アジア大会は、女子の準々決勝が終った翌日にはサッカーの試合が行われなかった。そこで、韓国の国内リーグを観戦してきた。もちろん、Kリーグの試合があれば見に行ったのだが、たまたまこの週末はソウル近郊での試合は行われなかった(FCソウルの試合は、ACLのために日程変更になってしまった)。そこで、ソウル市内であったソウルユナイテッド対忠北清州FCという試合を見に行ってみた。「K3リーグ(現・チャレンジャース・リーグ)」という大会である。

韓国では、ようやくKリーグで1部(「Kリーグ・クラシック」)と2部(「Kリーグ・チャレンジ」)の間で入れ替え制が実施されるようになったが、それより下部のリーグには入れ替え制度はない。そして、Kリーグ・チャレンジの下には実業団主体のNリーグ(ナショナル・リーグ)というリーグがあるので、この「K3チャレンジャーズ・リーグ」というのは、「K3」と名前がついているが、実際は4部に当たるリーグである。18チームが参加して、A、B2つのグループに分かれて行っているリーグ戦で、ソウル・ユナイテッドはA組の7位と低迷。一方の清州FCは3位につけている(韓国中部、忠清北道にあるチーム)。

試合は、リーグ戦で上位にいる忠北清州が90分を通してゲームをコントロール。ワンタッチ、ツータッチで中距離のパスを通して、攻め込む場面が再三あった。そして、開始わずか5分でMFの崔楡尚(チェ・ユサン)がFKを決めてリード。しかし、その後も再三攻撃を仕掛けるものの決めきれずにいると、20分過ぎからソウルのカウンターが効果を発揮しはじめ、30分、素早く入れたスローインのボールを朴炫禹(パク・ヒョンウ)が押し込んでソウルが同点に追いついた。試合は後半も忠北清州が攻撃を仕掛け続けるが、後半だけでも3度もシュートがゴールポストやクロスバーに阻まれる不運もあって決めきれず、結局、1−1の引き分けに終わった。

下部リーグを見る楽しみは、いかにもその国らしいサッカーが見られることだ。トップリーグや代表チームは、どこの国でも近代的な「きれいなサッカー」をしているが、下部リーグではそうではないことが多い。ヨーロッパでも2部の試合を見に行くと、本当に肉弾戦ということが多い。「俺たちはうまくはない」と割り切って、勝つためのサッカーに徹しているのだ。ボールを奪ったら、とにかくロングキックで相手のゴール近くにボールを送り込む。そんな、大雑把なサッカーだ。

それに対して、日本の下部リーグは、まるで代表チームのような「きれいなサッカー」を目指しているチームが多いのが特徴だ(ただし、代表チームのようにはうまくいかないのだが……)。最近は、J2は2部リーグらしい勝負にこだわった試合が多くなったが、J3なんかでも「きれいなサッカー」をするチームが多い。それでは、韓国の下部リーグではどんなサッカーをしているのだろうか?それを確かめるのが、このソウル・ユナイテッドの試合を見に来た最大の目的だ。

さて、実際に試合を見てみると、日本の下部リーグと同じように「きれいなサッカー」をしていたのだ。ワンタッチ、ツータッチでボールを繋ぎ、サイドバックの攻撃参加も多い。トップに当てて、2列目に落としてシュートを狙うなど、日本でも馴染のある試合展開だった。「韓国らしい肉弾戦」も期待していたのだが、どうやら、今はそういう時代ではないようである。ただ、同点で迎えた後半のラスト15分の攻め合いは、「さすが韓国」と思わせる激しいものだった。控え選手が9人おり、交代も4人まで可能のようで、互に攻撃的な選手を次々と投入して最後まで攻め合ったのは非常に迫力があり、手に汗握る展開だった。

試合が行われたのは、ソウル市内の北東部、蘆原(ノウォン)区にあるマドゥル・スタジアム。「スタジアム」という名前がついているが、実際は普通の公園(マドゥル公園)の中にある人工芝のサッカー場だ。メイン側に400席ほどの小さなスタンドがあるだけで、バック側もゴール裏も金網のフェンスがあるだけ。バック側は大通りで、その後方には高層アパートの団地。その背後にはソウルの北に聳える道峰(ドボン)山が見える。北漢山(プカンサン)国立公園の一部となっている峻険な岩山だ。

一応、ロッカールームもあるが、アウェーの清州の選手たちは、ハーフタイムにはスタンドの後ろの木陰で地面に座り込んで監督の指示を聞いていた。のどかな、アマチュアリーグの光景ではあった(場内アナウンスやFIFAアンセムなどもあり、メンバー表、しかも漢字表記付きのメンバー表もあった)。ソウルには、ワールドカップ競技場という立派なサッカー専用スタジアムが完成している。そのため、1988年のソウル・オリンピックで使用されたメイン・スタジアム、蚕室(チャムシル)総合運動場の主競技場は、陸上競技にもサッカーにもほとんど使われることがなくなっている。昨年の東アジアカップで久しぶりに国際試合が行われたが、長年使用されていなかったため、老朽化が目立っていた。

その蚕室のメイン・スタジアムを、このソウル・ユナイテッドが使用するという計画がある。実際、すでにソウル・ユナイテッドのクラブのオフィスは蚕室のスタジアム内に置かれている。しかし、この日の清州戦の観客数は約50人だ。大声を出してチャントを続けるサポーター集団はいたものの、とてもすぐにプロ化が可能とも思えないし、6万9000人収容の蚕室のスタジアムに客が入るとも思えなかった。ただ、技術レベル(日本のJ3や大学リーグとほぼ同レベル)はともかく、最後の15分間の白熱した攻防は十分に面白い試合だった。

今回、韓国に来てから、男子、女子の試合を3試合見たが、日本の試合は相手が男子がパレスチナ、女子が香港で、力の差がありすぎてとても面白い試合とは言えなかった(男子のパレスチナ戦の直後に、隣の体育館でやっていたバスケットボールの日本対カタール戦が大接戦で面白かったけれど……)。そんな中、今回の韓国旅行中で一番面白かったのが、このK3リーグの試合だった。

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後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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