【詳報・渡辺淳一さんのお別れの会】(5)黒木瞳さん「先生と同じ時代に生きてきたことに感謝」

2014.7.28

 〈献花の後に「お浄(きよ)めの会」が行われ、参列者は食事をしながら、渡辺さんをしのんだ。東映・岡田裕介会長らがそれぞれ思い出を語った。映画「化身」「失楽園」に出演した黒木瞳さんも挨拶に立った〉

女優・黒木瞳さん

作家渡辺淳一さんのお別れの会で、献花に向かう黒木瞳さん=28日午後、東京・内幸町(代表撮影)

作家渡辺淳一さんのお別れの会で、献花に向かう黒木瞳さん=28日午後、東京・内幸町(代表撮影)

 こんにちは、私は渡辺先生の作品は「化身」「失楽園」「無影燈」と演じさせていただきました。どれもすばらしい作品なので、夢中で演じました。渡辺先生から教えてもらったものは役柄を通してみた渡辺文学の世界です。「化身」では、男の人に育てられてその男の人から羽ばたく強い女性。自立。そして「失楽園」では、愛を全うするために死してなお生きていきたいという究極の愛を学びました。

 しかし、強烈な作品なので、撮影中は、家に帰ると「私、何やっているのだろう」と思う。また、撮影所に行くとまたその世界の役にのめり込んで。また家に帰ると、「私何をやっているのだろう」という繰り返しでした。

 渡辺先生の作品は虚実をコントロールするのが大変でした。でも作品ができあがると、必ず、「よくやったね」とほめていただく。

 私にとっては、学校の先生のようなもので、いつもハードルの高い課題を与えられ、それに励んでいくという生徒だったような気がします。

 渡辺先生に初めてお会いしたころは「化身」が決まったころ。東映の亡き岡田茂会長から、「君は、宝塚をやめたばかりだから、何も知らない。霧子は銀座のホステスだから、銀座で働いてこい」と言われ、渡辺先生から「ホステスをやるなら、源氏名が必要。『ひとひらの雪』からヒロインの名前『霞』を貸してあげる」と言われ、霞という源氏名で銀座のクラブ「グレ」で1週間働きました。その間じゅう、東映の方はもちろん、渡辺先生にも毎日飲みに来ていただきました。「見張り番だ」と言われました。

渡辺淳一さんお別れの会に参列した(左から)秋吉久美子さん、黒木瞳さん=28日、帝国ホテル東京(撮影・中鉢久美子)

渡辺淳一さんお別れの会に参列した(左から)秋吉久美子さん、黒木瞳さん=28日、帝国ホテル東京(撮影・中鉢久美子)

 最後に一緒にお酒を飲んだのは「孤舟」という小説の1冊を朗読するという機会がありまして、その打ち上げの食事会でした。

 その時、先生は「シャトー・マルゴー」(高級ワイン)を私のために用意してくださいました。最後に酌み交わしたのがシャトー・マルゴー…。今思うと、小説家ってニクイな、と思います。だって、自分の人生さえも何か物語の一場面みたいに彩っていました。

 先生は忘れられない思い出を私の心にどかんと落として逝ってしまいました。「ありがとう」も「さようなら」も言えなかった3カ月前でしたが、今は感謝の気持ちで一杯です。先生と同じ時代に生きてきたことに感謝します。出会い、先生の作品をやらせていただいたことに感謝します。

 これからも多くの方に渡辺先生の小説を読んでいただき、多くの役者が渡辺先生の作品をたくさん演じ、多くの方々に渡辺先生の魅力を伝えていってほしいということで、挨拶に代えます。

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