ストレス障害:「裁判員は苦役そのもの」30日に判決

毎日新聞 2014年09月29日 14時17分(最終更新 09月29日 14時21分)

 強盗殺人事件の裁判員裁判で裁判員を務め、急性ストレス障害(ASD)と診断された女性が「裁判員制度は憲法違反」と訴えた国家賠償請求訴訟の判決が30日、福島地裁で言い渡される。他殺体の写真などを見て心に傷を負った審理から約1年半。仕事を失い、家事もできなくなったが、夫の支えで乗り切ってきた。「事件と無縁の市民にとって、裁判員は憲法が禁じた苦役そのもの」。制度の限界を認めてほしいと願っている。

 訴えているのは、福島県郡山市の元福祉施設職員、青木日富美(ひふみ)さん(64)。9月23日朝、市街地が眼下に広がる丘陵地帯に、愛犬タロウの綱を引きながら歩く姿があった。「朝は気持ちいいわね」。日富美さんが散歩に出られるようになったのは今年8月になってからだ。「やっと女房の顔色がよくなってきた」。付き添っていた夫の信矢さん(66)は安堵(あんど)の表情を浮かべた。

 日富美さんが福島地裁郡山支部で裁判員に選ばれたのは昨年3月。対象は2012年7月に起きた強盗殺人事件だった。残酷な他殺体のカラー写真、被害者の断末魔の叫びが録音されたテープ、目の前に置かれた凶器の包丁……。審理で示された証拠などのショックは大きかった。眠れず、幻覚を見るようになり、心療内科でASDと診断された。

 約10年間働いてきた福祉施設に出勤できなくなり、事実上解雇された。誰も信用できなくなり、自宅に引きこもった。「裁判員制度さえなければ」との思いが消せず、制度のおかしさを示したいと、前例のない訴訟に踏み切った。

 包丁も握れなくなった日富美さんに代わり、信矢さんが料理や洗濯など一切の家事を引き受けた。「症状が改善しないので僕もずいぶんふさぎ込みました。でも、裁判を起こした女房の勇気を考えると、僕が支えないでどうすると思いました」

 その一方で訴訟は大きな反響を呼んだ。最高裁が遺体写真の白黒化、イラスト化など裁判員の負担を軽減する措置を全国の裁判所に指示し、裁判員からも一定の評価を得た。半面、刑事事件の被害者遺族からは「被害の実像を知ってもらうためには証拠はすべてありのまま示されるべきだ」との声も上がった。

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