昨年の南相馬市旧太田村の基準値超えの原因、農水省が8月に公表した資料から読み取れること
諸般の事情により書きかけで中断してしまったためにかなり間が空いてしまいましたが、7月16日に書いた「25年産米の放射性セシウム:南相馬市旧太田村の基準値超えの真の理由は?」の続編です。
8/25に農水省がHP上に「福島県南相馬市の25年産米の基準値超過の発生要因調査について」というページを作って一連の情報を公開しました。今回初めてわかった情報もあるため、前回の「25年産米の放射性セシウム:南相馬市旧太田村の基準値超えの真の理由は?」の補足をしたいと思います。結論としては前回と同じで、可能性として仮説は立てられるものの、何が本当の原因かを言い切るには現状ではデータ不足だと思います。
折しも、9/26には南相馬市でも平成26年産米の測定が始まり、119点が測定されて全て測定下限値未満でした。今年は南相馬市のお米はどうなるのか、今後も見守って行きたいと思います。
1. 南相馬市旧太田村の基準値超えの原因は土壌+αではないか?
農水省のHPに8/25に公開された「福島県南相馬市の25年産米の基準値超過の発生要因調査について」の中には、私が7/16に「25年産米の放射性セシウム:南相馬市旧太田村の基準値超えの真の理由は?」を書いた際にはおしどりマコさんのブロマガからの引用とした今年2/14の南相馬市地域農業再生協議会での説明資料のほか、今年の1月に原子力規制庁に説明した際の資料や、その他の調査結果が掲載されています。
今回は今年1月に農水省が原子力規制庁に説明した際の資料を中心に、7月に書いた内容と重複する部分もありますが再度説明していきます。
まず、これまで公表された資料にはなかったのでここに引用しますが、下の図は2012年と2013年の基準値超えがどの地区で起きたかということを地図上で示したものです(詳しく見たい方は元の資料で拡大して見てください)。ここには、全量全袋検査の対象になっていないために発表されなかった、2012年(平成24年)の試験栽培での基準値超過地点が1点福島市にあったこともさりげなく示されています。

(2014年1月 規制庁への説明資料 2ページより)
また、2012年に基準値超えになった16地点については、2013年においては地図では黄色の全量生産出荷管理区域に指定されていることがわかります。地図上で黄色が飛び飛びにあるのはそういう理由です。これらの16地点の原因分析の結果、土壌交換性カリウムの量が目標水準(25mg K2O/100g)を下回っていることがわかりました。そのため、カリウム施肥による吸収抑制対策が必要ということがわかり、2013年にはそれを徹底させました。
その結果として2013年(平成25年)には、2012年にも作付を行っていた地区では福島市旧福島市で1地点だけ基準値超えがありましたが、こちらについてはカリウム施肥による吸収抑制対策が未実施であったということです。高齢の農家でそこまでは体力的にできなかった、みたいなコメントをニュースで読んだ覚えがあります。
一方、2013年から作付を再開した南相馬市旧太田村においては27検体もの基準値超えがありました。旧太田村においては2012年にも試験栽培が行われていましたが、その結果は下に示すように基準値超えはゼロで、12検体中11検体が50Bq/kg以下でした。

(2014年1月 規制庁への説明資料 5ページより)
つまり、2012年の試験栽培は数が少ないためにハッキリとしたことは言えませんが、2013年の基準値超えが何か特別な要因があったかもしれないという疑問を提起するものであったということです。
旧太田村の27検体は地図上で言うと作付再開準備区域の最南端に位置します。それよりも南は作付制限区域(試験栽培)になっています。試験栽培で基準値超えがでた5点は、もっと南の小高地区(福浦村)でした。
なお、この地図を見ていただければ、南相馬市でも北の方は米の放射性セシウムの量が少なく、南の方が多いという傾向は読み取れると思います。

(2014年1月 規制庁への説明資料 4ページより)
南相馬市旧太田村において27検体の基準値超えがでた8戸の農家は吸収抑制対策をしっかりと行っており、土壌を分析すると、交換性カリウム含量は、作付後に28~49mg/100gと目標を上回っていたことがわかりました。

(2014年2月 南相馬市地域農業再生協議会説明資料 3ページより)
ただ、土壌中の交換性放射性セシウム濃度は比較的高く、粘土含量も低いことから、土壌の性質が原因の一つである可能性が示唆されました。

(2014年1月 規制庁への説明資料 22ページより)
そこで、2013年の基準値超えの原因が土壌に由来するものかどうかを確認するため、旧太田村の基準値超過ほ場とその周辺ほ場、さらには(比較として)中通りの試験ほ場の土壌を用い、栽培容器内でイネ幼苗を11日間栽培し、幼苗中の放射性セシウム(Cs-137のみ)を測定するという実験を行いました。なお、このデータは農水省が2014年3月に「放射性セシウム濃度の高い米が発生する要因とその対策について ~要因解析調査と試験栽培等の結果の取りまとめ~(概要第2版)」として公表した資料にもすでに23ページに掲載されていました。この時は旧太田村という表現だけは除いていましたが、内容としては変わりません。
すると、下のグラフに示すように、基準値超過ほ場の土壌では、同地域の対照ほ場の土壌に比べて幼苗中に放射性セシウムがより多く吸収されたことから、基準値超過に土壌の性質が影響したと考えられました。

(2014年1月 規制庁への説明資料 23ページより)
しかしながら、中通りのほ場の土壌に比べると、玄米の放射性セシウム濃度は同程度である一方、幼苗中の放射性セシウム濃度は半分程度となっており、当該地域の基準値超過には、土壌以外の要素も影響している可能性が示唆されました。
ここは重要なところなので解説を加えます。この実験では、稲の幼苗を生育させて、土壌から稲体へのセシウムの吸収を調べています。一方で、棒グラフの下に書いてある数字は同じほ場からとれた25年度産の玄米中の放射性セシウムです。
棒グラフではCs-137のみを測定していて、下の表では玄米中のCs-134+Cs-137のデータを記載してありますので、例えば超過ほ場では、110Bq/kgといってもCs-137だけでは約80Bq/kgということになります。原発事故後2年半以上が経過しており、Cs-134の半減期を超えていますので、Cs-134:Cs-137は約1:2になっています。
そうすると、全く同じ実験でのデータではないということを注意する必要がありますが、Cs-137のみで考えると玄米/稲体比が太田超過ほ場および太田超過ほ場周辺では、太田対照ほ場や中通りの試験ほ場と比べて異常に高いのがよくわかると思います。
稲体と玄米を比較すると、玄米は稲体の1/2~1/3であることがこれまで報告されていますから、このデータは、旧太田村の基準値超えの要因が、土壌によるものの他、土壌以外の別の要因もある可能性を示唆しています。
では、それ以外の要因として何があるでしょうか?詳しい紹介は省略しますが、籾すり機などからの交差汚染の可能性がまずないことは確認されています(規制庁への説明資料6~8ページ)。また、用水からの汚染の可能性についてもほぼ否定できることがわかりました(規制庁への説明資料24~25ページ)。
さらに、土壌などの再巻き上げによる付着の可能性についても調査しており、その可能性は低いということが示されています(規制庁への説明資料18ページ)。
2. イメージングプレートが示す直接汚染の可能性とその原因
これまでの話をまとめると、「旧太田村において基準値超えをした理由の一つとして土壌の性質が考えられるが、それ以外にも要因がありそうだということ、農機具からの交差汚染や用水、土壌の再巻き上げは原因として考えにくいこと」があげられます。では、そのプラスαは何でしょうか?
そのヒントになるのがイメージングプレートのデータです。イメージングプレートというのは、レントゲン写真のようなもので放射性物質の存在を可視化できるものだと思っていただければいいと思います。下の写真は玄米の写真とイメージングプレートの合成画像ですが、黒い部分はそこに放射性物質があることを示しています。下の2012年の2枚の基準値超えでは、イメージングプレートには特に濃い部分は観察されません。つまり一様に汚染されているということです。一方で、上の2枚の2013年の南相馬市の画像では、明らかに黒い斑点がいくつも見えます。これは、ある玄米にだけ特にひどい汚染が起こっていることを示しています。

(2014年1月 規制庁への説明資料 9ページより)
(なお、農水省のHPに注意書きがありましたので、私のブログを読む人で誤解する人は少ないとは思いますが念のためにこれも引用しておきます。)
「※ 調査結果を引用する場合のお願い
以下に掲げる調査結果の中には、イメージングプレート(放射線を高感度に検出するX 線写真)による画像が含まれています。
その多くは、放射性物質の位置がわかるように、イメージングプレートの画像と通常の画像(可視光の写真)を重ね合わせて合成していますが、あくまでも合成画像であり、実際の農作物等が黒く見えるわけではありません。
合成画像を引用する場合は、上記のような説明を付すなど、誤解が生じないようご配慮をお願いいたします。」
(農水省HP 福島県南相馬市の25年産米の基準値超過の発生要因調査について より)
また、下の図は旧太田村ではなくその南の作付制限区域(試験栽培)の小高区でのデータなので注意して欲しいのですが、旧太田村でもおそらく同様のメカニズムが働いていたと類推されます。小高区のある農家の圃場において、玄米ではなく稲穂を直接イメージングプレートにかけたもので、右上の稲穂の形に沿ってイメージングプレートに黒く感光しているのがわかります。

(2014年1月 規制庁への説明資料 11ページより)
この稲穂の葉と茎を感光させてみると、上から2番目の葉にスポット状の汚染があり、さらには最上位の茎からも汚染が確認されたということです。

(2014年1月 規制庁への説明資料 11ページより)
つまり、このことはこの稲穂の籾、あるいは葉や茎に直接放射性物質が付着した可能性を示しているのです。一番考えられるのは農機具からの交差汚染ですが、それはないということは今回確認されています。
実際、今回の旧太田村の玄米を縦に切断してその断面の画像解析を行ったところ、下のように玄米表面だけではなく胚及び背面から腹面に至る部分で強い放射線像が確認されました。ということは、このデータから収穫後のクロスコンタミということは明確に否定されます。収穫後に農機具から汚染したならば表面だけの汚染ですのでこのようなパターンになる事はありません。

(2014年1月 規制庁への説明資料 17ページより)
となると、どこかから放射性物質が飛んできたということになります。2011年ならばまだわかりますが、2013年にそのようなことがあるのでしょうか?どこから、ということはこのあとで考えますが、規制庁への説明資料に直接汚染と間接汚染についての説明がありましたのでそれを引用します。
農作物の汚染には地上部に放射性物質が付着して浸透する直接汚染と、土壌から吸収する間接汚染があります。2011年のコメの収穫前に書いた「7/23 今年の米の放射性セシウムによる汚染具合を予想する!後編」や「8/7 小麦の放射性セシウムデータのまとめと米データの最新の予想」において直接汚染と間接汚染の違いをかきましたので、興味のある方はやや古い内容ですがお読みいただければと思います。2011年には実際に放射性物質が今よりも大量に飛散していましたので、小麦において土壌の放射性セシウム量から考えるよりも千葉県や茨城県の小麦の放射性セシウムが多いという結果が出ていました。今から振り返るとこれはおそらく直接汚染の影響を受けていたためと思われます。
しかし、2012年以降は基本的には土壌や用水からの放射性物質の移行、すなわち間接汚染だけを対象に考えてきました。実際、それで充分だったのです。しかし、今回はやはり直接汚染を考慮する必要があります。直接汚染にも細かく分けると葉面汚染、花汚染、基部吸収の3つに分類されます。

(2014年1月 規制庁への説明資料 13ページより)
これまでの文献から、葉面汚染については開花期の稲の葉に放射性セシウムの溶液を4日間浸漬処理したあとでその部位を切除して栽培したところ、玄米への放射性セシウムの転流が確認されています。

(2014年1月 規制庁への説明資料 14ページより)
同様に、花汚染についても、開花期の籾に放射性セシウムが付着すると、それが隣接する籾に放射性セシウムが転流することが文献的に確認されています。

(2014年1月 規制庁への説明資料 14ページより)
この論文は1984年のもので、「土壌及び土壌‐植物系における放射性ストロンチウムとセシウムの挙動に関する研究(リンクを押すとダウンロードされます)」というタイトルで日本語で書かれたものですので、興味のある方は読むことをお勧めします。
これらの資料と玄米断面の放射性物質の解析データなどからわかることは、放射性物質が稲の開花期前後に飛んできて、それが葉面あるいは籾に付着し、転流が起こってその付着した稲の玄米に放射性セシウムが移行した可能性が考えられるということです。
とすると、2013年8月に玄米への転流が起こって基準値を超えるほどの放射性セシウムの飛散があったのかどうか?ということが焦点になってきます。2011年からずっとそのような現象が続いていたのならばまだわかりますが、2012年の南相馬市旧太田村の試験栽培の時には(同じ圃場かどうかはわかりませんが)基準値超えは12検体のうち一つもありませんでしたから、これは2013年に起こった現象でないと説明がつきません。
3. 農水省のその他の資料
そして、1月の規制庁への説明資料では、これまでの文献データから考えて、放射性セシウム降下量が1,000Bq/m2の場合に玄米への影響を試算すると、100Bq/kgの上昇は十分に有り得る範囲であるという説明をしています。この15~16ページの資料については説明しきれないのでそのまま引用しますが、ここで言っていることは「もし1,000Bq/m2の放射性セシウムの降下量があれば、8月のように葉が多くでていてバイオマスとして多いときには玄米に100Bq/kgの影響が出ることも可能」ということです。


(2014年1月 規制庁への説明資料 15~16ページより)
また、今回の農水省の公表資料には米以外の農作物などのイメージングプレートのデータも掲載されています。ただ、残念なことにこれらの資料から何をいいたいのかがあまり明確ではありません。また、データを取得したのがいつの時点なのかを明記してくれていないのが残念です。まとめの文章を読む限り、米における直接汚染のようなハッキリとした濃淡は認められなかったということをいいたいようです。
例えば下の図は大豆のイメージングプレートのデータです。日付を見ると2013年11/8と記載がありますので昨年11月の情報という目で見ておく必要があります。(この南相馬市旧石神村というのは旧太田村の西側に位置する村です。)

(その他の調査結果(米以外の農作物等のイメージングプレート画像) より)
では、南相馬市の大豆には2013年に何か影響があったのでしょうか?福島県の「福島新発売」というサイトには、福島県の農産物の放射性物質のデータが蓄積されていて検索できるようになっています。データは厚労省のサイトにもありますが、こちらのサイトでは例えば南相馬市でも旧太田村なのか旧石神村なのかが判別できるようになっています。
こちらのサイトで南相馬市旧太田村の大豆を検索すると、不思議な現象がわかりました。

(福島新発売 より検索した結果の集計の一部)
まず、旧太田村では大豆は12月頃に収穫されているのですが、2012年と2013年を比べると2013年の方が放射性セシウム量は増えて、基準値超えもいくつも出てしまっています。2012年の15検体の平均は41±5Bq/kgでしたが、2013年の27検体の平均は81±6Bq/kgと2012年よりも高くなっています。(ちなみに、2011年は南相馬市全体で5検体でしたが、NDをゼロとして計算すると平均が92±32Bq/kgです。なお、2011年のデータは検体数が少なく、旧太田村だけでないことに注意する必要があります。)

今年の冬の大豆に含まれる放射性物質がまた下がってくれたら、2013年の増加には意味があると言えると思いますが、現段階ではそこまではわかりません。旧太田村においては、2012年よりも2013年の方が大豆に含まれる放射性物質が高かったというのは確かだと思います。ただ、それが直接汚染によるものなのかどうかは不明です。
なお、ここでは詳細は示しませんが、太田村と西隣の石神村を合わせて集計すると、2012年と2013年は平均値ではほとんど変わりませんでした。ただ、これは2012年の石神村のサンプルが2検体しかなくしかも大きく基準値を超えているために平均を引き上げていることによる結果ですのであまり参考になりません。
次に小麦でも同様の解析を行ってみました。小麦の場合は7月から8月にかけて収穫が行われます。小麦の場合はどの地域での産物かという情報がないため、南相馬市という情報しかありません。こちらも詳細は示しませんが、2011年は平均で257Bq/kgだった放射性セシウムが2012年には10Bq/kgまで低下します。ところが2013年には20Bq/kgと下げ止まり、2014年にはほぼ検出限界値ギリギリの1.4Bq/kgと低下しています。6月頃に花が咲いて8月中旬には収穫してしまう小麦の場合はあまり影響がなかったということだと思います。
4. 2013年8月の3号機瓦礫撤去との関係は?
最後に、2013年8月に行われた福島第一原発での瓦礫撤去作業と旧太田村の基準値超えの関係はどうなのか?という問題について考えてみましょう。結論から言って、農水省も詳細はまだはっきりとはわからないと言っているように、これが原因だと断定するには証拠が不十分なのだと思います。ただ、状況証拠はいくつか存在しています。
これまでわかっていることは、以下の事実です。
・該当する土壌の性質として交換性放射性セシウム量が高かったということ以外に何かプラスαの要因がないと説明がつかないこと。
・用水や農機具からのクロスコンタミは明確に否定できること。
・イメージングプレートのデータから明らかなように、一部の玄米が明らかに非常に高濃度に汚染されていること。
・旧太田村よりも南の小高区のデータではあるが、明らかに稲穂や葉、茎に放射性物質が付着して直接汚染が起こっていること。
これを説明するには、2013年8月頃に放射性物質が大量に降ってきたという事実があると非常に説明しやすいです。しかも量的にも十分であることが必要です。
2013年8月には、残念ながら南相馬市付近ではダストサンプリングや降下量の測定は行われていませんでしたので、正確な情報がわかりませんが、最近になって東京電力もいくつかの資料を出してきましたのでそれを元に考えてみましょう。
まず、規制委員会の監視評価検討会に提出した資料があります。
2014年7/23 第25回監視評価検討会 資料2 1号機建屋カバー解体・ガレキ撤去時のダスト飛散抑制対策と放射性物質濃度の監視について(平成25 年8 月に発生した免震重要棟前のダスト濃度上昇を踏まえた対応)
2014年8/19 第26回監視評価検討会 資料2 3号機ガレキ撤去作業時のダスト飛散に伴う放射性物質放出量の推定値について
それから東京電力のHPに掲載された資料
2014年8/19 参考:平成26年4月10日農林水産省説明資料)平成25年8月に発生した免震重要棟前ダストモニタ上昇について
これらの中で一番参考になるのは東京電力が農水省に説明した資料の中の数値でしょう。

(8/19 東電HP 平成25年8月に発生した免震重要棟前ダストモニタ上昇について 8ページより)
ここでは、4時間放出されたとして、南相馬市役所での沈着量が最大で③の0.04Bq/cm2と想定しています。ただし、この時に使われたのは推定放出率が3.4 E12 Bq/h(=3.4兆Bq/h)という数値で、これは7/23の検討会で保守的に余裕を見た数値として出した2.8 E11 Bq/h(2800億Bq/h)よりもさらに高い数値です。そして8/19の検討会では現実的な数値として約1.2 E11 Bq/hで2時間という数値を出しているため、総量としては2.6 E11 Bqという値が報告されています。
この数値が正しいとすると、7/23の検討会の数値が上の農水省への説明資料の①にあたりますので、そのさらに20%くらいという放出量ということになります。つまり、南相馬市役所での沈着量としては、①の0.003Bq/cm2のさらに20%程度ですから0.0006Bq/cm2という計算になります。ただ、南相馬市は福島第一原発から約25km離れていますが、旧太田村は17km程度しか離れていないので、もう少し沈着量は多くなると予想されます。(2倍程度でしょうか?)
しかし、農水省の資料にあったように、降下量が1000Bq/m2ならば100Bq/kgの上昇はあり得るという計算だとすると、1000Bq/m2=0.1000Bq/cm2ですから、実際に放出された量は8/19でその1/100程度です。だとすると、単純な計算では1Bq/kg程度しか関与しないという計算になります。
私の計算がどこかで間違っているのか、あるいは東電の試算が間違っているのか、農水省の試算が低めに出しているのか、そこはわかりませんが、もし上記の私の仮定と計算が正しいとすると、2013年8月の瓦礫撤去における放射性物質の飛散では、オーダーとして0.001Bq/cm2=10Bq/m2程度の降下量ということになります。そうであるとすると、付着した放射性セシウムが玄米に転流しても、数10Bq/kgのセシウムの増加を起こすのは難しいという計算になります。
状況証拠としては非常に可能性があると思ったのですが、量的な計算が合わないような気がするので、今回の発表された資料から基準値超えの原因と瓦礫撤去の関係をいいきるのは難しいというのが現段階での私の考えです。
ただ、上記の計算についてはあまり自信がありませんので、どなたか同じような試算をしていただいて、桁が間違っていないかどうか、計算違いがないかどうか確認していただけるとありがたいです。
なお、2011年3月当時に放出された球状セシウム粒子(リンク先14ページ)のようなもの(英語の論文はこちら)が3号機のオペフロに残っていて、それが2013年の瓦礫撤去で舞い上がった可能性というのも考えてみましたが、この粒子は不溶性であるということから稲に付着しても溶け出して玄米に転流する可能性は少ないと考えました。
5. 今後に向けて
農水省の「福島県南相馬市の25年産米の基準値超過の発生要因調査について」には「南相馬市における基準値超過の発生要因調査及びモニタリングの強化の実施状況について(平成26年7月18日、南相馬市地域農業再生協議会説明資料)」という資料があります。その中に今年はダストモニタリング地点を大幅に強化していることが説明されています。今年は福島第一原発で1号機の瓦礫撤去が予定されており、昨年と同様の飛散が起こらないかどうかをモニターできるようにしています。その結果はこのページに記載されています。

(南相馬市における基準値超過の発生要因調査及びモニタリングの強化の実施状況について(平成26年7月18日、南相馬市地域農業再生協議会説明資料) 10ページより)
また、昨年の旧太田村や小高区での基準値超えのコメや稲穂に付着していた放射性セシウムを含むダスト粒子と福島第1原発等を含む様々な環境のダスト粒子の物性を比較し、米に付着していたダスト粒子の由来を検証しようとしているということです。この詳細な分析によって、このダスト粒子がどこから来たのかということも見当がつくかもしれません。期待したいと思います。

(南相馬市における基準値超過の発生要因調査及びモニタリングの強化の実施状況について(平成26年7月18日、南相馬市地域農業再生協議会説明資料) 11ページより)
なお、今回は省略しましたが、同資料には今年こそ基準値超えを起こさないようにするため、ポット試験や実証試験を行っているという紹介もされています。
すでに2014年度(平成26年度)の福島県の米の収穫も始まっています。「福島県で平成26年産米の全袋検査始まる!今年のポイントは?」に書きましたが、今年のポイントはやはり今年から作付を再開した地区でどれだけのセシウムが出てくるか、ということだと思います。最初にも書いたように、9/26には南相馬市でも2014年産米の測定が始まり、119点が測定されて全て測定下限値未満でした。今年は特に南相馬市のお米がどうなるのか見守って行きたいと思います。
おそらく今年はさらに徹底した対策を取っていると思いますので、南相馬市旧太田村においても基準値超えをすることはないと思います。今年も可能な限り「ふくしまの恵み」サイトを毎日チェックして行く予定ですので、福島県のお米の放射性セシウムに関する情報についてはこのブログを見に来ていただきたいと思います。
農水省のHPに8/25に公開された「福島県南相馬市の25年産米の基準値超過の発生要因調査について」の中には、私が7/16に「25年産米の放射性セシウム:南相馬市旧太田村の基準値超えの真の理由は?」を書いた際にはおしどりマコさんのブロマガからの引用とした今年2/14の南相馬市地域農業再生協議会での説明資料のほか、今年の1月に原子力規制庁に説明した際の資料や、その他の調査結果が掲載されています。
今回は今年1月に農水省が原子力規制庁に説明した際の資料を中心に、7月に書いた内容と重複する部分もありますが再度説明していきます。
まず、これまで公表された資料にはなかったのでここに引用しますが、下の図は2012年と2013年の基準値超えがどの地区で起きたかということを地図上で示したものです(詳しく見たい方は元の資料で拡大して見てください)。ここには、全量全袋検査の対象になっていないために発表されなかった、2012年(平成24年)の試験栽培での基準値超過地点が1点福島市にあったこともさりげなく示されています。
(2014年1月 規制庁への説明資料 2ページより)
また、2012年に基準値超えになった16地点については、2013年においては地図では黄色の全量生産出荷管理区域に指定されていることがわかります。地図上で黄色が飛び飛びにあるのはそういう理由です。これらの16地点の原因分析の結果、土壌交換性カリウムの量が目標水準(25mg K2O/100g)を下回っていることがわかりました。そのため、カリウム施肥による吸収抑制対策が必要ということがわかり、2013年にはそれを徹底させました。
その結果として2013年(平成25年)には、2012年にも作付を行っていた地区では福島市旧福島市で1地点だけ基準値超えがありましたが、こちらについてはカリウム施肥による吸収抑制対策が未実施であったということです。高齢の農家でそこまでは体力的にできなかった、みたいなコメントをニュースで読んだ覚えがあります。
一方、2013年から作付を再開した南相馬市旧太田村においては27検体もの基準値超えがありました。旧太田村においては2012年にも試験栽培が行われていましたが、その結果は下に示すように基準値超えはゼロで、12検体中11検体が50Bq/kg以下でした。
(2014年1月 規制庁への説明資料 5ページより)
つまり、2012年の試験栽培は数が少ないためにハッキリとしたことは言えませんが、2013年の基準値超えが何か特別な要因があったかもしれないという疑問を提起するものであったということです。
旧太田村の27検体は地図上で言うと作付再開準備区域の最南端に位置します。それよりも南は作付制限区域(試験栽培)になっています。試験栽培で基準値超えがでた5点は、もっと南の小高地区(福浦村)でした。
なお、この地図を見ていただければ、南相馬市でも北の方は米の放射性セシウムの量が少なく、南の方が多いという傾向は読み取れると思います。
(2014年1月 規制庁への説明資料 4ページより)
南相馬市旧太田村において27検体の基準値超えがでた8戸の農家は吸収抑制対策をしっかりと行っており、土壌を分析すると、交換性カリウム含量は、作付後に28~49mg/100gと目標を上回っていたことがわかりました。
(2014年2月 南相馬市地域農業再生協議会説明資料 3ページより)
ただ、土壌中の交換性放射性セシウム濃度は比較的高く、粘土含量も低いことから、土壌の性質が原因の一つである可能性が示唆されました。
(2014年1月 規制庁への説明資料 22ページより)
そこで、2013年の基準値超えの原因が土壌に由来するものかどうかを確認するため、旧太田村の基準値超過ほ場とその周辺ほ場、さらには(比較として)中通りの試験ほ場の土壌を用い、栽培容器内でイネ幼苗を11日間栽培し、幼苗中の放射性セシウム(Cs-137のみ)を測定するという実験を行いました。なお、このデータは農水省が2014年3月に「放射性セシウム濃度の高い米が発生する要因とその対策について ~要因解析調査と試験栽培等の結果の取りまとめ~(概要第2版)」として公表した資料にもすでに23ページに掲載されていました。この時は旧太田村という表現だけは除いていましたが、内容としては変わりません。
すると、下のグラフに示すように、基準値超過ほ場の土壌では、同地域の対照ほ場の土壌に比べて幼苗中に放射性セシウムがより多く吸収されたことから、基準値超過に土壌の性質が影響したと考えられました。
(2014年1月 規制庁への説明資料 23ページより)
しかしながら、中通りのほ場の土壌に比べると、玄米の放射性セシウム濃度は同程度である一方、幼苗中の放射性セシウム濃度は半分程度となっており、当該地域の基準値超過には、土壌以外の要素も影響している可能性が示唆されました。
ここは重要なところなので解説を加えます。この実験では、稲の幼苗を生育させて、土壌から稲体へのセシウムの吸収を調べています。一方で、棒グラフの下に書いてある数字は同じほ場からとれた25年度産の玄米中の放射性セシウムです。
棒グラフではCs-137のみを測定していて、下の表では玄米中のCs-134+Cs-137のデータを記載してありますので、例えば超過ほ場では、110Bq/kgといってもCs-137だけでは約80Bq/kgということになります。原発事故後2年半以上が経過しており、Cs-134の半減期を超えていますので、Cs-134:Cs-137は約1:2になっています。
そうすると、全く同じ実験でのデータではないということを注意する必要がありますが、Cs-137のみで考えると玄米/稲体比が太田超過ほ場および太田超過ほ場周辺では、太田対照ほ場や中通りの試験ほ場と比べて異常に高いのがよくわかると思います。
稲体 | 玄米 | 玄米/稲体 | |
太田超過ほ場 | 87 | 80 | 92% |
太田超過ほ場周辺 | 71 | 60 | 85% |
太田対照ほ場 | 33 | 16 | 48% |
中通り試験ほ場 | 180 | 80 | 44% |
稲体と玄米を比較すると、玄米は稲体の1/2~1/3であることがこれまで報告されていますから、このデータは、旧太田村の基準値超えの要因が、土壌によるものの他、土壌以外の別の要因もある可能性を示唆しています。
では、それ以外の要因として何があるでしょうか?詳しい紹介は省略しますが、籾すり機などからの交差汚染の可能性がまずないことは確認されています(規制庁への説明資料6~8ページ)。また、用水からの汚染の可能性についてもほぼ否定できることがわかりました(規制庁への説明資料24~25ページ)。
さらに、土壌などの再巻き上げによる付着の可能性についても調査しており、その可能性は低いということが示されています(規制庁への説明資料18ページ)。
2. イメージングプレートが示す直接汚染の可能性とその原因
これまでの話をまとめると、「旧太田村において基準値超えをした理由の一つとして土壌の性質が考えられるが、それ以外にも要因がありそうだということ、農機具からの交差汚染や用水、土壌の再巻き上げは原因として考えにくいこと」があげられます。では、そのプラスαは何でしょうか?
そのヒントになるのがイメージングプレートのデータです。イメージングプレートというのは、レントゲン写真のようなもので放射性物質の存在を可視化できるものだと思っていただければいいと思います。下の写真は玄米の写真とイメージングプレートの合成画像ですが、黒い部分はそこに放射性物質があることを示しています。下の2012年の2枚の基準値超えでは、イメージングプレートには特に濃い部分は観察されません。つまり一様に汚染されているということです。一方で、上の2枚の2013年の南相馬市の画像では、明らかに黒い斑点がいくつも見えます。これは、ある玄米にだけ特にひどい汚染が起こっていることを示しています。
(2014年1月 規制庁への説明資料 9ページより)
(なお、農水省のHPに注意書きがありましたので、私のブログを読む人で誤解する人は少ないとは思いますが念のためにこれも引用しておきます。)
「※ 調査結果を引用する場合のお願い
以下に掲げる調査結果の中には、イメージングプレート(放射線を高感度に検出するX 線写真)による画像が含まれています。
その多くは、放射性物質の位置がわかるように、イメージングプレートの画像と通常の画像(可視光の写真)を重ね合わせて合成していますが、あくまでも合成画像であり、実際の農作物等が黒く見えるわけではありません。
合成画像を引用する場合は、上記のような説明を付すなど、誤解が生じないようご配慮をお願いいたします。」
(農水省HP 福島県南相馬市の25年産米の基準値超過の発生要因調査について より)
また、下の図は旧太田村ではなくその南の作付制限区域(試験栽培)の小高区でのデータなので注意して欲しいのですが、旧太田村でもおそらく同様のメカニズムが働いていたと類推されます。小高区のある農家の圃場において、玄米ではなく稲穂を直接イメージングプレートにかけたもので、右上の稲穂の形に沿ってイメージングプレートに黒く感光しているのがわかります。
(2014年1月 規制庁への説明資料 11ページより)
この稲穂の葉と茎を感光させてみると、上から2番目の葉にスポット状の汚染があり、さらには最上位の茎からも汚染が確認されたということです。
(2014年1月 規制庁への説明資料 11ページより)
つまり、このことはこの稲穂の籾、あるいは葉や茎に直接放射性物質が付着した可能性を示しているのです。一番考えられるのは農機具からの交差汚染ですが、それはないということは今回確認されています。
実際、今回の旧太田村の玄米を縦に切断してその断面の画像解析を行ったところ、下のように玄米表面だけではなく胚及び背面から腹面に至る部分で強い放射線像が確認されました。ということは、このデータから収穫後のクロスコンタミということは明確に否定されます。収穫後に農機具から汚染したならば表面だけの汚染ですのでこのようなパターンになる事はありません。
(2014年1月 規制庁への説明資料 17ページより)
となると、どこかから放射性物質が飛んできたということになります。2011年ならばまだわかりますが、2013年にそのようなことがあるのでしょうか?どこから、ということはこのあとで考えますが、規制庁への説明資料に直接汚染と間接汚染についての説明がありましたのでそれを引用します。
農作物の汚染には地上部に放射性物質が付着して浸透する直接汚染と、土壌から吸収する間接汚染があります。2011年のコメの収穫前に書いた「7/23 今年の米の放射性セシウムによる汚染具合を予想する!後編」や「8/7 小麦の放射性セシウムデータのまとめと米データの最新の予想」において直接汚染と間接汚染の違いをかきましたので、興味のある方はやや古い内容ですがお読みいただければと思います。2011年には実際に放射性物質が今よりも大量に飛散していましたので、小麦において土壌の放射性セシウム量から考えるよりも千葉県や茨城県の小麦の放射性セシウムが多いという結果が出ていました。今から振り返るとこれはおそらく直接汚染の影響を受けていたためと思われます。
しかし、2012年以降は基本的には土壌や用水からの放射性物質の移行、すなわち間接汚染だけを対象に考えてきました。実際、それで充分だったのです。しかし、今回はやはり直接汚染を考慮する必要があります。直接汚染にも細かく分けると葉面汚染、花汚染、基部吸収の3つに分類されます。
(2014年1月 規制庁への説明資料 13ページより)
これまでの文献から、葉面汚染については開花期の稲の葉に放射性セシウムの溶液を4日間浸漬処理したあとでその部位を切除して栽培したところ、玄米への放射性セシウムの転流が確認されています。
(2014年1月 規制庁への説明資料 14ページより)
同様に、花汚染についても、開花期の籾に放射性セシウムが付着すると、それが隣接する籾に放射性セシウムが転流することが文献的に確認されています。
(2014年1月 規制庁への説明資料 14ページより)
この論文は1984年のもので、「土壌及び土壌‐植物系における放射性ストロンチウムとセシウムの挙動に関する研究(リンクを押すとダウンロードされます)」というタイトルで日本語で書かれたものですので、興味のある方は読むことをお勧めします。
これらの資料と玄米断面の放射性物質の解析データなどからわかることは、放射性物質が稲の開花期前後に飛んできて、それが葉面あるいは籾に付着し、転流が起こってその付着した稲の玄米に放射性セシウムが移行した可能性が考えられるということです。
とすると、2013年8月に玄米への転流が起こって基準値を超えるほどの放射性セシウムの飛散があったのかどうか?ということが焦点になってきます。2011年からずっとそのような現象が続いていたのならばまだわかりますが、2012年の南相馬市旧太田村の試験栽培の時には(同じ圃場かどうかはわかりませんが)基準値超えは12検体のうち一つもありませんでしたから、これは2013年に起こった現象でないと説明がつきません。
3. 農水省のその他の資料
そして、1月の規制庁への説明資料では、これまでの文献データから考えて、放射性セシウム降下量が1,000Bq/m2の場合に玄米への影響を試算すると、100Bq/kgの上昇は十分に有り得る範囲であるという説明をしています。この15~16ページの資料については説明しきれないのでそのまま引用しますが、ここで言っていることは「もし1,000Bq/m2の放射性セシウムの降下量があれば、8月のように葉が多くでていてバイオマスとして多いときには玄米に100Bq/kgの影響が出ることも可能」ということです。
(2014年1月 規制庁への説明資料 15~16ページより)
また、今回の農水省の公表資料には米以外の農作物などのイメージングプレートのデータも掲載されています。ただ、残念なことにこれらの資料から何をいいたいのかがあまり明確ではありません。また、データを取得したのがいつの時点なのかを明記してくれていないのが残念です。まとめの文章を読む限り、米における直接汚染のようなハッキリとした濃淡は認められなかったということをいいたいようです。
例えば下の図は大豆のイメージングプレートのデータです。日付を見ると2013年11/8と記載がありますので昨年11月の情報という目で見ておく必要があります。(この南相馬市旧石神村というのは旧太田村の西側に位置する村です。)
(その他の調査結果(米以外の農作物等のイメージングプレート画像) より)
では、南相馬市の大豆には2013年に何か影響があったのでしょうか?福島県の「福島新発売」というサイトには、福島県の農産物の放射性物質のデータが蓄積されていて検索できるようになっています。データは厚労省のサイトにもありますが、こちらのサイトでは例えば南相馬市でも旧太田村なのか旧石神村なのかが判別できるようになっています。
こちらのサイトで南相馬市旧太田村の大豆を検索すると、不思議な現象がわかりました。
(福島新発売 より検索した結果の集計の一部)
まず、旧太田村では大豆は12月頃に収穫されているのですが、2012年と2013年を比べると2013年の方が放射性セシウム量は増えて、基準値超えもいくつも出てしまっています。2012年の15検体の平均は41±5Bq/kgでしたが、2013年の27検体の平均は81±6Bq/kgと2012年よりも高くなっています。(ちなみに、2011年は南相馬市全体で5検体でしたが、NDをゼロとして計算すると平均が92±32Bq/kgです。なお、2011年のデータは検体数が少なく、旧太田村だけでないことに注意する必要があります。)
今年の冬の大豆に含まれる放射性物質がまた下がってくれたら、2013年の増加には意味があると言えると思いますが、現段階ではそこまではわかりません。旧太田村においては、2012年よりも2013年の方が大豆に含まれる放射性物質が高かったというのは確かだと思います。ただ、それが直接汚染によるものなのかどうかは不明です。
なお、ここでは詳細は示しませんが、太田村と西隣の石神村を合わせて集計すると、2012年と2013年は平均値ではほとんど変わりませんでした。ただ、これは2012年の石神村のサンプルが2検体しかなくしかも大きく基準値を超えているために平均を引き上げていることによる結果ですのであまり参考になりません。
次に小麦でも同様の解析を行ってみました。小麦の場合は7月から8月にかけて収穫が行われます。小麦の場合はどの地域での産物かという情報がないため、南相馬市という情報しかありません。こちらも詳細は示しませんが、2011年は平均で257Bq/kgだった放射性セシウムが2012年には10Bq/kgまで低下します。ところが2013年には20Bq/kgと下げ止まり、2014年にはほぼ検出限界値ギリギリの1.4Bq/kgと低下しています。6月頃に花が咲いて8月中旬には収穫してしまう小麦の場合はあまり影響がなかったということだと思います。
4. 2013年8月の3号機瓦礫撤去との関係は?
最後に、2013年8月に行われた福島第一原発での瓦礫撤去作業と旧太田村の基準値超えの関係はどうなのか?という問題について考えてみましょう。結論から言って、農水省も詳細はまだはっきりとはわからないと言っているように、これが原因だと断定するには証拠が不十分なのだと思います。ただ、状況証拠はいくつか存在しています。
これまでわかっていることは、以下の事実です。
・該当する土壌の性質として交換性放射性セシウム量が高かったということ以外に何かプラスαの要因がないと説明がつかないこと。
・用水や農機具からのクロスコンタミは明確に否定できること。
・イメージングプレートのデータから明らかなように、一部の玄米が明らかに非常に高濃度に汚染されていること。
・旧太田村よりも南の小高区のデータではあるが、明らかに稲穂や葉、茎に放射性物質が付着して直接汚染が起こっていること。
これを説明するには、2013年8月頃に放射性物質が大量に降ってきたという事実があると非常に説明しやすいです。しかも量的にも十分であることが必要です。
2013年8月には、残念ながら南相馬市付近ではダストサンプリングや降下量の測定は行われていませんでしたので、正確な情報がわかりませんが、最近になって東京電力もいくつかの資料を出してきましたのでそれを元に考えてみましょう。
まず、規制委員会の監視評価検討会に提出した資料があります。
2014年7/23 第25回監視評価検討会 資料2 1号機建屋カバー解体・ガレキ撤去時のダスト飛散抑制対策と放射性物質濃度の監視について(平成25 年8 月に発生した免震重要棟前のダスト濃度上昇を踏まえた対応)
2014年8/19 第26回監視評価検討会 資料2 3号機ガレキ撤去作業時のダスト飛散に伴う放射性物質放出量の推定値について
それから東京電力のHPに掲載された資料
2014年8/19 参考:平成26年4月10日農林水産省説明資料)平成25年8月に発生した免震重要棟前ダストモニタ上昇について
これらの中で一番参考になるのは東京電力が農水省に説明した資料の中の数値でしょう。
(8/19 東電HP 平成25年8月に発生した免震重要棟前ダストモニタ上昇について 8ページより)
ここでは、4時間放出されたとして、南相馬市役所での沈着量が最大で③の0.04Bq/cm2と想定しています。ただし、この時に使われたのは推定放出率が3.4 E12 Bq/h(=3.4兆Bq/h)という数値で、これは7/23の検討会で保守的に余裕を見た数値として出した2.8 E11 Bq/h(2800億Bq/h)よりもさらに高い数値です。そして8/19の検討会では現実的な数値として約1.2 E11 Bq/hで2時間という数値を出しているため、総量としては2.6 E11 Bqという値が報告されています。
この数値が正しいとすると、7/23の検討会の数値が上の農水省への説明資料の①にあたりますので、そのさらに20%くらいという放出量ということになります。つまり、南相馬市役所での沈着量としては、①の0.003Bq/cm2のさらに20%程度ですから0.0006Bq/cm2という計算になります。ただ、南相馬市は福島第一原発から約25km離れていますが、旧太田村は17km程度しか離れていないので、もう少し沈着量は多くなると予想されます。(2倍程度でしょうか?)
しかし、農水省の資料にあったように、降下量が1000Bq/m2ならば100Bq/kgの上昇はあり得るという計算だとすると、1000Bq/m2=0.1000Bq/cm2ですから、実際に放出された量は8/19でその1/100程度です。だとすると、単純な計算では1Bq/kg程度しか関与しないという計算になります。
私の計算がどこかで間違っているのか、あるいは東電の試算が間違っているのか、農水省の試算が低めに出しているのか、そこはわかりませんが、もし上記の私の仮定と計算が正しいとすると、2013年8月の瓦礫撤去における放射性物質の飛散では、オーダーとして0.001Bq/cm2=10Bq/m2程度の降下量ということになります。そうであるとすると、付着した放射性セシウムが玄米に転流しても、数10Bq/kgのセシウムの増加を起こすのは難しいという計算になります。
状況証拠としては非常に可能性があると思ったのですが、量的な計算が合わないような気がするので、今回の発表された資料から基準値超えの原因と瓦礫撤去の関係をいいきるのは難しいというのが現段階での私の考えです。
ただ、上記の計算についてはあまり自信がありませんので、どなたか同じような試算をしていただいて、桁が間違っていないかどうか、計算違いがないかどうか確認していただけるとありがたいです。
なお、2011年3月当時に放出された球状セシウム粒子(リンク先14ページ)のようなもの(英語の論文はこちら)が3号機のオペフロに残っていて、それが2013年の瓦礫撤去で舞い上がった可能性というのも考えてみましたが、この粒子は不溶性であるということから稲に付着しても溶け出して玄米に転流する可能性は少ないと考えました。
5. 今後に向けて
農水省の「福島県南相馬市の25年産米の基準値超過の発生要因調査について」には「南相馬市における基準値超過の発生要因調査及びモニタリングの強化の実施状況について(平成26年7月18日、南相馬市地域農業再生協議会説明資料)」という資料があります。その中に今年はダストモニタリング地点を大幅に強化していることが説明されています。今年は福島第一原発で1号機の瓦礫撤去が予定されており、昨年と同様の飛散が起こらないかどうかをモニターできるようにしています。その結果はこのページに記載されています。
(南相馬市における基準値超過の発生要因調査及びモニタリングの強化の実施状況について(平成26年7月18日、南相馬市地域農業再生協議会説明資料) 10ページより)
また、昨年の旧太田村や小高区での基準値超えのコメや稲穂に付着していた放射性セシウムを含むダスト粒子と福島第1原発等を含む様々な環境のダスト粒子の物性を比較し、米に付着していたダスト粒子の由来を検証しようとしているということです。この詳細な分析によって、このダスト粒子がどこから来たのかということも見当がつくかもしれません。期待したいと思います。
(南相馬市における基準値超過の発生要因調査及びモニタリングの強化の実施状況について(平成26年7月18日、南相馬市地域農業再生協議会説明資料) 11ページより)
なお、今回は省略しましたが、同資料には今年こそ基準値超えを起こさないようにするため、ポット試験や実証試験を行っているという紹介もされています。
すでに2014年度(平成26年度)の福島県の米の収穫も始まっています。「福島県で平成26年産米の全袋検査始まる!今年のポイントは?」に書きましたが、今年のポイントはやはり今年から作付を再開した地区でどれだけのセシウムが出てくるか、ということだと思います。最初にも書いたように、9/26には南相馬市でも2014年産米の測定が始まり、119点が測定されて全て測定下限値未満でした。今年は特に南相馬市のお米がどうなるのか見守って行きたいと思います。
おそらく今年はさらに徹底した対策を取っていると思いますので、南相馬市旧太田村においても基準値超えをすることはないと思います。今年も可能な限り「ふくしまの恵み」サイトを毎日チェックして行く予定ですので、福島県のお米の放射性セシウムに関する情報についてはこのブログを見に来ていただきたいと思います。
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