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アルコールを断った末に掴んだ女子高生という記号。吾妻ひでお『カオスノート』

2014年9月26日 10時00分

ライター情報:たまごまご

『カオスノート』は吾妻ひでおが描くナンセンスの極み。どのコマにも全く意味が無いことが面白い。吾妻ひでおという作家が数多くの困難に折り合いをつけてきたことで熟成された、ナンセンスです。

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マンガは「とにかく意味がわからなくておもしろいもの」を作れる。
これを証明した漫画家、吾妻ひでおの新作『カオスノート』は、一コマとして意味がないマンガです。

全部のコマが日記調になっており、必ず吾妻ひでお本人が登場しています。
「○月○日 散髪に行った」
「○月○日 そそぎ込まれる」
「○月○日 額に切手を貼って首から宛先をぶら下げ、ポストの横に座っていた」
淡々と描かれる日常は、一つとして日常ではありません。
サンプルはアマゾンで数ページ見ることが出来ます。

例えばぼくの好きなネタの一つはこれ。
「○月○日 鹿威しにタマゴの火を消される」
吾妻ひでおの頭の上に鹿威しがついていて、上から水が注いでいて、タバコの火が消える。
これ言葉で説明しても全然おもしろくない。絵だからいいんだよ。
ぼくがこのネタを素晴らしいと感じたのは、その後ろにガラケーをいじっている女子高生が描かれていて、とてもかわいいからです。

「ナンセンス」な作品です。
しかしこの軽快な「ナンセンス」は、吾妻ひでおが、長い道のりを経てたどりついたからこそ生まれました。

●『不条理日記』の時代
吾妻ひでおを知っている人なら、このマンガを見て真っ先に『不条理日記』を思い出すはずです。
1978年から79年にかけて、今までギャグ漫画を描いていた作者が、SF雑誌「別冊奇想天外」と、自販機雑誌「劇画アリス」で描いた作品です。
SFファンでこのマンガを知らない人はほぼいない。
『不条理日記』は『アズマニア2』が最も入手して読みやすいです。

吾妻ひでおは『不条理日記』で大革命を起こし、当時のファンをうならせました。
・物語が存在しない
・表情と心理がつながらない
・セリフや書き文字に本来の意味が無い
・物体の意味が喪失している。
例えば、ヒツジが電気ミシンを生み、電気ミシンが電気ガマを生み、電気ガマが電気カミソリを産んだりします。
アミガサにとっつかれた吾妻ひでおが人を撲殺し、女性を襲ったりします。
昼が夜に来てなにがなんだかわからなくなったりします。
次から次へと意味を壊していく。

『不条理日記』には、SFのパロディがふんだんに盛り込まれていました。
たとえば、突然檻にとじこめられるネタは、トマス・M・ディッシュの『リスの檻』。太陽が自殺して夏が終わるのは、エドマンド・クーパーの『太陽自殺』。
ファンはこぞって元ネタ探しをしました。

『不条理日記 SF大会篇』では、「クルムヘトロジャンの「へろ」」という本がオークションにかけられているネタがあります。

ライター情報

たまごまご

フリーライター。アニメ・マンガ系のムックを作ったり、雑誌連載したり、かわいい女の子の出てくるマンガを収集したりする、オーケン大好きな人。なぜかビジネス書も数冊出してます。アイマスは亜美派、艦これは那智派。
ツイッター/@tamagomago
ブログ/たまごまごごはん

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