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【コラム】

筆洗

 <山の動く日来(きた)る。/かく云(い)へども人われを信ぜじ><すべて眠りし女(をなご)今ぞ目覚めて動くなる>▼昨日に続いて、山の話を書かざるを得ない。「魔の山」となった、御嶽山ではなく、別の山。途方もない夢や願いをなかなか動かぬ「山」と見て、それに挑み続けた女性のことである。女性初の衆院議長を務め社会党の委員長だった土井たか子さんが亡くなった▼冒頭の詩は与謝野晶子の「そぞろごと」の一部である。一九一一(明治四十四)年、日本初の女性文芸誌「青鞜」の創刊号巻頭に掲載された▼百三年前である。当時、女性の地位は低く、選挙権はもちろん、集会の自由さえ認められていない。詩が訴えたのは、押し黙る女性たちの目覚めだった。<その昔に於(おい)て/山は皆火に燃えて動きしものを>▼八九年の参院選で社会党大勝を導き、自民党の過半数割れを実現した。その時「山が動いた」は晶子の詩が念頭にある。あの参院選では、土井ブームで大勢の女性が当選した。動かしたのは自民党という巨大な山と、女性の地位向上というもう一つの山だった▼土井さんは、茨木のり子さんの詩「わたしが一番きれいだったとき」を愛していた。茨木さんと同じ世代の土井さんも戦争で「きれいだったとき」を奪われた。平和という山だけは動かしてはならぬ。「平和憲法と結婚した」と言ってのけた人の願いであろう。

 

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