ついに撮った! 京都からの富士山

2014年9月21日

2014年9月21日
加筆 9月22日 9月23日 9月24日 9月25日 9月26日
田代博
日本の山岳展望史上、最大の課題であった京都府からの富士山が、ついに撮影されました。
理論上は見えることがわかっていても(こちら参照)、現地の状況、気象条件などから、撮影は不可能と思われていました。
それが、この間、様々な富士山に関する遠望写真の記録を塗り替えてこられた(こちら参照)、奈良県の住職 新林正真さんがついに撮影されました。
以下、ご本人から送って頂いた写真をご紹介し、富士山であることを説明いたします。
撮影日 2014年9月21日 5時20分頃  この日の横浜(自宅)からの富士山
         同時刻雲取山より(ボーイスカウト三鷹第3団椋尾元澄様提供)
撮影場所 京都市左京区久多川合町(くたかわいちょう)と滋賀県高島市朽木栃生(くつきとちゅう)の境界
「展望業界」では「西限界」と名付けた地点
富士山までの距離261q
(電子国土Webより 当時)
(国土地理院地図3Dによる立体表現 こちらで再現できます)(9月25日追記)
(南東4.5qの武奈ヶ岳から見た白倉山稜  カシミール3DによるCG)(9月25日追記)
(ヤフー地図より)
カシミール3D可視マップ(10mメッシュ使用) 緑の線は府県境界線の一部
西限界付近からの写真 5時20分撮影 標高約915m  1000ピクセル画像はこちら
カシミール3DによるCG
トリミングによる拡大
上記の1枚後に撮影したもの 9月26日追加   
右側の稜線と、左の平らな山稜がぶつかるところに、わずかな「高まり」があるのがわかります。それが剣ヶ峯です。これが富士山?と思われるかもしれませんが、地形的にし方ありません。何と言っても最高峰の剣ヶ峯が写っているので、富士山が見える、と認定できるのです。
9月26日追記
写真を追加しました。こちらの方が「高まり」が明瞭です。
なお、これが本当に富士山の写真かと疑念を持たれる方には、別なポイント(京都ではなく滋賀県になるが)からの写真と比較していただければ、丸印の箇所が間違いなく富士山ということをお分かりいただけると思います。
南岳分岐(西限界から北東に約240m)からの写真 1000ピクセル画像はこちら
カシミール3DによるCG
トリミングによる拡大
西限界に比べると、右側の稜線と、左の平らな山稜がぶつかるところがくぼんでいます。つまりこちらは、剣ヶ峯が左側に移動していることがわかります。改めて西限界の拡大写真を見ていただくと、そのくぼみがふさがっていることが読み取れるでしょう。つまりその位置に剣ヶ峯があるからです。
『「富士見」の謎』(2011年)では京都府の項で次のようにきました。
それが3年後に実現したのです。一抹の寂しさを覚えるのは事実ですが、ついに実現できたことを率直に喜びたいと思います。
住職をされている新林さんに対する言葉としてはおかしいのですが、まさに「神がかり」としかいいようがありません。
判断力、行動力に心から敬意を払います。
これで、富士山が見える都府県の数は20であることが確定しました。
今回の撮影の撮影の意義を、個人的な思いも込めて纏めてみました。
富士山が見える都府県は20ある。これは30年近く前、地図を使った手計算で、「富士山可視マップ」を作成し、理論的に求めたものである。以来、各都府県からの撮影や、最遠望の地からの実写が課題となっていた。

2001年に和歌山県から最遠望の富士山が撮影され残る大きな課題は、唯一証拠写真のない京都府からの富士山になっていた。地図ソフト「カシミール3D」の登場により、展望可能地域を精密に割り出すことができるようになったが、京都府はまさにピンポイントであるしかも付近は樹林に覆われており、また夜明けにシルエットの状態で見るしかないという条件の悪さもあって、理論上は間違いないが(山の展望と地図のフォーラムで詳しい検討をしていた)、実証は不可能ではないかと思われていた。私自身、2011年に出した小著『「富士見」の謎』では「実際に確認することはひじょうに困難でしょう。・・・将来のたのしみにしておきたいと思います」と書いたほどである。日本の山岳展望史上画期的なことである。ピンポイントの地点から、ピンポイント(標高3740m以上の僅かの場所)の場所が見えた、点と点が結ばれたのである。理論が実証されたことを非常に嬉しく思っている。

30年近く関わってきたものとしては、肩の荷がおりた思いだが、一抹のさびしさはあることも事実である。

なお、これで終わりではない。超望遠レンズでよりクリアな撮影ができるとよい。見えることは間違いないことがわかったので安心してチャレンジして欲しい。

富士山遠望の残る課題は、北限の実証である。308q彼方の花塚山が理論上最遠であり、すでに40数回登り確認しようとしている人達がいるが、まだ撮れていない。彼らにとっても励みになるだろう。
(参考)白倉岳周辺の登山道の様子など
「京都新聞」2012年9月25日(アーカイブ
「関西テレビ」金曜日の疑問 京都から「富士山」見える!? 2012年11月16日 
9月22日加筆
山梨日日新聞  京都から富士山撮った 2014年9月22日

手前に南アルプスなどがなければ富士山はこのように見える 
カシミール3Dの設定で、視点から200q手前の山を描画しない場合
合成するとこのようになります。影のように見えるのが隠された富士です。剣ヶ峯だけかろうじて頭をだしています。
カシミールの「マウス位置 標高」の機能を使うと、見えている最も下の場所の標高は3740m前後になります。
実写とカシミールのシミュレーションの微妙な違いについて
カシミールによるCGに比べて、実写の剣ヶ峯はやや丸い感じがします。それはデータの精度によるものと思われます。10mメッシュの限界でしょう。それを検証するために、ほぼ同方向から撮影した写真とCGを比較してみました。
場所は七面山敬慎院です。
比較(上 カシミールによるCG    下 実写)
右端の剣ヶ峰が尖っていることがわかります。今後、より詳細なデータが整備されれば、この写真と全く同じCGを作成できるでしょう。
▲2014年9月22日 NHKTVのニュースで放送されました。1週間限定でこちらでご覧になれます。
9月23日加筆
南岳分岐からの写真について
滋賀県からの富士山最遠望記録になります。
滋賀県可視マップ(小著『「富士見」の謎』より)
これからもわかるように、滋賀県で富士山が見えるポイントはわずかしかありません。
小著では比良山地北端の蛇谷ヶ峰を挙げていましたが(富士山まで255q)、
今回はそれを上回る大記録でもあります(想定外でした(^_^;))。
9月24日加筆
剣ヶ峯が覗いている鞍部はどこか
剣ヶ峯がピンポイントで覗いている鞍部はどこなのでしょうか。大ざっぱに言えば南アルプスの南部 仁田(にった)岳から加加森山の間の稜線がつくる鞍部ということになります。ただ、その鞍部は、一つの稜線のくぼみではなく、左側の稜線、文字通りの鞍部、右側の稜線と、3つの部分が別々の場所になっています。
まずは景観図をご覧ください。
鞍部左は、仁田岳からの稜線です。鞍部は別稜線が作っています。鞍部右は加加森山に続く稜線から派生する尾根が作る稜線になっています。

地図で確認してみましょう。稜線左が仁田岳から南下する稜線です。緑の線を引いてあります(カシミール3Dの登山道作成機能を使っています。上の景観図の稜線に微かに緑があるのがわかります)。
鞍部の稜線は、光岳と加加森山の間の稜線の2381mから北へ向かう稜線の一部です(地図にはその稜線にはほとんど線を引いていません)。
稜線右は、その少し西側から北へ向かう稜線です。
ごちゃごちゃ書きましたが、それだけ簡単ではないということです(^_^;)。
ともかく、奇跡的にこうして隙間ができていたので、剣ヶ峯を望むことができたのです。
▲西限界から見える富士山の範囲
わずかに覗いている富士山ですが、地図にすればどの範囲が見えているのでしょうか。こういう時にカシミール3Dにより可視マップを作成すればよいのです。富士山の可視マップではなく、「西限界」の可視マップです。富士山を基準にすれば、「逆可視マップ」と言ってもよいでしょう。
結果は次の通りです。
ピンクの部分が西限界から見える富士山剣ヶ峯付近。僅かですが、確かに見えることがわかります。
9月25日加筆
実際に目視できるか?
261q彼方からの剣ヶ峯は実際には目視可能なのでしょうか。
1m先から見るとしたらどの程度の大きさのものを考えればよいでしょうか。計算してみました。
計算の条件
距離 261q  見えている幅140m(上記可視マップから測定)   見えている高さ36m(カシミール3Dのマウス位置標高 の機能により測定)
あとは割り算をしていきます。
261qを1mに置き換えれば、幅は0.54o、縦は0.14oになります。
0.5oのシャープペンの芯が0.14o出ているのを1m先から見るということになります。肉眼での識 別は何とか可能かのではないでしょうか(^_^;)。
京都は20番目だが、19番目はどこか?
テレビ局のスタッフからこのような質問を受けました。
証拠写真の少なさから考えると、9月23日で加筆した滋賀県と思われます。
9月26日加筆
蛇峠山からの富士山
鞍部のすぐ右に蛇峠山があります。長野県下伊那郡平谷村と阿智村(旧浪合村)、阿南町の境にある山深田久弥氏が亡くなる前に頂上を踏んだ最後の山として知られています(亡くなったのは茅ヶ岳登山中ですが、山頂は踏んでいません)。図から見当がつくかもしれませんが、この山からも富士山剣ヶ峯は極めて微妙な見え方をします。三角点のある場所からは見えず、北に数十m移動すれば見えるという何ともマニア向けの見え方です。
山岳展望マニアの間では20年前に富士山が見えるのかどうか、地図やパソコンを使って大きな議論になっていました。
その時の記録が『パソコンで楽しむ山と地図』(実業之日本社1997年)に整理してあります。今は絶版なので(アマゾンでは入手可能)該当箇所をご紹介します。こちらをご覧ください。
なお、カシミール3DによるCGを載せておきます。西限界からと同様に、極めて微妙であることがお分かり頂けるでしょう。
位置図
形を変える富士山
ほぼ1年前の2013年9月17日、新林さんは次のような富士山を撮られています。ちょっとおかしくないでしょうか。これはまだ良い方なのです。時間により富士山の形が変わっていたのです。
蜃気楼により富士山が変形したのです。詳しくは こちら をご覧ください。
西限界からの富士山も、剣ヶ峯の形が変わっていた可能性を考慮する必要があるかもしれません。
表紙