百三十五年丸ノ内線

昔の思い出から今の話までいろいろ(1日に何回も更新するよ!)。実体験を元にしたコスメ話や脱毛・育毛話など。ニッポンゴムツカシイ

こういう家に生まれたかった

居間はソファがあって、年季が入ってるからお母さんがパッチワークのカバーをかけてる。

テレビはブラウン管の27型のとても大きいやつで、上には「優勝」とかいう盾があって、広告で作った傘がとても大層なもののように飾ってある。

誰かの趣味の200ピースくらいの渋い絵柄のパズルが飾ってあって、居間の一番見えるけど日陰になるところにはサイドボードがあって、そこには洋酒が飾ってある。

サイドボードの上は片付けられていなくて、なぜか爪切りとか耳かきがあって、お父さんが適当に使ってそこら辺に置くから子どもたちは

「もー!お父さん汚いーーー!!」

って言うと、お父さんは少し照れ笑いをして、お母さんが用意している100円均一にありがちなカゴに入れる。

 

兄弟はお兄ちゃん、私、妹の3姉弟がいいな。あんまり年齢が離れていないほうがいいな。

お兄ちゃんとお父さんは男同士で結託して、私と妹とお母さんは女同士。

お買い物にお兄ちゃんがついてきたのは小学校5年生まで。あとは恥ずかしがって来ないけど、下着はお母さんが買ってきたのを不満も言わないで履いてる。

 

サイドボードや居間には、年々お兄ちゃんの部活のトロフィーとか、妹が絵で取った市民賞の賞状がどんどん飾られていくけど、私のは小学校のときに取った夏休みの自由研究の賞状だけ。

家族写真も毎年増えるから、テレビの上もサイドボードの上も写真でまんたん。

お兄ちゃんはだんだん恥ずかしがって、お父さんは写真役だからあんまり居ないけど、私と妹がふざけてる写真ばっかり増えてる。

でも知ってるんだ、私が気を利かせて撮ってあげた何年か前の、お父さんとお母さんだけの写真が一番いいフォトフレームにはいってること。

 

車の助手席はお母さんの定位置で、お父さんが運転して、私と妹とお兄ちゃんが後ろに座るけど、お兄ちゃんが車の免許を取ったら、お父さんが助手席。女だけの後ろの席。

「鏡貸して、まつ毛入った」とか「なんで妹ちゃんはティッシュ持ってきてないの?!」って怒ったりモノを貸し借りしてかしましい。

 

妹は末っ子で、私もお兄ちゃんも可愛がるから家事が出来ない。

お手伝いができなくても怒られない。

でも私が洗濯物を取り込むのとかをちょっとでも嫌がると「女の子でしょ!」って言われる。

お父さんとお母さんがたまーにデートして夜いないとき、ご飯を作るのは私とお兄ちゃん。

お兄ちゃんはガサツだから、ジャガイモの皮をすごく分厚く剥いちゃうし、妹は何もしないのにキッチンにいて端からつまみ食いしてるけど、お腹が空いてお母さんがパート先でもらってきた個包装のお菓子をパクリ。

私は「ごはんが食べられなくなるよ!」ってその日だけお母さんの役。

 

みんなが受験のときは家はちょっとピリピリして、お兄ちゃんはお父さんとお母さんが「いい」って許可した大学に進学して、私もそれに倣ったけど、妹だけは「私はこうしたいの!」って美大に進む。

そんな妹を「いいなぁ…」ってこっそり羨んだり嫉妬したりする。

 

お兄ちゃんが就職して家を出るとき、私と妹は「一人一部屋だね!」って喜ぶけど、最後の夜にお母さんがはりきって作ったごちそうを食べたあとちょっとしんみりする。

お兄ちゃんとお父さんは居間で男同士の話をしていて、私は妹とこっそりダンボールだらけのお兄ちゃんの部屋を覗き見る。

私が中学生になって、お兄ちゃんが高校生になったらほとんど入ったことのない部屋。知ってるけど、知らないみたいな部屋。

 

明日は引っ越し屋さんがきて、荷物が一人分、洗濯物も一人分無くなっちゃうんだなーって少しだけしんみりする。

翌朝、「早く行きなよ!」ってなぜだか無愛想に荷物を運んでるお兄ちゃんを手伝いながら、私と妹とお母さんはのんびりした動きの兄をせっつくけど、お父さんが引っ越し先まで送っていくって、お別れのあいさつのとき、お母さんはちょっと泣いてた。

私と妹は「もー!すぐ会えるんだよ!」ってお母さんを元気づけるけど、でもやっぱり寂しくて。

引っ越し屋さんのトラックが出発して、車が見えなくなったら、妹も私もお母さんもちょっと泣くんだと思う。

 

そんな家に生まれたかった。

そうやって小さいことに幸せを感じて、噛み締めて生きて、死にたかった。