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ドラえもんに必ずしずかちゃんのお風呂シーンがあるのは何故と問われ、藤子・F・不二雄はどう答えたか

2014年9月26日 10時00分

ライター情報:近藤正高

楠部三吉郎『「ドラえもん」への感謝状』(小学館)
シンエイ動画の元会長が、アニメ「ドラえもん」と藤子・F・不二雄の知られざる秘話、そして自らの半生をつづった一冊。記事で紹介した以外にも、楠部が「ドラえもん」の長編アニメの企画を提案した当初、F先生に断られたエピソードや、制作費を捻出するため手練手管を弄しての銀行との交渉、あるいは大学卒業後、マタギへの弟子入りを本気で考えた話なども面白い。
ちなみに酒席での接待も多かった楠部は、「クレヨンしんちゃん」の原作マンガに「巣苦部三和郎(すくべさわろう)」という名で、クラブでホステスのお尻を触る不届きな社長役で登場する。これは、作者の臼井儀人が、楠部と編集者を交えて飲んだとき、二次会に誘われなかったことに立腹してネタにしたものらしい。

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《先生、ドラえもんには必ず、しずかちゃんの入浴シーンが出てくるけど、先生はスケベなの?》

「ドラえもん」の作者・藤子・F・不二雄(藤本弘)にあるとき、こんな質問がぶつけられたことがあった。それは、「大人だけのドラえもんオールナイト」というイベントでのこと。このイベントは毎年春のドラえもん映画の新作の公開にあわせて、過去の作品をいくつか朝まで上映するというもので、1985年より始まった。藤本はそこで原作者としてあいさつに立っていた。

観客はもちろん18歳以上ばかりで、小中学生はいない。集まったなかにはスーツ姿の人やオタクっぽい人もいたものの、それ以上に革ジャンを羽織り、腰から鎖をジャラジャラさせた柄の悪い連中が目についたらしい。先の質問は、あいさつが終わったとき、ふいに客席から飛び出したものだった。それに対し藤本は笑いながら、こう切り返したという。

《君たちと同じです》

それからしばらく観客とのあいだでやりとりが続き、当初10分の予定だった藤本の登壇時間は30分もオーバーした。会場に同行した、アニメ版「ドラえもん」を制作するシンエイ動画の楠部三吉郎(当時、営業担当の専務。のち代表取締役、会長)は、そのとき初めて藤本が破顔するのを見たと、著書『「ドラえもん」への感謝状』に書いている。楠部の記憶に残る藤本は、お茶目だけれども、喜怒哀楽を前面に出すことはなく、いつも柔和な表情で、どんなときでも平然としていた。それだけに、イベントで相好を崩しながら観客と話を交わす姿は意外に感じられたのだ。

藤本はいつもは寡黙ながら、自分の意に沿わないことがあれば、静かに、しかしきっぱりと伝えた。『「ドラえもん」への感謝状』にも、そんな場面がたびたび出てくる。そもそも、楠部がシンエイ動画の設立にあたり、「ドラえもん」のテレビアニメ化を持ちかけたときも、藤本はしばらく黙ったまま即答を避けたという。

シンエイ動画は、東京ムービーの制作部門を請け負うAプロダクションを母体に、楠部と、その兄でアニメーターの大吉郎によって1976年に設立された。楠部は藤本とはそれ以前、テレビアニメ「新オバケのQ太郎」「ジャングル黒べえ」で一緒に仕事をしていた。「ドラえもん」の企画は、何の見通しもない新会社の船出にあたり、わらにもすがる気持ちで持ちこんだものだ。だが、藤本はずっと黙ったまま。ようやく口を開くと一言、《楠部くんがいったいどうやって『ドラえもん』を見せるのか、教えてもらえませんか。

ライター情報

近藤正高

1976年生まれ。サブカル雑誌の編集アシスタントを経てフリーのライターに。著書に『私鉄探検』(ソフトバンク新書)、『新幹線と日本の半世紀』(交通新聞社新書)。一見関係なさそうなもの同士を関係づけてみせる“三題噺”的手法を得意とする。愛知県在住。

ツイッター/@donkou
ブログ/Culture Vulture

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