【御嶽山噴火】心臓止まった友、山に残し 「頑張れ」寄り添い数時間 魔法瓶で難逃れた人も
噴火で降り注ぐ大小の岩。懸命の励ましも届かず、心臓が止まった友人を やむなく山に残してきた男性は「確かめるまで帰れない」と麓で待った。ザックに入った魔法瓶が間一髪、頭を守ってくれた人も。御嶽山の山頂には灰に埋もれた人々が。山小屋に逃れた登山者は不安な思いで一夜を過ごした。
茨城県ひたちなか市の鈴木貴浩さん(35)は山頂付近にいた時、突然空が真っ暗になった。一緒にいた友人2人のうち、大学時代の後輩の女性(35)が倒れ、意識がない。噴石が当たった脚が不自然に折れ曲がり、大量出血していた。
山小屋は見えていたが、運べなかった。傷口を止血し、心臓マッサージしながら「頑張れ、頑張れ」と必死に声を掛け続けた。だが、27日午後3時か4時ごろ、鼓動が止まってしまったのが分かった。 無念の思いで女性を残し、下山した。
大学卒業後も、登山やスキーによく一緒に遊びに出かけた10年来の友人だった。鈴木さんは安否不明者の家族らが待機する長野県木曽町役場の部屋で捜索を待った。「できることはしたが…。搬送されることを願っています」と涙をこらえた。
千葉県松戸市の主婦(69)は山頂付近で昼食を取ろうとした時、爆音に襲われた。灰をかぶって倒れてきた人の重みで身動きが取れない。頭上にかざしたザック越しに、降ってくる岩の衝撃が伝わった。「後で中を見ると、魔法瓶が割れていた。命を守ってくれた」
周囲には少なくとも3人が灰に埋もれていた。死の恐怖が頭をよぎった。血を流している人を板に乗せて近くの社務所に運んだ。しばらく「痛い、痛い」とうめいていたが、やがて動かなくなった。噴煙が収まり見渡すと、一面に積もった灰の中からザックやストックの一部がのぞいていた。「人が埋まっているんだろうけど、逃げるように離れてしまった」。一緒にいた栃木県日光市の主婦(65)はつぶやいた。
向かった山小屋「五の池小屋」でおにぎりをもらい、ストーブに当たってやっと落ち着いた。
管理人の市川典司さん(44)によると、避難してきたのは約35人。興奮した子どもの泣き声がたまに響いたが、みんな次第に落ち着きを取り戻した。午後9時ごろには全員、眠りについた。
主婦らは日の出とともに下山を始め、28日午前9時すぎには岐阜県下呂市に着いた。市川さんは登山者を見送った後、スタッフと「灰で足元が滑るから気を付けよう」と声を掛け合いながら山を下りた。
(共同通信)