9/9-12にサンフランシスコで開催された、UXデザインのカンファレンスとワークショップイベントUX Week 2014に参加してきました。本イベントはUXデザインを専門にした世界最初のコンサルティング企業Adaptive Path社が主催しています。アメリカを中心に、世界中からUXの実践家が集まって事例や手法、トレンドなどを共有します。同時期にUX Strat(コンセント長谷川さんのレポート)という別の大きなイベントがあったこともあって、日本からの参加の方は他にはいないようでした。イベントの様子や学んできたことなどを共有します。
- 会場
- 参加者
- オープニング
- 基調講演:Design for Humankind
- 講演:Work With What You Have
- 講演:Designing Smart Interruptions
- 講演:Two Worlds: Design Firms & Startups & What They Can Learn From Each Other
- 講演:Applying Design Thinking At The Organizational Level
- 講演:Designing Enterprises – How to Transform a Company by Design
- 講演:UX for ET
- 講演:Leading a Distributed Team of Introverts
- 講演:The Web Gets Real: Designing for the Internet of Things
- ワークショップ:Designing for Touch
- ワークショップ:Explore, Persuade, Destroy: An Introduction to Storyboarding Techniques
- ワークショップ:Mapping Design Decisions to Evidence
- 番外:SAP UXデザインチーム訪問
- 総括:UXデザイナーよ、魔法のような体験を作れ!
1.会場
会場は、UCSF内のミッションベイカンファレンスセンターです。サンフランシスコの東部、AT&Tのスタジアムの近くにあります。
2.参加者
他の参加者といろいろ話す機会がありました。アメリカ国内から来ている人が7-8割、その中でも西海岸が6-7割、デザインスタジオもいればGoogleのようなITサービス企業、またなぜか僕の話した相手は金融系のUX担当という人が多かったです。アジアから来て、しかも自分の会社というような物好きは私くらいでした。
3.オープニング
初日は、Adaptive Pathの共同創業者でありAjaxという言葉を作ったことでも知られるUXデザイナーのJesse James Garrett氏のスピーチによって始まりました。内容は主に後の講演の紹介。
4.基調講演:Design for Humankind
基調講演は、Web/ITのカンファレンスとしては一見異質な、オンラインの建築/デザインマガジンDwellの編集長による、建築におけるユニバーサルデザインの実践について。ともすればハイテク/ガジェットに偏りがちなUXデザインにおいて、人の生活、特に身体性を伴う空間のデザインについて、ユニバーサルなデザインと美しさを調和させて数々の事例を紹介していました。
私たちのデザインの対象は画面の中にとらわれないこと、またモバイルアプリの時代になってWebの時代ほど議論されなくなったアクセシビリティに再度目を向けさせるという意味で、今のタイミングでの基調講演にふさわしい内容でした。昨今UXデザインの世界ではEmpathy(共感)が大きなキーワードとなっています。いわゆる障害の有無にかかわらず、デザイナーは自分とは異なる他者を理解する努力を常に怠ってはいけないのです。
Design for Humankindスライド(Slideshare)
5.講演:Work With What You Have
Adaptive PathのマネージングディレクターKristin Skinnerによる、プロジェクトマネジメント論。落としどころが自明ではない混沌としたプロジェクトをマネージするには、進捗の管理などだけでは足りず、戦略的な視点に立ちつつフレキシブルな運営を行うことが必要、と説きます。メッセージには共感できましたが、具体論はあまりありませんでした。
Work With What You Haveスライド(Slideshare)
6.講演:Designing Smart Interruptions
FoursquareのUXリサーチャーKarina Van Schaardenburgによる、プッシュ通知の活用についての講演。これは非常に面白かったです。
- インタビュー
- アンケート
- ダイアリースタディー
- ログデータ
などを組み合わせてリサーチを行いながら、ユーザにとって価値のある通知とは何かを研究しています。特に通知はラボなどの環境では再現しにくいため、ダイアリースタディーは有効だったとのこと。
ユーザーから見ると、
- ウザい通知
- 有益な通知
- そのためにアプリをインストールするような価値の高い通知
の大きく3段階に分けられる。
価値の高い通知を実現するためには、
- Personal
- Contextual
の2点が大事とのこと。
特にContextualであることについては、今後デバイスがウェアラブルなどさらに身体に近づいていくにしたがってより重要になっていくと考えられます。僕自身tabのロケーション情報通知がスマートウォッチに来ることで、昼食のレストランを選ぶなどしています。
Designing Smart Interruptionsスライド(Slideshare)
7.講演:Two Worlds: Design Firms & Startups & What They Can Learn From Each Other
車をスマート化するアダプターを作っているAutomatic LabsのデザイナーSteve Bishop。元々IDEOに勤めており、デザインスタジオと事業会社との違いについて述べていました。
Two Worlds: Design Firms & Startups & What They Can Learn From Each Otherスライド(Slideshare)
8.講演:Applying Design Thinking At The Organizational Level
UberのUXデザイナーAmritha Prasadによる、Uberの組織にいかにデザイン思考を根付かせたか、という講演。大学を出て間もない講演者が、元々技術指向の強かったUberにおいて、デザイン思考/UXデザインのオーソドックスなプリンシプルを愚直に適用していくことで、社員を巻き込み、次第に意識を変え、ウェブサイトのリニューアルに成功した過程が語られました。
ステークスホルダーがそれぞれの持っているストーリーを語り合うことで共通意識を構築していく手法を彼女は「Shared Vision Approach」と呼んでいました。デザインへのマインドセットが根付いていない組織の中で活動したり、クライアントにしているUXデザイナーであれば大いに参考になる内容でした。
Applying Design Thinking At The Organizational Levelスライド(Slideshare)
9.講演:Designing Enterprises – How to Transform a Company by Design
JC Pennyのような大手を含む様々な企業にデザイン思考を根付かせる仕事をしているIngrid Lindbergによる講演。トップマネジメントの後押しが必要、ミドルマネジメントの抵抗に注意すること、小さい成果を早くに挙げることなど、オーソドックスな内容であまり目新しくはありませんでした。
Designing Enterprises – How to Transform a Company by Designスライド(Slideshare)
10.講演:UX for ET
宇宙人と電波で更新することを目指しているSETIプロジェクトのDoug Vakochによる講演。宇宙人に届くメッセージを作るのは、究極のEmpathyですね。フィボナッチ数列などの数学的なパターンは宇宙人にも理解されるのではないか、というアイデアなど。
11.講演:Leading a Distributed Team of Introverts
GitHubで働き、その後起業したKyle Neathによる、内向的な性格の人々からなる、しかも地理的に分散したチームを、いかに運営するかという講演。重要なのはステータス更新だが、「今何をやっている?」というようなアップデートはうまくいかず、来月何をリリースするか、そのための課題は何か、といった課題解決的なステータスアップデートの方が有用とのこと。SCRUMをやっているとデイリーミーティングで「昨日何をしたか/今日何をするか/抱えている課題は何か」を共有しますが、その感覚に近いです。
12.講演:The Web Gets Real: Designing for the Internet of Things
初日のトリは、私がモバイルアプリデザインのバイブルと思っている「iPhoneアプリ設計の極意」の著者、モバイルUIに特化したデザインスタジオGlobalMoxieのJosh ClarkによるIoTの時代のUXデザインについての講演。
この日は午前中にAppleによるiPhone 6/Apple Watchの発表があり、のっけからその話。インターネットに繋がるスマートデバイスは私たちの生活空間に増えていく一方で、ユーザー体験はそれぞれのデバイスの中に閉じて設計されており、デバイスとデバイスの間にはギャップがある。これらのデバイスの間でコンテンツをシンクすることはiCloudやDropboxなどで行われ始めているが、それではまだ不十分で、ユーザーが行おうとしているアクションがデバイス感で連続的に行われないといけない。これは実は、僕が博士課程でやった研究テーマそのものです!ついにこうした問題が、デザインの実務家にも取り上げられるようになりました。
ジェスチャーインタフェース、ウェアラブル、スマートホーム、スマートトイなどの豊富な事例が紹介されていきます。新しい体験を実現するためのテクノロジーはすでに山のようにある。足りないのは、デバイス間のギャップを埋めるような体験へのイマジネーションだけだと。まさにUXデザイナーが今持っている大きなチャンスを示してくれる素晴らしい講演でした!
The Web Gets Real: Designing for the Internet of Thingsスライド(Slideshare)
13.ワークショップ:Designing for Touch
2日目は、1日上記のJoshによる、タッチデバイス向けのUIデザインのワークショップに参加してきました。ここはさすがJoshの専門分野、スマホの操作の75%は親指を用いて行われている、タッチしやすいオブジェクトの物理サイズは7mm以上、指の可動域などといった知見を駆使しながら、タッチUIのデザインについて語ること休憩を挟みながら8時間半!そのエネルギーが何より強烈です。
そして、タッチUIのワークショップながらやはりJoshの興味はタッチの先にあるようで、タッチ以外のジェスチャー、ウェアラブルデバイスにおける受動的な情報取得(スマートウォッチでの通知の確認など)、AR、複数デバイスにまたがるUXなど、今後UXデザイナーは「Cloud of Social Devices」をデザインしないとならない、という言葉で締めくくられました。
Designing for Touchスライド(Dropbox)
14.ワークショップ:Explore, Persuade, Destroy: An Introduction to Storyboarding Techniques
3日目は、午前と午後で別々のワークショップに参加しました。午前中は、GoogleのインタラクションデザイナーAbi Jonesによるストーリーボード制作のワークショップ。絵の巧さに関わらず、ユーザーとユーザーの置かれたシチュエーションを伝える絵にするテクニックを紹介していました。
15.ワークショップ:Mapping Design Decisions to Evidence
3日目午後のワークショップは、Blink UXのGeoff Harrisonによる、ユーザーリサーチの結果をいかにUXデザインに反映させるかという内容でした。
16.番外:SAP UXデザインチーム訪問
最終日の4日目は、実はUX Weekには参加せず、Palo AltoのSAP社のUXデザインチームに務める友人のDeXin Shiを訪ねてきました。SAPはエンタープライズ向けの雄ですが、驚いたのがオフィスがIDEOのようなデザインスタジオかと見まごうばかりの洗練されたオフィス。このオフィスだけでUXデザイナーが50人もいるとのこと。実際frogの出身者なども複数いるとのことでした。
ITのコンシューマライゼーションの波の中で、SAPもコンシューマー向けサービスに負けない洗練されたUXを作っているようです。そのために、「Fiori」というデザイン言語も作ったとのこと。
17.総括:UXデザイナーよ、魔法のような体験を作れ!
今回学んできたデザインのテクニックは、既存のUX/UIデザインの延長上にあります。UberやGoogleなどの企業での実際に活用されている事例に触れることができた意味はありましたが、それほどの目新しさはなかったというのが正直なところです。
むしろ、UX Weekの開催日と発表が重なったApple Watchをはじめとするウェアラブルや、Joshが話していたようなセンサー/ジェスチャー/AR/IoTなどを用いたサービスデザインが、UXデザイナーの集まりでも話題になっているという点が、大きな収穫でした。
また、サンフランシスコの滞在中は、AirbnbやUberをフル活用し、これらのサービスが既存の宿泊業や交通機関をdisruptしつつある様を実感することができました。
今回の滞在の感想は、はからずもUX Tokyo Jamでお話しした内容と非常に通ずる、下記のJoshの言葉で締めくくりたいと思います:
かつては夢見ることしかできなかった各種のテクノロジーが安価に手に入るようになっている。魔法のような体験を実現するために、唯一の制約は私たちデザイナーのイマジネーションだけだ。UXデザイナーであることがこれほどエキサイティングな時代はなかったよ!