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2014-09-29
■[経済][メモ]「うん、知ってた」の向こう側へ

JCERの「日本経済研究」では、ときに興味深い論文が公表されている。今月はそのうちの2本がとくに目を引いた。
まずはこちら。
景気後退と自殺、そのプロセス—都道府県別パネルデータによる考察
薄田 涼子
以下は概要である。
自殺者の多くが、生前に精神的ストレスや精神疾患を抱えている。既存の経済学的な自殺研究は、不況や失業と自殺リスクの相関を分析し、その間に精神衛生が徐々に乱れるプロセスがあることを暗示している。本稿は、精神衛生に関する都道府県別パネルデータを用いて、不況期に自殺率が上昇するだけでなく、精神的ストレスが増大すること、精神疾患への罹患リスクや精神科治療への需要が増大すること等を示している。精神科治療に対する認識を高め、精神科治療体制を強化することを視野に入れた自殺防止策の重要性を示唆している。
それだけなら堅気の衆には「うん、知ってた」でかたづけられてしまう話かもしれない。だが、筆者は専門家らしく、この問題をていねいに見ていく。データの取扱にも目配りがきいていて、たとえば下記のような慎重な考察にはなかなかの説得力を感じる。
総労働時間数と精神科あるいは一般科の外来受診者数との間に統計的に有意な相関はない。第2節で予想したように、不況期に時間の機会費用が低下して、精神科をより受診しやすくなるとすれば、総労働時間数と精神科外来受診者数との間に有意な関係があると予想できるが、本稿の推定結果はそのような予想と整合的でない。精神科受診に伴う機会費用として重要なのは、診療にかかる時間の費用ではなく、むしろ精神科を受診することで昇進が難しくなったり、職を失ったり、社会的な立場が不利になるのではないかという懸念のほうかもしれない。この点は、個票レベルの詳細なデータが充実しないと確認することが難しい。
結論部分から、わかりやすいところを引用させていただこう。
まず、不況と自殺に関する先行研究の多くと整合的に、97年から07年にかけて有効求人倍率と自殺率の間に有意な負の相関がある。97年から98年にかけての自殺率の急増分を除外しても、この関係は変わらない。新たに社会的変数とともに共変数に含めた日照時間は、直観に反してむしろ正の相関を持つ。特に人口が150万人以上の県では、日照時間と自殺率との間に統計的に有意な正の相関がある。
有効求人倍率の低下とともに、精神科外来を受診する患者数も増える。ただし、精神科外来患者数と景気との相関は、自殺率や精神衛生上の問題を抱える個人の割合と景気との相関に比べて、統計的な有意度は低い。一般科外来の患者数も、景気の悪化に伴って有意に増えるというわけでもない。精神疾患を抱える患者の多くが、初診時には身体症状を訴えて一般科を受診するケースが多いという先行研究も踏まえると(三木, 2002)、精神衛生上の問題が増え、自殺リスクの有意に高まる不況期に必ずしも精神疾患が適切に治療されていないという可能性がある。自殺リスクの高まる前に、いかにして治療に導くか、どのような治療が自殺予防の面からも医療費の最適化の面からも適切なのかを明らかにすることは、将来の研究課題の一つである。
続いてはこちら。
高橋 直浩
BSEとはまたなつかしい話題ですねというのが第一印象だけれども、読んでみると、いろいろ示唆に富む。概要だけでもすでにおもしろい。
本稿は、リスク下の消費者の意思決定を分析し、その決定に影響を与える政府のリスク情報発信のあり方を考察することを目的とする。事例として、限られたリスク情報と政府の施策を観察しながら、消費者が購買行動を決定した牛海綿状脳症(BSE)の事例を扱う。2001年9月、我が国で最初のBSEが発生し、その翌月に安全宣言が出された。次いで03年12月に米国初のBSEが発生し、約2年半の輸入禁止措置を経て、06年7月、事実上の安全宣言が出された(輸入再開)。この2度にわたる BSE発生と安全宣言が牛肉消費に与えた効果を推定したところ、1度目の安全宣言では国産牛肉の消費回復効果がみられた一方、2度目の安全宣言では輸入牛肉の消費回復効果が認められなかった。この消費行動を説明するため、完全合理的な消費者、確率に主観性を許容した消費者、確率と感情を統合した消費者のそれぞれを仮定した3つの理論モデルを構築・比較検証を行った結果、本事例については3つ目のモデルが最も妥当性が高いと言える。確率と感情を統合したこのモデルから、1度目の安全宣言で強調した「全頭検査」がもつシグナリング効果により、国産牛肉の消費が回復した一方、輸入牛肉の消費回復が遅れていることが説明できる。
これもまあ行動経済学の本でよく聞くような話ではある。しかし素人目に無責任なことを言わせていただけば、本稿のモデルはさまざまな場面で応用がきくように思う。
また、政府はリスクについて情報完備で客観的リスク確率を算出できるという極めて簡略化した仮定の下で議論を進めてきた。しかし東北地方太平洋沖地震における福島第1原子力発電所事故による被曝やその後のセシウム汚染食品への対応にも見られるように、少なくとも発生当初は政府も情報不完備で、多くの科学的に不確実な情報を抱えている事例は多い。
現実には、政府は時間に応じて変化する情報の量と正確さに直面しながら、消費者に提供すべき情報やその表現方法を選択する。それに応じて消費者の主観的リスク確率を構成するパラメータは変化し、均衡戦略に影響を与えていく。こうした不確実な情報を
含めた情報提供の在り方が、消費者のリスク認知や政府への信頼にどのような影響を与え、消費行動がどのように変化するかについても、今後の研究課題である。
昨今いわゆる「ゼロリスク信仰」とか「放射脳」とかいったことばによって切り取られる現実は確かにあって、それはバカバカしいものかもしれないけれども、ことに危機的状況から日常へと復帰してゆく過程においては「政治」「政策」にはそういう厄介な「現実」をも相手にせにゃならん難儀もまたあるわけで——もちろん「相手にしない」という選択肢もありえますよ——、となれば、これはまさしくミクロ経済学や行動経済学が取り組んできた諸問題の一例ではないだろうか。
また、ミクロにとどまらずマクロ経済への適用も視野に入れれば、アカロフ=シラー『アニマル・スピリット 人間の心理がマクロ経済を動かす』が提示した課題は、十分に本稿の射程圏内だろう。
個人的には、「うん、知ってた」の向こう側を見せてくれるような研究を今後とも期待したい。
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- 9 http://pipes.yahoo.com/pipes/pipe.info?_id=02db597254ec68550537866a2fca2ce6
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