあるので挙げて    おきました。      2番目のインマゼール盤は古楽器の演奏。このCDが人気がある理由は、テンポの速さによる    聴きやすさ。ここで紹介しているCDの中では最も速く、96年の録音も魅力です。    「未完成」同様、構築がしっかりしており、見事なまでの古楽器演奏。演奏自体は◎にしたい    ほど。amazonでは在庫がないため、HMVへのリンクを3番目に貼っておきました。    ただし!古楽器演奏というのは作曲された当時の演奏を再現するというのが第一の主旨である    ため、楽譜の反復記号にはすべて従い、演奏時間自体は長くなります。しつこく感じるかもし    れません。    ヴァント盤は、A評価の中では唯一の、音も良く、現代楽器による演奏。そういう意味ではこ    れが一番のお薦めですし、ヴァント自身、ブルックナーベートーヴェンにおいても意外に速    めのテンポをとる指揮者なので、「演奏」に限っては、お薦め度○としておきましょう。    ところが、このCDは「未完成」とのカップリングで2枚組にしても、ちょっと高すぎです。    XR−CDもありますが、やはりお高いのでどうでしょうか。    A評価の中でいいCDが見つからない方のために、B評価のCDを2枚ご用意しました。曲紹    介に書きましたが、「評論家にとって」B評価なわけですから、A評価のCDとの差はあまり    気にしなくてもいいのではないでしょうか。    ワルター盤は、演奏としてはワルターの魅力が存分に出ており、一番シューベルトらしく、模    範的な演奏なのでは。「シューベルトらしい」ワルターの演奏とは、ゆっくりと存分にシュー ベルトの旋律の美しさを歌わせる演奏であるということなのですが、意外にもこのCDの演奏    時間は短いです。というのは、ワルターの場合、ほとんどの演奏において、反復記号を無視す    るからです。テンポとは関係なく、楽譜の繰り返しを省略しているので当然その分時間が短く    なります。ということで、このCDは3番目にお薦めです。    ステレオ世代の指揮者は、反復記号そのままに演奏するので、演奏時間は必然的に長くなりま    す。このことは知っておいて損はないでしょう。ワルターら19世紀から20世紀にかけて活    躍したモノーラル世代の指揮者は、概して反復を無視する傾向にあります。家庭に音楽再生機    器がやっとできた時代、反復すると聴き手が飽きてしまうからなのでしょうか?    特にワルターは、ほぼすべての楽曲の演奏で反復は省略をしています。こんなことも、CD選    びの際には大きなポイントになるかもしれません。ご参考にどうぞ。    反復されるとしつこいと感じるか、省略されると物足りないと感じるかは、それこそお好み。    最後のベーム盤は、「未完成」とのカップリングで1200円以下とは、あまりに格安。その    意味ではお薦めCDなのですが、ベーム特有の重厚さがあり、ここに挙げた演奏の中で、悪く    えば一番「重苦しい」演奏と感じる方が多いかもしれません。私が張本人です。むしろ、「未    完成」の方が伝統的でいい演奏に思えます。もっと評価されてもいいのに…。


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