70歳以上の生活保護費に上乗せ支給されていた「老齢加算」を廃止したのは、憲法で保障された生存権の侵害に当たるとして、神戸、尼崎市の80代の受給者9人が両市に加算廃止の取り消しを求めた訴訟の判決が25日、神戸地裁であった。遠藤浩太郎裁判官は「生活に看過しがたい影響を及ぼしたとまでは言えず、加算廃止は厚労相の裁量の範囲内」として請求を棄却した。原告側は控訴する方針。
遠藤裁判官は、厚労省が60代と70歳以上の単身世帯の支出比較などのデータを加算廃止の根拠としたことについて「不合理とは言えない」と指摘。「原告らが日常生活で不自由を感じる場面が少なくないのは否定できない」として一定の理解を示したが、「加算廃止と直接の関係を見いだしにくい」と述べた。
老齢加算は消化のよい食事や暖房費、交際費など、70歳以上の生活保護受給者の「特別な需要」に応じ、1960年から支給されていた。神戸、尼崎市では月1万7930円だったが、厚労省が社会保障費抑制のため2004年から段階的に減額、06年に廃止した。
【原告ら「生活実態を無視」】
「われわれの生活実態を踏まえていない」。請求を棄却した神戸地裁の判決後、原告らは神戸市内で会見し、悔しさをにじませた。
2007年の提訴から7年が過ぎ、原告の男女9人は既に80~89歳。原告の一人、尼崎市富松町1の勇(いさみ)誠人さん(84)は、月約11万6千円の生活保護で暮らす。加算廃止後、入浴回数を減らし、1日2食の日もある。関東に住む姉とは10年近く会えていない。
3年前に足腰を痛めて介護を利用する。最近動脈瘤(りゅう)も見つかったが、昨年8月の生活保護費基準額引き下げ、今年4月の消費税増税と「体は年々弱るのに、生活は厳しくなる一方」。
神戸地裁の裁判では、原告側が生活実態を記録したDVDも上映した。「若い世代が私たちの生活を見れば『趣味も持てず、ただ命をつないでいるだけ』と老後の希望を失ってしまう。死ぬまで闘いたい」と話した。
原告側の松山秀樹弁護士は「生活保護受給者が、ある程度不自由な生活を送るのは当然、と言わんばかりの不当判決だ」と批判した。(長谷部崇)
【生存権訴訟】2004年から06年にかけて廃止された生活保護の老齢加算について「十分な検証もせずに廃止を決めたのは行政裁量の乱用で、生存権の侵害」などとして、受給者100人以上が全国9地裁に提訴した。これまで原告側が勝訴したのは、福岡高裁の控訴審(後に差し戻し審で敗訴)のみ。東京の訴訟は原告敗訴で既に終結し、地裁判決は兵庫が最後だった。