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【手記】後輩「木村社長」を厳しく批判する「中江利忠」元「朝日新聞」社長の喝
 1989年6月から96年6月まで7年にわたって朝日新聞社の社長を務めた中江利忠氏(84)。木村伊量社長の大先輩が、後輩の謝罪姿勢に大いなる“喝”を入れる手記を本誌に寄せた。朝日経営陣には、これ以上耳が痛い話はあるまい。

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 吉田清治氏によるデマが再三掲載される中、91年8月には植村隆記者による元慰安婦の聞き取りが記事に。翌年1月には慰安所に軍が関与したと報じ、93年の河野談話を経て、96年4月には「クマラスワミ報告」が国連人権委員会で採択された――。中江氏が社長を務めた期間は、朝日新聞が従軍慰安婦についての「誤報」を連発し、日本の名誉が大いに毀損された時期だった。

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 このたび吉田調書「命令違反し撤退」報道と、慰安婦報道の記事取り消しが遅きに失し、おわびしなかったことを、9月11日に木村社長と幹部が謝罪しました件について、私も元社長として、大きな責任と反省とともに、心から読者や関係者におわび申し上げます。

 特に慰安婦報道につきましては、私はこれが行なわれた時期に社長を務めておりました。当時、吉田清治氏の証言にあやふやなところがあるとは聞いておりましたし、秦郁彦さんたちによって済州島で調査が行なわれたことは把握しておりました。しかし、誤りが少しでも分かった時に早く訂正すべきところを、担当部門に任せたまま長く放置してしまいました。

 また97年3月、今回の訂正特集の前では最後の検証記事を載せることになった時、「克明に調べてはっきりさせたほうがいい」と言った記憶はありますが、それ以上具体的に指摘しませんでした。その結果、不十分な検証のままで訂正されなかったことを、相談役として見過ごしてしまいました。深く反省しております。

 植村隆君による91年の慰安婦報道についても、もっと自分から深い関心を持ってアプローチすべきでした。挺身隊と慰安婦を混同して報道していたのは事実なのに、今回の記事では説明がきわめて不十分で、「訂正する」と明言すべきでした。8月5日の検証記事が出た後、「あんな内容でいいのか」という声は社内からも聞こえましたし、掲載後の対応も遅きに失したところがありました。

■ジャーナリスト失格

 私の社長時代は、「サンゴ事件」で一柳東一郎社長が引責辞任した後を受けて始まり、新たに、外部の識者の方々に審査員になっていただく「紙面審議会」や、初めての本格的な「読者広報室」をスタートさせました。しかし、その後の紙面で特ダネや良質な調査報道が増える一方で、記者の思い込みや同僚・デスクによるチェックなどの不足が原因の、謝罪を伴う訂正もなかなか減りませんでした。

 若手記者の研修などを強化もしましたが、「不正の摘発」「真実の報道」という使命感に走るあまり、その際にもっとも必要になる、客観的に正確な個々の事実の積み上げが十分でありませんでした。今回もそのことが明るみに出たものと、あらためて大きな経営の責任を痛感しております。

 一連の問題の中で一番反省すべきは、こちらから自由に書いていただくようにお願いしていた池上彰氏の定期コラム「新聞ななめ読み」の〈訂正、遅きに失したのでは〉の掲載を、一時的に見合わせたことです。大変な間違いだったと思いますし、言論の代表を標榜する本社の“自殺行為”でした。それを批判されたことについて、記者会見で「思いもよらぬ」と答えた木村伊量社長の真意は測りかねますが、こうした発言をするようではジャーナリスト失格だと思いますし、この言葉は、この際撤回しておくべきだと考えます。

 今回のことに対応するために、朝日新聞では3つの委員会の作業がスタートします。吉田調書報道問題では「報道と人権委員会」(PRC)での審理、慰安婦報道問題では新たな有識者による第三者委員会での検証、社内では新たな「信頼回復と再生のための委員会」での具体策の決定です。第三者委員会は“翼賛委員会”では意味がないわけですから、朝日の報道を批判してきた人も含め、意見を幅広く集めるべきだと思います。こうして結論を着実に、できるだけ早急に出し、経営トップの交代と人心一新を果たすことです。

 ここまで大きな事態を招いた以上、木村社長は交代すべきです。会見では遠まわしな表現でしたが、辞める覚悟なのだなと私は見ておりました。社長以外の役員の交代も視野に入れて検討していくべきでしょう。

 私は昔の先輩としての責任も感じていますから、読者および国民の疑問と期待にちゃんと答えられるような「出直し報道」が展開できるように、今後も十分にウォッチして、必要な時は厳しい意見をぶつけることも考えています。

 その中で、誤報については、新たな特集紙面で具体的にていねいに再検証と謝罪をし、また、本社の報道が「河野談話」や国連人権委員会の報告に影響を与えたかについて、読者の納得が得られるような十分な検証が必要だと思います。

 慰安婦問題そのものについては、安倍首相も「広義の強制性はあった」と、当面は河野談話を踏襲する考えを明らかにしていますが、より説得力のある取材と報道で、この問題の本質をさらに追究していくことが、あらためて求められていると思います。

「特集 十八番の「自虐」はどこへ行った? 『朝日新聞』謝罪が甘い!!!」より
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