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27 Sep 2014 09:48

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きゃりーぱみゅぱみゅやAKB48は現代版の魔女なのか?〈dot.〉

dot. 9月27日(土)7時5分配信

 かつて西洋では魔女や魔法の存在が身近に感じられていた時代があった。ここ日本でも、古くは祈祷師や呪術を疑うことはなかった。しかし科学が進化し近代化するにつれ、そうした“迷信めいたもの”は姿を消していった…… とされている。

 ところが、魔法は死に絶えてはいないと語るのが作家の海野弘氏だ。彼は、むしろ近代以降に魔女のイメージが氾濫し大量に複製されていると自説を唱える。海野氏の新著『魔女の世界史 女神信仰からアニメまで』(朝日新書)によると、現代の魔女の歴史には、19世紀末、1970年代、20世紀初頭という三つの波があるという。
 
 第一波は19世紀末。当時、写真技術や印刷技術の発明によって、あらゆるものが視覚化され、複製されていき、それに伴い「魔女も見えるようになった」と著者は仮説を立てる。そうして可視化された魔女のイメージが汽車や汽船といった交通技術によって行き来し、世界中のあらゆる魔女像の収集、分類が可能になったというのだ。つまり、それ以前にあった「森の中の老婆」といった通り一遍の魔女のイメージから、多彩で華麗な魔女像が19世紀末に現れたのである。

 第二波は新魔女運動の起こった1970年代。1951年、英国の魔女禁止法(アンチ・ウィッチクラフト法)廃止によって合法的に魔女が復活を果たし、政治的で社会的な魔女(フェミニスト)が現れ、さらに学術研究やアートの分野でも魔女が再考されはじめた。こういった流れが1970年代の新魔女運動をもたらしたと著者は述べる。さらに新魔女運動は魔女復活の動きだけでなく、パンク・ロック、ゴシック、ファッション、SF、コミックなどに影響を与え、サブカルチャーやカウンターカルチャーといった独特の世界を作った。

 魔女のイメージが影響を与えたこれらの現象を著者は新しく「魔女カルチャー」とカテゴライズしている。その「魔女カルチャー」が広まった20世紀初頭から現在にいたる時代が現代の魔女の第三波である。

 
 それまで、アングラ的で閉ざされてきた「魔女カルチャー」であったが、1990年代半ばのインターネットの導入により、大衆に広く知られるようになった。海野氏は、世界中の雑多な文化の引用によって作られる「魔女カルチャー」はインターネットに最も適したサブカルチャーであるとした上で「魔女カルチャー」の広まりとともに魔女の概念も広く知れ渡り、現代では様々な魔女が誕生していると指摘する。氏によると、きゃりーぱみゅぱみゅや初音ミク、AKB48までもが現代の魔女現象の一つだそうだ。そう、海野氏によると、昨今は特に魔女のイメージが氾濫しているというのだ。その理由について彼は、こう分析している。

「おそらくそれは<魔女>こそ現代の願望だからだ。ただし、願望といってもそれは二つの方向を持っている。一つは肯定的、もう一つは否定的だ。肯定的な方は、〜であったらいいな、という願望である。人々は魔女になりたい、と思う。それは別世界に飛びたいという夢である。(中略)否定的な方も、今ここに不満があることは同じだ。今ここに敵がいる。その敵を<魔女>として投影する。今ここの世界に悪や災害をもたらすのはその<魔女>なのだ。陰謀説が横行し、差別論が溢れる。誰が悪いのか、悪いのは<魔女>である。<魔女>は、肯定にも否定にも使えるまことに便利なイメージなのだ。畏れつつ憬れる。<魔女>はいわば万能細胞であり、いかなるものにも応用できる」(本書より)

 時代とともに魔女のイメージはどう変わっていったのか。そして、そのイメージは今なお、なぜ氾濫しているのか。蠱惑し、闘い、変容する魔女の歴史をまとめ読みしたい人に、お勧めの一冊だ。

最終更新:9月27日(土)12時3分

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