安倍首相と習近平(シーチンピン)・中国国家主席が、この秋に北京で握手を交わすかもしれない。そんな機運が高まってきた。

 日中両国の外相がニューヨークで会談した。比較的長い時間をかけて意見交換した。前向きなできごとと受け止めたい。

 その場で首脳会談の開催は決まらなかったが、アジア第1と第2の経済大国だ。トップ同士が会わない異常事態には、早く終止符を打つほうがいい。

 安倍首相は、かつてのような中国をいたずらに刺激する発言を控え、会談の希望を繰り返し表明している。中国側の態度もおおむね穏やかになった。

 北京で11月にあるアジア太平洋経済協力会議(APEC)のホスト役である習主席が、日本の首相と会わないのはさすがにまずい、という空気が中国側にはあるようだ。

 中国政府は、関係の改善には「問題の適切な処理」が必要だと日本に求めている。それはまず、首相が靖国神社に参拝しないと確約すること。そして、尖閣諸島をめぐり領有権問題が存在すると認めた上での棚上げ、の2点に集約される。

 だが、首脳会談の実現にこうした前提条件をつけるのは適当ではない。

 靖国神社は、戦争指導者だったA級戦犯の合祀(ごうし)を含め、過去の戦争を正当化する性格を帯びている以上、日本の首相として参拝すべきではない。中国に言われるから行かないという話では、問題をかえってこじらせかねない。

 尖閣諸島は、日本の領土であり、争いの余地はない、というのが日本政府の立場だ。領有権問題の存在を認めれば、中国側で「力で押せば日本は譲る」と受けとめられる恐れがある。

 「問題が存在するかどうか」といった応酬は生産的ではあるまい。いま大事なのは、尖閣周辺の東シナ海やその上空でいつ起きるか分からないトラブルを避ける仕組みをつくることだ。

 その意味で、山東省青島で今週開かれた日中高級事務レベル海洋協議は前進だった。不測の事態が軍事衝突に発展しないよう、防衛当局間の「海上連絡メカニズム」づくりに向け、話し合いを再開すると合意した。

 首脳会談が実現すれば、こうした動きを含め、各分野の交流に弾みがつくだろう。

 安倍政権は改造内閣が発足し、習政権は一連の反腐敗キャンペーンで権力基盤を固めた。互いに腰を落ち着け、双方に利益をもたらす関係を構想し直すための出発点として、首脳対話を始めるときだ。