社説:スコットランド 国家の進化につなげよ

毎日新聞 2014年09月20日 02時40分

 去るべきか、とどまるべきか−−。英国からの独立を問うスコットランドの住民投票が行われ、独立反対派が勝利した。イングランド、ウェールズ、北アイルランド、そしてスコットランドから成る「連合王国」は維持される。

 独立賛成が反対を上回る事前の世論調査結果もあり、世界が固唾(かたず)をのんで見守った。結果は英国残留。とはいえ投票者の実に約45%が、1707年のイングランドとの統合以来、続いてきた連合に終止符を打つ選択をしたのだ。

 歴史的分裂となっていたらどうだっただろう。通貨ポンドは? スコットランドなき英国の政治地図や欧州連合(EU)との関係は? 金融市場の動揺や国内外でのさまざまな波及も懸念されていただけに、ひとまず胸をなでおろしたくなる。

 だが、独立こそ回避されたものの、住民投票後の英国を投票前と同じように見るのは間違いだ。今回の投票は対立や混乱の新たな火種を残すことになったからである。

 投票間近になり独立が現実味を帯び始めると、キャメロン首相は他の主要政党の党首と急ぎスコットランド優遇策をまとめた。住民投票で独立否決となれば、スコットランドはさらに自治権を拡大し、手厚い財政支援も継続されるという内容だ。

 背に腹は代えられない切羽詰まった思いからだろうが、議会がすんなり承認する保証はない。ウェールズなど他の地域から「不平等」との不満が噴出し、独立をほのめかして自治権拡大を勝ち取ろうとする動きを刺激する可能性もある。

 長年にわたり地球上で力による国境線の変更が繰り返されてきたことを思えば、16歳以上の住民が参加し平和裏に独立の当否を決める住民投票は、望ましい民主的解決法に映る。だが、通貨、国防、財政などさまざまな面で、残された側にも影響が及ぶ重大決定を、独立の当事者だけが担う手法は果たして公平といえるのか。今回、投票に参加した有権者の数は、英国の全人口の6%にも達しないのである。

 世界を見渡せば、スペインやベルギーなどでも、分離独立を目指す動きがある。新国家樹立により問題解決を図る傾向が広がればどうなるだろう。

 互いの多様性を尊重しながら主権を共有し、富や費用がより公平に分配されるよう粘り強く努力してこそ進化した21世紀型国家として胸を張れるのではないか。裏を返せば、その努力を怠ると、主権の共有を拒否し、国家をばらばらにする力が優勢になりうるということだ。どの国も程度の差はあれ、そうした危険を抱えている。それを認識させられた住民投票だった。

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