2014-09-25

イケメンになりたかった

かつて、イケメンの肉体に乗り移る方法を考えていた。

大人になった今でも考えることがある。

みんなだって、稀にだがよく考えると思う。

十代の時は、そういう超能力に目覚めないかと真剣に悩んでいた。

ムカつくほどのイケメンを見つけたら、乗り移って好きなことしたいなとか。

よりイケメンなやつの体に、どんどん乗り移っていけたら楽だろうなとか考えていた。

途中で可愛い女の子に乗り移っても良いと思う。

他人記憶も引き継いだまま、ずんずん好きなように乗り移っていく。

年をとったら若いやつに乗り移ればいいし、病気しても同様。

金持ちと入れ替わったらしこたま遊んで、財産が尽きたらバイバイすればいい。

強くなりたかったらセガールに乗り移ればいいし、飽きたらジャッキーになればいい。

久野美咲になったら、ラジオ人生相談コーナーで年齢詐称して愉しめばいい。

他人の知識やスキルも引き継いでるわけだから、どんどんパワーアップしていく。

あもりにも自由すぎるでしょう?

気に入らなかったアイツに乗り移って、人生破滅させることもできる。

イケメンで、モテまくって、成績も良くて、インターハイにも行ったアイツ。

一個上の美人の先輩と付き合って調子乗ってたクソ野郎

その先輩とは「体の相性が悪かった」とか言ってすぐに別れたヤリチン野郎

直後に、隣のクラス美人(大好きだった)と付き合い始めた脳チン野郎

あの美人ふたりとヤリまくりなのかと思うと腸が千切れそうだった。

せめてアイツに乗り移って、美人と好きなようにヤリまくりたかった。

好きなだけ可愛い女を引っかけてヤリまくりたかった。

ついでに、クラス中の女に色目使いまくろうと思っていた。

そうしてヤリまくって楽しみまくった後に元の体に戻ろうと思っていた。

ただそれだけでいい。

乗り移った時点でもう勝負はついてるから

人間関係を引っ掻き回してアイツの人生を終わりにしてやればいいと考えていた。

まあ、だいたいの女がアイツに対して好き好きオーラを出してたから簡単だったろう。

モテない女ほど興味ないふりしてアイツに興味津々だった。

同じようにモテない人間からすれば、そういうのはバレバレだった。

そんなやつらにも一人残らず声をかければいい。

スキンシップなんか使わなくても、言葉だけでなんとでもなる。

「○○って結構やさしいよね。俺そういうの弱いんだよ」

「○○って色白いよね。すごいキレイ

「○○って今度ヒマ?遊び行かない?」

そういう適当言葉を並び立てればいい。

そうすれば自然と、ツラしか見てないバカな女どもは寄ってくる。

イケメン声かけただけでだよ?

既にイケメン争奪戦のドラが鳴っているとも知らずに。

地獄の釜の蓋が開いているとも知らずに、楽々ついてくる。

まず、女たちの醜い牽制合戦が、あっという間に幕をあける。

最初は鞘当て程度のものだったのが、徐々に激しさを増していく。

罵詈雑言暴力といったものも姿を現し始める。

少しずつ激しさを増していったそれは、クラス男子も巻き込んでいく。

彼氏持ちにも声をかけたんだから当然だ。

やがてクラス中の問題になったそれは、クラス外にまで波及していく。

クラスの壁を越えたそれは、学年の壁を越え、教師と生徒の壁を越える。

そうして学校中が騒乱の渦に巻き込まれる。

たかパンデミックのように、爆発的に広がっていく。

騒乱が騒乱をよび、学校関係者家族や、近隣住民も暴徒と化していく。

その争いが自治体ひとつを巻き込み、メディアの目に止まった時、勢いは止まらなくなる。

そうなったが最後法治国家というもの解体作業がはじまる。

いつしか”奪うもの”と”奪われるもの”に分かれた彼らは、終わりなき狂騒に明け暮れていた。

裏切り者を探せ!」

野郎ぶっ殺してやらぁ!」

「やつらだ!追い込め!死んでも逃すな!」

そんな憎悪に満ちた言葉が、熱を帯びた大気に木霊する。

ゲバ棒狩猟ライフルを持った赤いヘルメットの連中に、怯える日々が続いていた。

家を追われ、全てを失くし、シケモクのように横たわる死体路上に溢れかえっていた。

どこの公園にも巨大な穴が掘られ、そこに死体が放り込まれていった。

申し訳程度に火葬されたそれらは、熱によって全身の筋肉が収縮し、胎児のように丸まっていた。

あの平和だった日々が、平和だった日本が、この世の地獄と化していた。

嘘のような本当の光景

そこには分かりやす正義や悪といった概念など存在しない。

ただ無尽蔵の暴力憎悪が渦巻いていた。

一体どうしてこうなったのか。

人々に理由をたずねても、きっと答えられる者はいないだろう。

しかし、その問いに明確な答えを持つ者が一人だけいる。

ジョン・ポール

彼は全てを知っている。

なぜなら、この馬鹿げた殺し合いの元凶だからだ。

といっても争い自体は、彼が仕掛けたものではない。

彼が見つけた”虐殺の文法”こそが、この状況を生み出したのだ。

いや、それすらも元凶とは言いがたい。

根本的な原因はそこではない。

全ては”虐殺器官から始まったのだ。

虐殺器官”。

それは人間虐殺へと駆り立てる”器官”。

特定の刺激によって活性化し、善良な市民人殺しへと変えてしまう”モジュール”。

いとも簡単に、人々に虐殺意識を芽生えさせる”なにか”。

人類進化過程で獲得したとされるそれは、未だに人類脳内に宿っている。

つまるところ、”虐殺の文法”とは”虐殺器官”のスイッチを入れるためのものなのだ

それがこの地獄の原因なのだ

なんとも馬鹿げた話だ。

三文小説の設定ならまだしも、そんなもの現実存在するなどと誰が認められるだろう。

なんのことはない。

虐殺の文法”だのといった大げさな名前で呼んではいるが、実際は単純だ。

ただのイケメンの甘言だ。

それこそが虐殺スイッチだったのだ。

いいや違う。

そのような事例にも、”虐殺の文法”を適用することができてしまうというだけだ。

その文法を当てはめられた言葉は、どんなものでも否応なしに虐殺スイッチへと変わってしまう。

それだけの汎用性を持ち合わせた文法だったということだ。

これでは誰にも気付かれずに虐殺を促すことができてしまうではないか。

甘い言葉で、この世を終わりへと導くことができてしまうではないか。

一人のイケメンによって世界が終わってしま未来も、あり得るということではないか。

から、どうか世の女性たちは、イケメンの甘言には乗らないでほしい。

その言葉に乗ったが最後あなたはきっと普通人間はいられなくなる。

そして、あなたの大切にしているものを、あなた自身の手で奪うことになってしまう。

どうか、この事を忘れないでほしい。

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