(英エコノミスト誌 2014年9月27日号)
イスラム国との戦いを通じて、世界における米国の役割が明確になるだろう。
バラク・オバマ大統領はイスラム国を標的にシリア領内での空爆に踏み切った〔AFPBB News〕
バラク・オバマ大統領は3年以上もの間、シリアでの戦いに足を踏み入れるのを避けようとしてきた。だが、中東の広大な地域にジハード(聖戦)主義者のナイフが突き付けられたことを受け、9月下旬、ようやくオバマ大統領も避けがたい現実に正面から向き合った。
9月23日、米国主導の下、シリアへの空爆が行われた。今回の空爆では、イスラム国(IS)に加えて、欧米への攻撃を企てていたとして、これまでほとんど知られていなかった「ホラサン」と呼ばれるアルカイダ系過激派組織も標的になった。
これまで常に、自らの主な使命として、国内での国家再建を掲げ続けてきた大統領は、これで6つの国(シリア、イラク、アフガニスタン、パキスタン、イエメン、ソマリア)で自国の軍事力を行使していることになる。
シリアでの作戦は、米国がイラクで進めている対IS攻撃に呼応する不可欠の作戦だ。ISによるカリフ制イスラム国家の樹立を阻止するためには、最低でも、シリアとイラクの両国でISに安息の地を与えないようにする必要がある。
だが、ラッカやモスルの市街地の行方にかかっているのは、ISの将来だけではない。ジハード主義組織に対処するオバマ大統領の試みは、世界の安全保障に対する米国のコミットメントを測る試験でもある。それは、オバマ大統領がこれまで落第し続けてきた試験だ。
ISだけではない
米国が以前よりも衰退し、その状態から抜け出せずにいるという見方が、ここ数年で強まっている。米国はその間、金融危機と長く困難な2度の戦争の影に覆われ、力を衰えさせてきた。中国などの新興の富裕国は、自国の予算案の通過にさえ苦労している国の大統領に、どうして国の運営方法を教えられなければならないのか?
米国は米国で、無秩序の力に抑え込まれ、制御不能に陥りつつある世界を安定させることができないか、もしくは安定させる気がないように見える。この恐ろしい潮流を体現しているのが、ISだ。ISは専門用語で言うところの「非国家主体」で、混乱に乗じて勢力を広げている。ISは、イラクとシリアそれぞれの政府に新たな屈辱を与えながら、さらなる資金と領土、そして兵士を手に入れている。
ISの台頭は、米国の政策の反映でもある。まず、ジョージ・ブッシュ前大統領による思慮の足りない介入だ。イラク侵攻後の2003年5月、米空母エイブラハム・リンカーンはブッシュ前大統領を迎えるために「任務完了」という気の早すぎる横断幕を掲げたが、これが、イラク介入の思慮の浅さを象徴していた。