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2014.09.27

北朝鮮はそろそろ崩壊するか

 北朝鮮の崩壊という話はもう20年くらい定番で外し続けているので、もはやネタにしかならない。崩壊しない強固な理由があるからだと考えた方がいい。外的には関係諸国のどこも崩壊を望んでいないこと(大量破壊兵器があっても米国は攻めない)と、内的には人民が疲弊していて反抗もしそうにないことだ。
 加えると、アノミー(無秩序)になるのを防ぐほどには警察力や軍事力が保持されていることもある。
 内情は見えない。かくして北朝鮮国内の人権侵害が深刻化するが、北朝鮮についての人権活動家の活動は、ないわけではないが、にぶい。ついでに余談だが、現在米国では北朝鮮で強制労働刑を宣告されたマシュー・ミラーさんのことが話題になっているが日本での報道はないわけではないが少ない。
 とはいえ、昨今の外部の動向を見ていると、北朝鮮が崩壊する可能性はあるかもしれないとも思う。なぜそう思うかという理由を最初に述べておくと、安倍政権が進めている拉致被害者調査がどうにもきな臭く、その先に不安があるからだ。
 日本側からオファーに北朝鮮が応じるメリットが、そもそもきな臭いと言ったほうがいい。日本は、それ相応のシナリオとカネを北朝鮮側にちらつかせたと思うのだが、ようするにそれで釣られる勢力が北朝鮮内の権力機構にあるということだ。なぜそんな勢力があるかというと、北朝鮮あるいは一派が、経済的に追い詰められているからだろう。また、追い詰めができるのは中国ということになるので、その面から言えば、北朝鮮が日本に色目を使うのは対中バランスでもあるのだろう。どちらかというとそのバランス面が濃くなってきたのか、安倍政権のシナリオは狂い始めているようにも見受けられる。
 もう一つ理由がある。張成沢の粛清である。率直に言って私は想定外だった。金正恩というのはただのハリボテで、背後は中国チャネルを持つ張成沢か、あるいは彼が他の利権グループ(呉克烈)、あるいは軍など、と調停した象徴だろうと思っていた。利権の奪いの結果だろう、と。それが粛清までさらりとやってしまうのだ。権力構造がとても不安定である。
 いずれにせよ張の粛清を誰が行ったかというのは諸説があるが謎だったが、張後の権力構造から概要は結果的には示されることになるはずだ。
 その相貌が少し見えてきた。今日のNHK「北朝鮮 ファン氏が国防委副委員長に」(参照)より。


 北朝鮮は25日、ピョンヤンで国会に当たる最高人民会議を開き、キム・ジョンウン第1書記は出席しませんでしたが、キム第1書記が提出した議案に基づいて、国の最高指導機関と位置づけられている国防委員会の人事が承認されました。
 それによりますと、国防委員会のチェ・リョンヘ副委員長がその職から解かれ、新たな副委員長に軍のファン・ビョンソ総政治局長が就くことが決まりました。
 ファン氏は、ことし4月に軍の要職である総政治局長に就任するなど軍で急速に頭角を現し、今回、国防委員会の副委員長となることで、キム第1書記の最側近として存在感をさらに強めそうです。

 ナンバー2だった崔竜海(チェ・リョンヘ)は国家体育指導委員会委員長に就任したので粛清というわけではないらしい(参照)。浮上したのが黄炳瑞(ファン・ビョンソ)だった。
 どのような意味か? 黄炳瑞による他派追求の一環だろうとは思われる(参照)。だが、経緯はよくわからない。
 張粛清の指揮は、金元弘(キム・ウォンホン)と崔竜海であるという話もあり(参照)それにつなげると、黄炳瑞が金元弘を抑えたのかもしれない。
 さらにきな臭い話につなげると金元弘が日朝協議を実質的に取り仕切っていたらしい(参照)ので、そのあたりの事態が現在の対日外交の歪みと関係あるのかもしれない。内情の人脈の動きはわからず、憶測を越えることは難しい。
 いずれにせよ、基本的な枠組みは利権の争いだろう。そうなる理由は、北朝鮮の利権が外貨獲得経路に関係しているためだ。軍もまたその外貨なくしては存続できない。
 そうしたなか、産経新聞のネタ記事だろうと思っていた「「金正恩の権力強くない、台本を書いているのは組織指導部」「体制崩壊は5~7年後」 脱北者ら分析」(参照)という記事のウラが意外に興味深いものだった。まず同記事だが。

北朝鮮に関する学術会議がオランダ南西部ライデンで開かれ、体制内で高官を務めた脱北者7人が金正恩(キムジョンウン)体制の現状などについての分析を語った。元高官らは、権力の中心は朝鮮労働党組織指導部だとした上で、金正恩第1書記は金正日(キムジョンイル)総書記ほどに権力を掌握できていないと指摘。内部闘争の恐れや統治システムの衰退を踏まえ、体制崩壊も遠くないとの見解を示した。

 ここでは、「権力の中心は朝鮮労働党組織指導部」としている。

 張真晟氏は「張成沢氏排除で団結した人々も、もはや同じ船に乗っている必要がなくなった」と語り、新たな内部闘争が起こる可能性を指摘。さらに争いの目的もかつては最高権力者に近づくため、金総書記への忠誠心を示すためだったのが、今は「ビジネスや貿易への影響力」の確保に変わっていると分析した。
 食糧の配給制度が破綻して密輸などヤミ取引が拡大し、これに伴い外部からの情報を得ようとの動きも強まっているという。張真晟氏は体制を支えてきた「物質的管理」「思考管理」という2つの柱が崩壊しつつあるとした上、「体制崩壊はそんなに遠くない。5年後か、遅くとも7年後だ」と強調した。

 ネタ記事として読み飛ばしていたが、大筋でそういうことなのではないかと思いネタ元を探したところ、ライデンの会議の情報が簡単に見つかった。「North Korean exiles expose the regime’s rationale at Leiden conference」(参照)である。
 会議の要点は「'The North Korean regime will collapse within five to seven years’」(参照)にまとまっている。さらに経済面での要点はWSJ「Q&A: High Level Defector On North Korean Trade」(参照)にまとまっていた。
 これらを読むと、現在でも基本的に中国が北朝鮮の経済の鍵を握っている状態に変更はなさそうだ。その意味では国家の骨組みには問題はない。だが、外貨稼ぎのために、まとまりのない諸活動とその統制の繰り返しは今後も頻繁に続くだろうことは予想される。
 当面の目安としては経済改革措置の実施が気になる。22日時事「個人の自由経営、全面実施か=北朝鮮、来年から農場、工場など」(参照)より。

【ソウル時事】韓国のYTNテレビは22日、消息筋の話として、北朝鮮が来年から、全ての農場、工場、企業などを対象に、生産の一定割合を個人が自由裁量で処分できる経済改革措置を全面実施すると伝えた。既に各工場などを通じ住民に公示されたという。
 配給制度が崩壊し、市場経済化が進んでいる現実を踏まえ、労働意欲の向上を図る措置。北朝鮮は2012年からこうした措置を一部で試行してきたが、全面実施が事実とすれば、一定の成果があり、体制の動揺も招かないと判断したとみられる。(2014/09/22-10:15)

 記事では「体制の動揺も招かない」というふうにまとめられているが、富が北朝鮮に流入すればその利権の対立はさらに深刻化するのではないか。
 北朝鮮の混乱が具体的な崩壊に結びつくには、利権による全体的な富の流入を前提とするだろう。北朝鮮を美味しいビジネス先とする諸勢力が十分うごめいたころに、統制を失ってがらがらと崩壊するのではないか。
 米国側ではそうした北朝鮮崩壊のシナリオもそれに合わせてそろそろと策定されているようではある。フォーリン・アフェアーズより「北朝鮮の崩壊を恐れるな ―― リスクを上回る半島統一の恩恵に目を向けよ」(参照)。以下、「統一」と修辞されているのは北朝鮮の崩壊である。

 だからといって、半島の統一を回避すべきだと考えるのは間違っている。一般に考えられているのとは逆に、統一コストが韓国を押しつぶすわけでも、アメリカ、中国、日本に受け入れ難いリスクを作り出すわけでもない。むしろ、統一は朝鮮半島と近隣地域に非常に大きな経済・社会的な恩恵をもたらす。北朝鮮国家の長いストーリーをハッピーエンドで終わらせるには、民主的な統一国家を半島に誕生させるしかない。半島の統一に向けて、関係諸国はあらゆる手を尽くすべきだろう。

 こうした動向に日本や韓国が戦略を持っているのかというと、どうも、両国とも似たような国家のせいか、なさそうには見える。
 
 

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