(2014年9月30日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
北極海に面したロシアの港町、ムルマンスク。旧ソビエト時代のぼろぼろな水産加工場を利益の出る企業に変える試みを20年以上続けてきたミハイル・ズブさんは、何度か破綻の淵に立たされてきた。しかし、今回はそのどれよりも厳しい状況に置かれている。
ウクライナ関連の経済制裁への報復としてロシア政府が先月、西側諸国からの食料品輸入を禁止したために、ノルウェーからの魚の供給が一夜にして絶たれたのだ。
ロシア経済全体にきしみ
ズブさんは、輸入を禁止したロシア政府を相手に訴訟を起こして会社を救おうとしている。しかし、ムルマンスクの住民で、夫が暇になった水産加工場から自宅に戻るように言われたと話すタチアナさんは悲観的だ。「(ズブさんは)へこたれない人だからね。でも、うまくいかないと思う。工場はもうダメよ」
厳しい状況に直面しているのはムルマンスクだけではない。西側諸国からの制裁が6カ月目に入り、ロシア経済全体がきしみを見せ始めている。世界銀行は新たにまとめた報告書で、制裁がこのまま続けばロシア経済は2015年に0.9%、2016年にも0.4%それぞれ縮小する恐れがあると警告している。
昨年も低迷していた固定資産投資は、今年に入ってからの8カ月間で2.5%減少した。また、モスクワ証券取引所で活動する独立系証券会社では最大手となるBCSプライムは、今年の年末までにインフレ率が8%に達すると見込んでいる。
この悪い組み合わせのために、ロシアの経済成長を長期間それなりに支えてきた消費需要も落ち込んでしまった。物価の上昇と融資拡大ペースの減速のせいで、今年の1月から8月の間に実質所得の増加に急ブレーキがかかったのだ。
「2014年の実質所得はマイナスになり、2015年も小幅な伸びにとどまると私は見ている」と、BCSプライムのチーフエコノミスト、ウラジーミル・チホミロフ氏は語る。
新車販売が2ケタの大幅減、心理の冷え込みが経済以外にも波及する恐れ
最も劇的な変化を見せた市場の1つに自動車市場がある。欧州ビジネス協議会(AEB)によれば、8月の新車販売台数は前年同月比で26%も減少した。今年1~8月期の新車販売台数も前年同期比で12%減っている。
高級車はこれまで前年割れを免れてきたものの、自動車関連企業の幹部らによれば、今年2月にはロシア全土の合計で27台売れたベントレーが8月には2台しか売れなかったという。