参考リンク(1):排外主義を煽る書泉グランデ - Togetterまとめ
参考リンク(2):弊社ツイッターアカウントにご意見をいただきました件につきまして(SHOSEN)
僕も、在特会の桜井誠さんの著書を「有名書店がオススメする」ということには疑問を感じています。
在特会について取材したルポルタージュの感想を以下に紹介しておきます。
参考リンク(3):【読書感想】ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて(琥珀色の戯言)
あと、「ヘイト・スピーチ」の定義について。
参考リンク(4):【読書感想】ヘイト・スピーチとは何か(琥珀色の戯言)
この『ヘイト・スピーチとは何か』の冒頭には、こう書かれています。
2013年に日本で一挙に広まった「ヘイト・スピーチ」という用語は、ヘイト・クライムという用語とともに1980年代のアメリカで作られ、一般化した意外に新しい用語である。日本では「憎悪表現」と直訳されたこともあり、未だ一部では、単なる憎悪をあらわした表現や相手を非難する言葉一般のように誤解されている。そのことが、法規制をめぐる論議にも混乱を招いている。
1980年代前半、ニューヨークを中心にアフリカ系の人々や性的マイノリティに対する差別主義的動機による殺人事件が頻発したことから、85年にはヘイト・クライムの調査を国に義務付ける「ヘイト・クライム統計法案」が作成された。これが「ヘイト・クライム」という用語のはじまりと言われている。同時期に、大学内で非白人や女性に対する差別事件が頻発したことに対し、各大学は差別的表現を含むハラスメント行為を規制する規則を採用するようになった。「ヘイト・スピーチ」という用語はその広がりに伴って使われるようになった。このように、その成立の経緯から見て、ヘイト・クライムもヘイト・スピーチもいずれも人種、民族、性などのマイノリティに対する差別に基づく攻撃を指す。「ヘイト」はマイノリティに対する否定的な感情を特徴づける言葉として使われており、「憎悪」感情一般ではない。
「ヘイト・スピーチ」という言葉が広まるにつれて、罵詈雑言と「ヘイト・スピーチ」がイコールである、というような使いかたをしている人もいるようなのですが、原義は「人種、民族、性などのマイノリティに対する差別に基づく攻撃」です。
「多数派(マジョリティ)からの、少数派(マイノリティ)への攻撃」なのですね。
ですから、「嫌アメリカ本」ならどうなんだ?というような問いへの回答は、「そもそも、それは、ヘイト・スピーチではない」ということになります。
そして、「現在の韓国政府の対日政策を批判してはいけない」というわけではなくて、在特会が街頭で行っている演説、
「ゴキブリ朝鮮人を日本から叩き出せ!」
「シナ人を東京湾に叩き込め!」
「おい、コラ、そこの不逞朝鮮人! 日本から出て行け!」
「死ね!」
こんなふうに「差別意識をあらわにして、マイノリティを攻撃すること」が問題なわけです。
狭義での(厳密な意味での)ヘイト・スピーチというのを受け入れられる人って、少なくとも現在の日本人にはそんなに多くないと思うんですよ。
「ゴキブリ」とか「死ね」とか言うのは「言論」じゃない。
ちょっと長い前置きになりましたが、僕はこの書泉グランデのツイートを読んで、「こういう差別的な認識を植え付ける可能性がある本を、多くの人に「オススメ」してほしくはないな、と感じました。
でも、その一方で、「大きな書店の一店員のツイートが、あまりにも重く受け止められすぎているのではないか?」とも思うのです。
僕も書店員さんの本はよく読みますので、大型書店では、担当者が誇りをもって「自分の棚」をつくっているということを知っています。
最近は、POPで「オススメ本をアピール」をしている書店員さんも多いようで、売り上げにも影響があるようです。
とはいえ、ある本の内容に問題がある(と判断している人が多数いる)場合、誰に対して、その責任を追求するべきか?というのは、難しい問題です。
ヘイト・スピーチ的な言論そのものが許せないのか、それが書物になって出版されることが許せないのか、有名書店の棚に並ぶことが許せないのか、それとも、「書店員に推される」ことが許せないのか?
「まず最初に抗議すべき対象は著者、二番目は出版社ではないのか?」というのが、僕の考えです。
「税金で運営している公立図書館に置くな!」という話だったらわかるのだけれども、書店だって儲からなければやっていけません。
そして、「嫌韓本」には、ベストセラーが少なくないのです。
「置くだけ」で、オススメしなければ良いのか?
まさか「買うな!」というPOPを立てるわけにはいかないでしょうけど(でも、かえって売れそうだな……)
実際のところ、どういう人が、あの書泉のツイートをしたのは僕にはわからないのですが、書店の棚の担当者にも、いろんな人がいると思うのです。
自分の担当の棚に並んでいる本が、どんな内容かをすべて把握している人なんて、ごくごくひとにぎりのスーパー書店員だけじゃないでしょうか。
田口久美子さんというジュンク堂のカリスマ書店員さんの近刊を読んでいたら、文系大学出身でジュンク堂に入ってきて、いきなりまったく知らない「コンピュータ/IT」の棚を担当させられ、悪戦苦闘した書店員さんの話が出てきました。
すべての本やジャンルに精通している書店員さんなんて、そうそういないでしょうし、担当ジャンルが変わったばかりとか、まだ新人さんだとか、そういう可能性だってあるわけです。
「それも書店全体の責任だから、ツイートの内容を逐一チェックしておけ!」ということになるのも、なんだか面白くない。
そうなると「無難なもの」ばかりが薦められるようになるのではなかろうか?
「面白い本」には、不謹慎との境界が難しいものも、少なくありません。
『逮捕されるまで』とか、微妙ですよね。
個人的には、あのツイート(参考リンク(1)で読めます)は、迂闊で不用意だとは思っています。
僕自身も「読んでない」ので、あんまり強く言えないところはある。
ただ、「読んだだけで洗脳される」っていうような本は無いですよ。
多くの人は、その主張を読むことによって、「自分で考える」はずです。
むしろ、「あまりにも無菌状態でいること」のほうが、何かに感染してしまったときの反動が怖い。
いまの世の中、「情報」は、どこから入り込んでくるのか、わからないのだから。
ちゃんとした形で「書籍化」されていることによって、外部から窺い知ることができる、というメリットもあるのです。
「書店員のオススメ」だって、これだけ世の中に溢れてしまっていては、あんまりみんな信用していないと思うし。
最近は「ああ、これって本部からの通達とか、誰かの書評をみて、そのまま書き移しただけなんだな」と感じるPOPが多いんですよ。
そういうのを見るたびに、「ああ、書店員さんも大変だよなあ」と同情せずにはいられません。
いやほんと、みんなが書店員さんたちの現在の待遇を知っていて、それでも「棚にプライドを持て!」「書店は知識の窓なのだ!」と言うのであれば、それはあまりにも高望みのしすぎなのではないか、と。
この騒動をみていて思ったのは、書店という「客商売の最前線」だから、こんなに責められているのではないか、ということなんですよ。
書店は「最後の砦」であるのと同時に、「顧客の動向に対して、いちばん敏感にならざるをえないところ」なのです。
著者の主張が間違っている、存在することすら許せないと思うのであれば、著者に直接抗議するなり、SNSとかブログとかで自分の意見をカウンターとして主張すればいいはずです。
あるいは、出版社に「なぜこんな本を出版するのか?」と問いかけてもいい。
たぶん、実際にそうしている人もいるはずです。
でも、「在特会」を直接批判するのは、リスクが高い。
僕だって、そう思います。
実際に、反対派にたいして、暴力で「実力行使」してきた事例もあるのですから。
そういう意味では、「書泉」が相手なら、やり返されるリスクも極小だし、おそらく「相手は謝罪するしかない」という予想はつくはず。
ただ、そうやって「弱いところを突く」のって、作戦としては正解なのかもしれないけれど、長い目でみれば、「思想関係とか、めんどくさいものには関わらない書店」を増やすことにしかならないんじゃないかなあ。
そもそも、「正しい本」と「正しくない本」の線引きは、誰がするのだろう?
今回の件に関しては、個々の人がツイッターで「その本は『書店オススメ』には不適切なのでは?」と疑念を呈したり、「そういう書店で買うのはやめよう」と決意したりするのは自然なことだと思うのです。
そこで、せっかく双方向性のあるツールを使っているのだから、「隣国との関係について知りたい人は、こういう本のほうが良いんじゃないでしょうか」というオススメ本を紹介していくとか、「その本には、こういうことが書いてあって、ここが問題だと思います」というような「情報交換」に進んでいけばよかったのに、結局、「あそこは『ヘイト推進書店』だから、みんな買わないようにしようぜ!」と見せしめにすることにばかり、労力が割かれてしまった。
ツイッターって、これが、「別にみんなで相談してやったわけじゃなくて、ひとりひとりは自分の意思でやっているだけ」というのが難しいところなんですよね。
でもさ、「叩いて見せしめにする」よりも、良いやり方は、あると思う。
あと、このやりとりをみていて痛感したのは、「こういう理由で書店を選べるのって、東京をはじめとする都会の人の特権だなあ」と。
地方都市では、大型書店は紀伊国屋ひとつしかない、というようなところも、少なくないんですよね。
東京の人って、ここまで書店員さんの仕事のハードルを上げているのか……
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