ショーン・コネリー主演の「理由」は重厚で重いテーマと向き合った名作である。
では、宮部みゆきの「理由」映画版はというと。
う~ん、はっきりいって失敗作だと思うのだ。
人それぞれ感想は違うと思うが、原作本を読んだ自分的には「駄作」としか映らない。
なぜ、ああなるのか?
大林監督は原作に忠実に、すごく生真面目に映像化することに、一応は大成功していると思うし、それは認める。
だからこそ、駄作なのだ。
原作に忠実に映像化…するべきではないのだ。
というか、大体が無理難題の極なのだと思う。
劇場で見たのだが、とてもガッカリしたことをおぼえている。
反対に「模倣犯」は、無論同様に賛否両論があるのだろうが、自分的にはすごく面白かったと思う。
さてさて、見所、ねぇ~。
あることはある。多々ある。
なんしか107人が出演したという大作だ。
「20世紀少年」並みやな~と笑ってしまった。
とりあえず夥しい数の出演者の中で確認できた役者を。
すっぴんの宮崎あおい。
「害虫」のときと外見はまったく変わっていない。
が、それなりの貫禄や存在感が出てきているというか。
あと今のまんまを子どもにしたような多部未華子と寺島咲。
特に寺島咲の演技はすごい。
寺島も多部も、一応この時点で新人らしい。
あとそれから、岸辺一徳、大和田伸也、木野花、久本雅美、小林聡美、風吹ジュン、泉ピン子、ベンガル、柄本明、小手川佑子などなど。
あと、裕木奈江、細山田隆一。
そしてなんといっても加瀬亮と伊藤歩だな。
サントリーオールドのカップルの再現だ(笑)。
加瀬君の演技が危なすぎて、かなりきている。
素晴らしいな。
伊藤歩も相変わらずの存在感で、このふたりがあの多数の演技者の中に全然埋もれていないのは特筆できよう。
伊藤歩のへの字眉毛での「薄幸感演出」もOKだ!
特に「背中の演技」が秀逸だ。
すごい役者は言葉が全然なくても、トンデモナイ空気を見事に演出できるんだね。
「昼顔」で演じている「夫を寝取られる、ちょっとヒールなエリート学者」役なんて、本当にらしくないんだよな(笑)。
上戸彩をどついて「泥棒猫!」と罵る役なんてさ、世間的に印象悪いだけじゃん。
そういう点にだけ注目が集まってさ。
どちらかというと、罵られる立場のほうが、彼女の持って生まれた神がかり的演技のポテンシャルを、もうそれこそ十二分に発揮できるかもしれない。
いろいろな役を演じられるからこそだと思うのだが、伊藤歩はこういうくだらない役でのみ、その役者としてのポテンシャルを評価されて欲しくないなと、つくずく思う。
彼女は本当に本当に、それはすごいプロの職業女優なんだからさ。
さてと、
各人の独白が折り重なってゆくという展開である。
独白の主要人物となる岸辺一徳は、そう考えるとかなり出演時間が長いし、話す内容もダラダラと長い。
が、不思議としつこさがない。
いやいや、本当にうまいのだ。
で物語の尺的には、随分と端折っての160分。
めっちゃ長い。
が、なぜか長く感じない。
それは、ちょうど読書しているようなスピードで展開されて行くからだろう。
物語は1996年6月2日、東京23区に大雨洪水警報が発令された夜のこと。
荒川区の超高級マンションで殺人事件が発生することに端を発する。
が、一応この前にプロローグがあり、エンディングはそこへとつながってゆくという手法。
物語については多くを語らないが、要するにひとつの家族と思われていた被害者4人が、そうでなかった、要するにそれぞれまったくの他人の集合体だったというところがまず初めの鍵となる。
殺された4人は、じゃぁ、一体誰なんだ..と。
この前後から夥しい数の伏線が張り巡らされて、そしてやがて、それらが多数の人の証言を元に次第に回収されて行き、最後にはひとつの糸として絡まってゆく。
そして殺害された各人の身元がわかり始めたところで、今度は、では誰が殺したのかと言うことに主眼がスライドする。
物語を通しての「事件のキーを握る人物」は加瀬亮、伊藤歩、勝野洋だが、実は中盤過ぎまでほぼ露出がない。
2/3は出ていないのだ。
しかし最後の約30分は、この三人の独壇場状態に相成る。
特に、伊藤歩が赤ちゃんを抱えて玄関でぶっ倒れるシーンの放つ凄味は、この映画の中のハイライトだと思った。
背中が断末魔の絶叫みたく泣き狂っているからだ。
こうやって通してみると「なんだ、それだけの事か」と思ってしまうが、家族と思っていた人たちが「そうではなく他人の集まりだった」という点に都会的なホラーっ気を感じずにはいられない。
ま、そこだけかもしれない(笑)。
ところで、原作発表時は、地価の高騰問題が社会的関心を呼んでいたりした。
占有屋という人たちの存在も一般に周知されたりしたと聞く。