富士山入山料:「率直に言って少ない」徴収率 早くも壁
毎日新聞 2014年09月27日 12時34分(最終更新 09月27日 12時39分)
◇「皆が払っているか」に敏感、半数切れば制度は一気に形骸化
世界遺産効果は2年目にして失われたのか−−。富士山の夏山シーズンが14日に終わり、今年から本格導入された入山料(富士山保全協力金、任意で1000円)の徴収率が山梨側で56%、静岡側で41%と想定を大きく下回ったことが波紋を呼んでいる。天候不順で登山者数も落ち込み、「美しい富士山を後世に残そう」と始まった入山料は早くも壁にぶつかっている。【松本光樹】
今月中旬、シーズン最後の週末を迎えた山梨側・富士山5合目。有料道路「富士スバルライン」は大渋滞で、2日間で7000人を超す登山客が訪れた。「保全協力金にご協力を」。県の委託職員が声を掛けるが、ツアー客らが素通りする光景が目立つ。ツアー参加者の女子大学生(21)は「他の人が払っていないので、自分だけ払いにくい」と小声で話した。
5合目の「総合管理センター」前にある入山料を集めるテントには5〜8人が24時間態勢で配置された。5カ国語の説明板もあるが、道の脇のテントに気付かず通り過ぎる外国人も見られた。
「率直に言って少ない」。入山料の徴収状況に山梨県の担当者は落胆の色を隠せない。同県によると、開山期間(7月1日〜9月14日)に支払いに協力した登山者は11万6184人で総額は1億1394万円。同期間の登山者(6合目通過者)は20万8328人で、徴収率は55.8%にとどまった。
県は昨夏行った試験徴収の実績などから、徴収率を80%と予想。登山者を25万人として2億円を見込んだ。しかし、今年は残雪、台風など天候不順に加え、過去最長のマイカー規制(7〜8月に53日間実施)もあり、登山者数は約20万8000人と8月末に閉山した前年と比べ約2万4000人減少。徴収率も低調で収入は予想の半分になった。
3登山道がある静岡県側も同様に厳しい状況だ。開山期間中の協力者は4万3312人、徴収額は約4382万円。8月末までの徴収率は41.1%に過ぎない。
山梨県の場合、今年度、パトロール強化▽外国人案内人の配置▽案内板の整備−−など登山者の安全策や環境保全策として約1億6000万円を予算に計上した。収入不足で来年以降、一部事業が実施できない可能性もある。「徴収の人員や配置、広報などを早急に見直さねばならない」(同県観光資源課)との危機感は強い。
入山料の有識者会議委員を務め、今夏富士山に何度も足を運んだ山本清龍(きよたつ)・岩手大准教授(環境政策学)は、徴収率の低さについて「声掛けが甘い。支払いは任意だが、登山者は払うかどうか判断する前に、テントを通り過ぎてしまう。日本人は『皆が払っているか』に敏感で、協力者が半数を切れば制度は一気に形骸化する」と警告する。山梨県は今月、旅行会社約60社に入山料をツアー代金に組み込むよう要請した。ただ、ある社の担当者は「自社だけ値上げはできない。各社一斉に上げるしかない」と言い、簡単ではない。
同県庁内では「将来的には強制も視野に入る」との意見が出始めた。登山者からも「何にいくら使うか明示して義務化すれば誰も文句は言わない」(さいたま市の60歳男性)「トイレやごみなど多くの問題がある。行政のリーダーシップが必要」(川崎市の33歳男性)などの声がある。
ただ、条例による強制徴収については、逆に経費がかさむなどとして見送られた経緯がある。山本准教授は「富士山は共有財産で、お金を払わなければ登れないのは良くない。マイカー規制で交通費の負担感もある。家族連れや年配者らに割引がある米国の国立公園などを参考に、富士山に適した柔軟な見直しをすべきだ」と訴えている。