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【社会】

富裕層税逃れ、監視強化 国税当局が専従チーム

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 国税当局が、巨額の資産を持つ富裕層への監視を強めている。海外資産を申告せず、子への相続や贈与などで納税しないケースが目立つためだ。悪質な税逃れもあるとみられ、当局は東京と大阪に専従チームを設け、適正に課税しようと狙う。一方、富裕層側は海外移住を進め、短い期間で外国を転々とする「永遠の旅行者」になるなど、新たな資産防衛策を採る人も出ている。 (土門哲雄)

 「昨年、一昨年は海外に移住するお客さまをたくさん見送りました」。都内の税理士の男性(43)が明かす。こうした顧客の多くは富裕層。来年から相続税が最高50%から55%に引き上げられるのを前に、海外に拠点を移したという。

 国内外に数億円規模の資産を持つ富裕層。中でも数十億円規模を持つのが超富裕層。国税当局はこんな位置付けで、課税監視の目を強めているとされる。

 税金は居住国で納めるのが原則だ。このため、相続税や贈与税のない国に資産を移し、自分も移住してしまえば、税負担を大幅に軽くできる。富裕層はこの方法を節税に使い、問題視される例もあった。

 香港に住む日本人男性が二〇〇五年、企業家の親から外国法人株の贈与を受け、約千三百億円を追徴されたことが判明。当局は、香港居住を「国際的な税逃れ」としたが、最高裁は「香港での居住実態がある」と課税を取り消した。

 その後、法改正で海外居住者への課税は強化され、今年七月から当局の専従チームが超富裕層の資産の動きなどを継続的にチェックすることになった。

 国税庁の担当者は「各部署でやっていた富裕層の資産や所得の情報収集を、専従チームで横断的に担い、相続や贈与などのタイミングで適正に課税したい」と話す。

 今年一月には「国外財産調書制度」も始まった。五千万円を超える海外資産を持つ人に調書提出を義務づけ、期限内に出せば申告漏れの際に加算税を軽くする。逆に、故意の不提出や虚偽記載には罰則を科す「ムチ」も用意した。

 富裕層側はこうした包囲網をくぐり抜け、節税対策に躍起だ。その一つが「永遠の旅行者」。前出の税理士によると、世界の国では、一年間の半分超の百八十三日滞在すると、納税義務のある「居住者」とされることが多い。逆に三カ国以上を転々とし、一国の滞在期間を百八十三日未満に抑えれば、どの国にも税金を納めないことが理論的に可能だという。税理士は「実践している方もいます」と明かす。

 親子で五年超、海外に住み続ければ、海外資産の国内での課税を逃れられる。五年以内でも、子が日本国籍を離れれば税を払わずに済み、実際に「親子でシンガポールに移住し、父は日本の不動産を自らがオーナーの香港法人に売却。子への相続に備えている」という例もあるという。

 背景にあるのは日本の重税感、将来性に対する不安だ。税理士は「税金の高い国から人や企業、カネが流出している。課税のルールがグローバル化する現状に追いついていない」と指摘している。

 

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