環太平洋経済連携協定(TPP)交渉に伴う日米閣僚会談が物別れに終わった。

 本格化して4年が過ぎたTPP交渉は、オバマ米大統領も言及した通り、年末にかけて大筋合意できるかどうかが成否を左右しそうだ。交渉参加12カ国のうち、2大大国である両国が歩調を合わせないと前へ進めないのが実情である。

 甘利TPP相が「議論がかみ合わなかった」「まとめるには、(日本だけでなく)双方が歩み寄る必要がある」と米国に不快感を示した通り、溝は深い。予定より早く会談を切り上げ、次回会談の日程も決めなかったため、TPP交渉が「漂流」する恐れもささやかれる。

 ここは、日米ともにTPPの原点を確認してほしい。

 世界貿易機関(WTO)での自由化交渉が滞るなか、成長著しいアジア太平洋地域で新たな貿易・投資ルールを作り、世界経済を引っ張る。WTO停滞の原因ともなった先進国と新興国・途上国の利害対立に向き合いつつ、貿易促進と労働者や環境の保護との両立など、新たな課題を見すえた「21世紀型」の協定にする。そんな目標だった。

 一方、日米交渉の現在の焦点は、牛肉・豚肉や自動車など「モノ」の貿易自由化を巡る利害対立だ。関税引き下げ・撤廃とその期間、輸入急増時の緊急輸入制限措置(セーフガード)の組み合わせなど、技術的な駆け引きが続いている。

 もちろん、これらは重要な論点だろう。が、あまりに業界の声に振り回されていないか。

 とりわけ、11月上旬に議会の中間選挙を控える米国にその傾向が顕著だ。豚肉の対日輸出を増やそうと日本市場の大幅な開放を求める養豚業界、日本製乗用車の輸入を抑えるために関税撤廃に否定的な自動車業界などの政治力に、米政府の立ち位置が定まらないようだ。日本側は、今回の日米閣僚会談での米国の強硬姿勢について「議会や業界へのアピールだった」と不満を募らせている。

 日本政府も、牛肉・豚肉やコメなど農産品の「重要5項目」を守るよう求める国会決議を抱える。消費者の利益を念頭に置きつつ、必要な業界保護策を講じる。この基本に沿って米国と向き合い、交渉を軌道に乗せてほしい。

 TPP交渉は、知的財産権の保護や国有企業の扱いなど、先進国と新興国が対立する難題を抱える。全12カ国の閣僚会合が模索されているが、日米が対立したままではそれも危うい。

 両国の責任は重い。