目次 › 2014年9月25日放送の17時台の特集/バックナンバー
リアル 〜“反戦”フォークに戻った男〜
中川五郎さん 65歳。
寝屋川出身のシンガーソングライターです。
学生運動が盛んだった1960年代メッセージ色の強いフォークソングを歌っていました。
高石ともやさんが歌う『受験生ブルース』。
この曲の作詞をした人だと聞けばご存知の方も多いかもしれません。
中川さんが歌う場所は居酒屋だったりバーだったり・・・。
どこも小さなお店ばかりですが、いつも客席はいっぱいです。
「70年代の時からの熱いハートがそのまま今も(持っていて)。
その時だけの流行の歌じゃない40年ぐらい前に歌ってらっしゃる方だけど、
今でも胸が沸き立つというか、血が騒ぐというか」(女性客)
中川さんが45年前に出したデビューアルバム。
当時のメッセージソングを今も変わらず歌い続ける彼に魅了されるファンは多いのです。
1960年代後半、若者がフォークソングを通じて
「社会を変えたい」と思っていた時代がありました。
それを象徴するのがフォークゲリラ集会。
ベトナム戦争反対、アメリカ寄りの体制に対する不満と世界的な学生運動の高まり、
国内における労働運動や政治闘争など、過度的な時代。
若いエネルギーは反戦平和を掲げ歌いました。
その中に当時19歳の中川さんもいたのです。
「フォークソングのメッセージというか、何かを伝えるという事に
ものすごく魅かれたんですね。
良い音楽をやろうとか、歌をうまく歌おうとか、上手に演奏しようとか、
そういう事よりも、歌っていうか、音楽を使って何を伝えるかっていう方に
僕はそっちの方にしか気が行ってないような感じで」(中川五郎さん)
中川さんがデビュー以来、歌い続けている曲があります。
♪~昔僕が優秀な軍隊の隊員だったとき、月夜の晩に川べりで練習をした
隊長はボクらに川を歩いて渡れといった
ボクらは膝まで泥まみれ、ただ隊長言った『進め!』 ~♪
アメリカのフォークシンガーが作った曲を中川さんが日本語に訳した歌。
「軍隊の隊長」を皮肉ったベトナム戦争の反戦歌です。
「例えば戦争反対の歌を歌うにしても、
自分が歌えば平和が来るみたいなところに結びついて、
そういう思いでは歌っていましたね」
♪~ みんな引き返そうと軍曹が言った。
ボクらは泥沼から抜け出して隊長だけ死んでった ~♪
中川さんは歌を歌い始めてから足繁く通う場所があります。
(西成区の三角公園へ)
「こういうところで小難しいメッセージを歌われても
『引っ込め!』みたいな感じになるんだけれど、
でもやっぱりボクは一番自分にとって、
いま歌ってる歌を聴いて欲しい人がいてくれる場所かなぁと思って」
(中川五郎さん)
絵空事でもない、綺麗事でもない、今の時代を歌いたいと中川さんは言います。
♪~ 1台のリヤカーが立ち向かう
アンプやスピーカーを積んだリヤカーが立ち向かう
横須賀の町に核を持ち込むな 横須賀の海に戦争の船を許すな ~♪
加藤登紀子さんは彼の歌の世界観が好きだといいます。
彼女も同じ西成のステージに立っていました。
「私は五郎さんが舞台で歌っているのを客席で見ていた一人です。
‘68年の10月21日のことを歌っていて、すごい印象に残ったんですよね。
すごい人だなと思ったんだけど」
(加藤登紀子さん)
国際反戦デーである10月21日。
ベトナム戦争に反対する若者たち2000人が新宿駅に集結し
機動隊と衝突するという事件がありました。
そんな中、反戦を訴える中川さんは、こんな歌を作ったのです。
10月21日の夜にぼくは 小さなホテルで恋人と抱き合っていた
学生と機動隊のぶつかり合う音が遠くに聞こえ 催涙ガスを打つ音が響く
そしてぼくは・・・
「ノンポリの人たちも含めて、自分はどう行動したら良いのかと悩むわけですよ。
別に政治的に命令されているわけじゃないし、自分はひとりで行動したいわけだから。
そういう人たちの内面というか、そういうのをすごく表していて、
10.21というシンボリックな政治的な出来事をね、斜に構えた学生のリアリティーを
一行で捕まえたということに私は脱帽したわけですよ」
(加藤登紀子さん)
しかし、「反戦」という言葉はリアリティーを無くし、中川さんは一度、歌から離れました。
そしていま、再び歌い始めたのです。
「1960年代に自分が歌っていた戦争反対とか、政治とか、社会に抗議する歌が、
同じように、また歌えるようになってしまったというか、
ボクらのこの国がすごく変なことになってきて、
特にこの数年はどんどん怖いことになってるなとボクは思っていて、
安全保障とか自衛権に関してやろうとしていることって言うのは、
もし日本が戦争できるような国になったり、徴兵制度になるよ、となったとしたら、
それはしょうがないかみたいになるような、
そういう今のぼくらの国柄みたいなのがね、ちょっとあるような気がして、
そこが一番怖いんですよね」
(中川五郎さん)
日本の政治家たちに権限を与えたのは誰か・・・。それを問う中川さんの歌。
♪~ 男は思う大きすぎる力を手に入れて
なんでもできるし なんでも変えられる
反対の声はただの騒音 抗議に傾ける耳はなく
名もない持たざる人々の思いが重なる
ああ どうすれば男の耳を傾けさせられるのか
男は告げる やがて戦争になれば
前線に行かない 若者は死刑だと
自分はいすに座って高みの見物
弾が飛んでくれば真っ先に逃げ出す
名もない持たざる人々の思いが重なる
嗚呼どうすれば 男の減らず口を閉じさせられるのか
天才と呼ばれ 良い人と呼ばれ 男は階段を駆け上がった
でもどこかでなくしたんだ 一番一番一番大事なものを ~♪
「戦争反対とか、原子力反対とかを ちゃんと大きな声で言えるんではないかという気になる」
「今こそ こういう歌を若い人たちに」
「20歳前から、昔からのボクらの魂みたいな人ですよ」
(客たちの声)
♪~ 嗚呼どうすれば 男の耳を傾けさせられるのか
2014年9月25日放送