ここから本文です

カジノは良心的!?  ギャンブルの土台「控除率」をシンプルに理解する

MONEYzine 9月29日(月)8時0分配信

■全ギャンブル共通の基本からカジノの位置づけを知る

 6月の通常国会で審議入りしたカジノ法案(IR推進法案)は、臨時国会で引き続き審議され、この国会中にほぼ成立すると見られています。この状況をうけて、国内ではカジノそのものの是非や、運営の方法など、カジノに関連する議論がこれまでにないくらい盛り上がっています。

 もちろん議論が活発なのは良いことですが、基本的な知識や前提条件が抜け落ちた、感情にまかせただけの意見も散見されます。せっかく話し合い、意見を交換するのですから、カジノに関する基礎はしっかり押さえておきたいところ。

 今回はカジノゲームを含むすべてのギャンブルに共通する基本的概念と、いろいろなギャンブルのなかでのカジノの位置づけを解説していきたいと思います。

■控除の方法は2種類

 胴元と相対するすべてのギャンブルは、胴元が勝つように設計されています。「控除率」や「大数の法則」に基づく原理がある以上、私たちは“ギャンブルをすれば負ける”のが当然です。これを議論の前提に置きましょう。

 もちろんこの数学的な考えからはみ出す事象、すなわち回収金額が投資金額を上回ることや、究極的には宝くじ一等当選や万馬券的中といった例外もあるわけですが、それらをすべてひっくるめた大きな構造において、胴元が勝ち、参加者が負けるという結果に行き着く事実は揺るぎません。個々の事象をピックアップするのではなく、全体を見る。これがギャンブルを正しく議論するために必要な目線だと言えます。

 さて、参加者の収支は「控除率」の分だけマイナスになる……という結果へ収束していくのが、ギャンブルの原理です。ここでカギとなる控除の方法については、2タイプに分類することができます。

 まず、どの勝負も必ず胴元が勝つタイプのパリミュチュエル方式から紹介します。競馬や競輪、競艇、オートレースといった公営競技や宝くじ、toto、ロト6などがこのタイプで、参加者が投じた賭け金を胴元がいったんすべて手元に集め、そこから控除分を引き、残りを参加者に分配します。最初に胴元側が控除を行っているため、どの勝負も必ず胴元側の利益は確保されます。公営競技など“絶対に負けられない”ギャンブルで主に採用され、そのため大きな控除を取られるのが特徴です。

 それに対するもうひとつの方式は、ルーレットやブラックジャック、バカラなどのカジノゲームで採用されている控除方法で、オッズ等に控除率を差し引く仕組みを設けているものです。胴元側からすると、一定の控除率が得られる設計にはなっているものの、パリミュチュエル方式とは異なり、毎回の勝負結果はやってみるまでわからないというリスクを伴います。

 よって展開次第では、胴元が何回も続けて利益を得られないこともありえるのですが、参加者数と試行回数が増えるほど大数の法則の影響力が強固になるわけで、理論的には胴元が所定の控除を得る結果に近づいていきます。特徴は、公営競技よりも圧倒的に控除率が低いことだと言えます。

■宝くじや公営ギャンブルは条件が厳しいギャンブル

 あらゆるギャンブルは、最終的、統計的に胴元が勝ち、参加者が負けるわけですが、胴元の取り分はギャンブルごとにかなり差があります。つまりは控除率のちがいがあるわけで、当然控除率が低いギャンブルのほうが、参加者に有利です。勝てないまでも、ボッタクリか、良心的かでは大きなちがいです。

 控除率の面で最悪なのが、宝くじやtoto、ロト6など、いわゆる富くじに分類されるもので、50%前後の高い割合で控除されます。これはつまり賭け金の半分しか戻ってこないということであり、控除率だけで比較するなら、きわめて条件が悪いボッタクリのギャンブルということになります。また宝くじほどではありませんが、競馬や競輪などの公営ギャンブルの控除率も、20〜30%とかなり高い水準にあります。

■良心的で公正なカジノゲームの控除率

 日本で既に存在する上記ギャンブルに対し、カジノゲームの控除率はかなり良心的に設定されています。カジノゲームでもっとも胴元の取り分が多いのはルーレットですが、5.26%にすぎません。これは0と00があるアメリカンルーレットの場合で、00がないヨーロピアンルーレットの場合、2.7%になります。

 人気のカードゲーム、バカラやブラックジャックの場合さらに控除率は低く、諸条件により変動するものの、おおむね1%前後になります。控除率が1%なら、投じた金額のうち99%は返ってくる計算になりますから、これを知っていると、ギャンブルに抱きがちな「得体の知れない恐怖」はある程度緩和されるのではないでしょうか。

 なお、建前の上ではギャンブルに分類されませんが、実質的に日本人にとって一番身近なギャンブルであるパチンコやパチスロは、控除率の面では5〜10%程度とされています。しかしパチンコは控除率が明確ではないうえに、パチンコ店によって大きく異なり、それが開示されることはありません。「どれくらい損をするかわからない」状態で参加せざるを得ないという、アンフェアなルールになっているのです。パチンコファンが当たり前のように受け入れているルールは、世界的なギャンブルの観点からすれば非常識であるわけです。

 このようにどのギャンブルにも控除率が存在するため(パチンコはやや曖昧ですが)、参加すると理論的にどんな結果へ向かうのかを把握することができます。公営ギャンブルは控除率が高すぎ、パチンコは不透明過ぎる。それに対して、カジノゲームの控除率は明確でなおかつ低く抑えられている。

 このことから、カジノゲームは、どんなギャンブルよりも長く付き合っていきやすいものだと言えるのではないでしょうか。もちろん、資金管理や自己管理ができて初めて、ギャンブルと付き合えるわけですが。

■アイテム課金に見られる確率への意識の低さ

 ここまで解説してきたように、投資と回収の割合を表した控除率は、ギャンブルの性質そのものであり、もっとも基本的かつ重要な情報であると言えます。ですが、控除率を意識しながらギャンブルに参加している方は、ほとんどいないのではないでしょうか。これには多くの日本人が、確率や統計に対して無頓着であったり、あるいは苦手意識があることも無関係ではないでしょう。

 社会問題にもなっているソーシャルゲームのアイテム課金についても、確率への意識の低さが見て取れます。オンラインゲームの中に、ガチャとも呼ばれる、ゲーム内の特定のアイテムを手に入れるための有料くじがあります。

 このガチャでは、他のプレイヤーとの競争に勝てる強力な武器や、見た目を差別化できる衣装などが手に入るわけですが、くじによる抽選なので欲しい物を手に入れるためには、複数回課金しなければいけないことが常識です。さらにアイテムの当選率が明らかにされていないどころか、確率がその都度操作されているケースすらあるようです。

 いわば、ユーザーに明確なルールを提示していないきわめて不健全な状態にあるわけですが、多くのユーザーは特に疑問に思うわけでもないようで、いろいろな規制や議論を経て、今もアイテム課金のビジネスは盛んです。

 古くはビックリマンチョコ、今話題の妖怪ウォッチも、なかなか入手できないレアなアイテムが手に入るかもしれない射幸心を、購買動機につなげている点では同様です。こういったビジネス自体の是非を問うわけではありません。しかし、その支持層である子供たちが、不透明な確率に一切の疑問を抱かずに参加しているということが、いささか問題であると思うわけです。

 アイテム課金ビジネスが隆盛を極めている今、私たち大人はどんなルールに対してお金を支払っているのかということについて、子供たちに教育していく必要があるのではないでしょうか。それは確率や統計、控除率や投資と回収の関係における仕組みなどを教えることでもあります。

 こうした試みが、将来的に数字やお金への苦手意識をなくし、日本人に全体的に不足しているマネー・リテラシーの醸成に一役買うのではという期待があります。


(鹿内 武蔵)

最終更新:9月29日(月)8時0分

MONEYzine

 

PR

注目の情報