【コラム】イスラム国の宣伝戦にさらされる韓国
イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の姿は、外から見ると粗雑で荒っぽい。黒い覆面としわだらけの長い服で身を覆い、1本の草も1棟のビルもない砂漠に姿を現す。文明とは非常に懸け離れた存在のように思える。イスラム国は最近、シリア・イラクの諸都市を襲撃して罪のない多数の住民を虐殺し、国際社会の敵と目されているテロ集団だ。
しかしベールを剥いで内部を詳しく見てみると、イスラム国がよそに負けず劣らず文明の利器を用いていることが分かる。イスラム国は、フェイスブックやツイッターなどといったソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を活用して「政教一致の国家をつくるための聖戦に参加せよ」というメッセージを世界各地に伝え、テロリストを募集している。スマートフォン(多機能携帯電話端末)やタブレットPCなど最新のIT機器で、戦況の情報をリアルタイムでやりとりしたり、戦闘の際に迫撃砲の攻撃目標を設定したりしている。米国の国家対テロセンター(NCTC)のマシュー・オルセン局長がイスラム国の宣伝手法は、ほかのテロ組織のレベルをはるかに上回るほど巧みで、洗練されている」と語るほどだ。イスラム国が予想以上に知的なプレーを展開しており、これに備えるべきだというわけだ。
イスラム国の代表的な宣伝物は、独自に制作・発行しているPDFファイル形式のデジタル英文雑誌だ。約30ページにわたるこの雑誌は、イスラム国の設立目的、イラクとシリアで戦争をしている理由、これまでの戦闘の成果などを、きれいに編集された写真や、イスラムの経典「コーラン」から引用した文章などで説明している。「戦場に来られない場合は、今いる場所で仕事(テロ)をせよ」と指示し、そのための具体的な方法も細かく教えている。イスラム国は、反政府的なインターネットコミュニティーにもアプローチし、マッチ・砂糖・小型電球・時計などありふれた材料で爆弾を作る方法などを掲示板に載せ、広めている。たまたまこれを見てイスラム国の論理に染まり、国際社会や自国政府に過度の反感を持ち、ひどい場合にはテロまで実行するイスラム国追従者が生まれる可能性もあるのだ。
韓国は、こうしたイスラム国の宣伝戦に対して安全なのだろうか。ソウルでインターネットに接続し、イスラム国が発行しているデジタル英文雑誌の誌名やイスラム国に関する単語を検索サイトに幾つか入力してエンターキーを押すと、イスラム国が作ったありとあらゆる扇動用コンテンツがどっさりと出てくる。雑誌のPDFファイルも、何の制限もなしにたった5秒でダウンロードできる。これまでにどれほど多くの韓国在住者が「テロを行え」というイスラム国のメッセージを目にしたのか、あえて計算する必要もない。
イスラム国のメンバーとして活動し、最近イラク政府軍に捕らえられたサウジアラビアの青年が、取り調べの過程で「イスラム国に韓国出身者がいる」と供述した。「その話は事実なのか、間違いなのか」「事実であれば、そのメンバーが韓国に戻ってきてテロを起こしかねないのではないか」との懸念も示され、波紋が広がっている。これに対し国家情報院は、数日前、国会の情報委員会に所属する議員に対し「事実確認を試みたが、現実的には不可能」と説明した。ならば、まずは可能なことからやるべきだ。取りあえずは、イスラム国の宣伝物の遮断が急がれる。