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「佐伯啓思京大教授」が語る「朝日新聞」と戦後民主主義の欺瞞
 なぜ朝日は過ちを犯したのか。今回、一連の慰安婦報道における検証記事や謝罪会見を見ても、本質的な原因は見えてこない。京都大学の佐伯啓思教授(64)は、その疑問を解くヒントを語った。“虚報”の背後には、朝日と戦後民主主義の欺瞞が潜んでいる、と。

 私は、一連の慰安婦問題の報道が日本の国益を損なった、と思っています。吉田証言の虚偽を放置してきたことは新聞として大きな過ちですし、朝日新聞はそのことについて強い責任を感じなければならない。一方で、私は今回の“虚報”の背後にも注目しています。

 朝日は戦後、権威ある新聞と見なされてきましたし、実際にそれを自任してきました。なぜなら、戦後日本の価値観を代表する新聞だったからです。戦後の価値観とは何か。それは、あの戦争について軍国主義的指導者を擁する政府が企てたアジアヘの侵略戦争とみなし、その反省に立って、戦後、平和で民主的な国家を造るというものです。この考えは日本政府も公式的に受け入れていることですが、実はポツダム宣言から生まれています。

 この価値観からは2つの考え方が導き出されます。一つは、政府は潜在的に危険な存在であるから、横暴を働かないように民主主義によって監視しなくてはならない。もう一つは、アジア諸国を侵略した加害者たる日本は謝罪し続けなければならない、ということです。朝日はこの戦後民主主義の立場を強く打ち出しました。その象徴が従軍慰安婦問題だったのです。

 従軍慰安婦は、民間で人身売買されたのではなく、国によって強制された、この事実が朝日にとって非常に重要でした。なぜなら、被害者の立場から日本政府を批判することで、加害者の負い目から免罪され、正義の側に立てるからです。これはズルイやり方です。慰安婦問題は、そのための格好の論点にされたと言ってもよいのではないでしょうか。

■アメリカの価値観

 今回の問題は、戦後日本の欺瞞を浮き彫りにしているように思えてなりません。戦後民主主義の考えに立てば、我々はアジア諸国に贖罪の気持ちを抱かざるを得ない。それを植えつけたのはポツダム宣言であり、アメリカの占領政策です。すなわち、朝日新聞に代表される進歩派知識人はアメリカの価値観をそのまま受け入れて、疑わない人たちだということになります。事実、原爆で被害を受けた広島・長崎の補償をアメリカに要求せよと書く新聞はありません。慰安婦問題を人権問題として追及するのであれば、まずはアメリカの大量殺戮にも強い態度で出ないといけないはずなのに、そうはしない。そこに欺瞞があるのです。

 かつて左翼思想全盛時の学生たちにとって、新聞といえば朝日でした。しかし今、多くの国民が戦後民主主義の考えに対して懐疑的です。つまり、朝日が拠ってきた思想が無効になりつつあるのです。だからこそ、かような国民的バッシングが起きたのだと思います。

 私が朝日に言えることがあるとすれば、一連の虚報問題の責任を明確にすることはもちろん、それ以上に戦後民主主義や平和主義、そしてあの戦争というものをどう考えるのか、一人ひとりの記者が自らに問うてほしい。

 朝日の良さは思想的な立場を持つことにあったのですが、その思想を普遍的な正義と勘違いしてはなりません。むしろ、それが時代から遊離したイデオロギーになりつつあることを自覚してほしい。個々の記者が一度、朝日という組織を離れて一人の言論人に立ち返ってもらいたいのです。

「特集 十八番の「自虐」はどこへ行った? 『朝日新聞』謝罪が甘い!!!」より
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