Web業界。新卒で入ってきて定年した人のいない特殊な新規業界ですが、そんな業界の尊敬すべき先人である谷口マサトPが書籍を刊行されましたので、遅ればせながら読んで感じたことをブログエントリーにしたいと思います。
- 広告なのにシェアされるコンテンツマーケティング入門
- 発売元: 宣伝会議
- レーベル: 宣伝会議
- スタジオ: 宣伝会議
- メーカー: 宣伝会議
- 価格: ¥ 1,728
- 発売日: 2014/08/28
- 売上ランキング: 1219
結論、本書「広告なのにシェアされるコンテンツマーケティング入門」は、Webでのタイアップ広告を発注する側と、発注を受けて作る側、双方に勇気を与える一冊なのではないかな、と感じました。
この本、冒頭でも発注サイドと制作サイド、両方の企画者に対しての入門書であることが伝えられています。
この本を読んでいただきたいのは広告主、メディアや広告会社、PR会社に留まらず、WEBサイト制作会社、ブロガーなど個人で情報を配信されている方、または雑誌やテレビなどの既存のコンテンツ制作をされている方です
「広告なのにシェアされるコンテンツマーケティング入門」14p
本書は書名の通り、(多くの場合、アレルギーのようにユーザーから忌み嫌われるハズの)広告なのにシェアされるコンテンツの作り方について、なぜそういったコンテンツ作りが必要なのか?というそもそもの前提を、時代の空気感織りまぜ解説することから始まり、制作側の台所事情と実践的なHow to、そして発注サイド(広告主)の企画の通し方テクニックなど、かなり具体的に書かれています。
前半部分は、広告なのにシェアされるコンテンツ作りの概論、中盤〜後半で個別具体的な事例に触れ、テクニカルな部分を解説するという構成になっています。
僕の場合、著者の谷口マサトさんとは同僚であり6年くらいの知り合いになりますが、谷口さんの仕事を近くで見て本書と比較し「ああ、なるほど、そういうことか」と特にハラオチした部分が本書前半、コンテンツ作りの概論に書かれていました。
テレビのお笑い番組のようにツッコミもセットになっていると、視聴者は笑うことしかできません。一方ネットのコンテンツでは、上手くツッコめば、「ユーザー自身が周囲からウケる」ことができます。ツッコミをできるだけ受け入れられる「空っぽの器」を作る…。ネットの文脈でお笑いコンテンツを作るときはには、私はそんなことを常に意識しています。
「広告なのにシェアされるコンテンツマーケティング入門」46p
コンテンツを見た、記事を読んだユーザーのリアクション、願わくばコンテンツをシェアしてくれるようなリアクションにつなげようと思ったら、コンテンツにはツッコミの“のりしろ”を用意しておくべきだろう、ということでしょうか。武道でいうところの「後の先」みたいなロジックを感じます。ユーザーの打ち込み(ツッコミ)を意識して返す、みたいな。
谷口さんは基本、武道家ですので、いつもだいたい修行しています。
武道家の一面を見せる谷口さん
本書後半のChapter 4-5では、「クライアント企業からよく受ける質問Q&A」と題して唐突にQ&Aが始まるのですが、このChapterに、けっこう大事だろそれ、ということがサラリと書いてあったりして気が抜けません。
例えば、コンテンツを作る際に最も大切なことはなにか?というQに対して「時間を速くする」ことであると回答しています。
ユーザーの視点になれとはよく言いますが、ユーザーは非常に速い速度でどの記事を読むかを取捨選択しています。(中略)一方、記事を作る側は、時間をかけてじっくりと読んで精査してします。そのため、考えれば考えるほど、考えていないユーザーと時間感覚がズレてしまい、トンチンカンなモノができあがります。(中略)「判断は速くするほど正確になる。」という考えをもって、日ごろ判断する時間を速くする習慣をつけることが大切だと思います。これが最も難しく、私もまだまだ修行中です
「広告なのにシェアされるコンテンツマーケティング入門」71p
これっておそらく昔で言えば、2chの今北産業、最近ならlivedoorニュースの「ざっくり言うと」であったり、LINE NEWSのDIGESTだったりするのでしょう。
参考:
・「今北産業」って何?!意味と使い方 | nanapi [ナナピ]
・livedoorニュースの「ざっくり言うと」がすごい便利な件 | @raf00
・【LINE NEWS】"ニュースアプリを利用しない層"に向けた取り組みをさらに強化 LINE公式アカウントから話題のニュースをダイジェスト形式で配信する「LINE NEWS DIGEST」を開始
ネットに限らず、映画やテレビやマンガなどエンタメなコンテンツが氾濫し、ユーザーの可処分時間を奪いあっている今の時代、ありきたりで極々ベタな理屈ですが、やっぱり瞬間的に面白いかどうかを判断できるコンテンツって、ことシェアされるか否かの観点で考えると強力ですよね。
参考:
・「RT数30万超!「それを、こう。」著者・大野そらさん初取材!Twitterで拡散するコツは? | キーパーソンの声 | デジタル×PR情報サイト[DIGITAL BOARD] - by Dentsu PR Digital」
シェアされるコンテンツの究極は一枚絵なんじゃないかな、と思います。なお、本書には一枚絵を効果的に使うテクニックも収録されており、その意味でも今的な入門書なのだなあと感じた次第です。
ただ僕にとしては、分かりづらく感じた箇所も1点ありました。本書30p、従来の広告とコンテンツの関係性と、これからの広告とコンテンツの関係性を示した図解なのですが、これがちょっと僕にとって分かりづらかったのですよね。
これは映画「ライフ・オブ・パイ」をプロモーションする記事の構成を説明した図です。虎と少年が227日の間、海を漂流するという映画ですが、虎や227というキーワードで虎ガラの服を着た大阪のオバちゃんと227分デートするという物語を結びつけ、コンテンツにしたという事例です。
参考:
・大阪の虎ガラのオバチャンと227分デートしてみた! - ライブドアニュース
本書の図版なのですが「これからの広告」の図は、広告と物語とを共通のキーワードでつないでコンテンツ内(この場合はタイアップ記事内)で進行させていく、という説明なのだと思います。
ただ、この広告と物語とキーワードの3つって徹頭徹尾、常に同じ分量と熱量で記事内に配置される訳ではないので、実際はこんなようなイメージなのかな、と僕は捉えました。
物語は常に進行していて、物語の途中途中でキーワードが磁石のように機能しつつ、PRすべき内容を物語の中に呼び寄せる、で、それが何というか螺旋状に展開するようなイメージです。
この螺旋構成のイメージをカタチにしてみたかったという思いと、そして谷口マサト的「広告なのにシェアされるコンテンツ制作術は果たしてトレース出来るのか、という好奇心から僕も記事コンテンツ作りで試みたことがあります。
そのときの記事がこちらです。
髪のボリュームが見た目の印象に影響するのか調べてみた - ライブドアニュース
スプレーすることで髪の毛の1本1本を太くし、頭髪全体のボリュームを豊かにする効果があるというボリュームアップトニックのプロモーション記事です。ストレートに機能性を訴求しても見てもらえない、かと言って検証記事の構成ではわざとらしさがあります。そこで、そもそも商材が解決しようとしている課題(=髪の毛にボリュームってホントに必要なの?)にフォーカスし、髪のボリュームというキーワードから実験を行う記事というストーリーを用意し、商材そのものについての記述は250文字程度、写真も2点ほどに収めました。記事全体からすると10分の1程度です。
これが谷口さんであれば、また違った切り口と構成で仕立てていたと思いますが、僕なりの解釈とトレースはこんな感じです。結果はどうか、記事を読んだユーザーの感想を参照します。
この企画は、良い企画。ネットでもテレビでも面白くなると思う。 / 他3コメント http://t.co/4ePN205oiz “髪のボリュームが見た目の印象に影響するのか調べてみた - ライブドアニュース” http://t.co/4uKQfaLgIO
— kokoichiro (@kokoichiro) 2014, 5月 14
よくできたPR記事だなーw/髪のボリュームが見た目の印象に影響するのか調べてみた - ライブドアニュース http://t.co/d2l0O50LiS
— きく (@MA510KIK) 2014, 5月 14
いい広告記事だな。見習いたい / 髪のボリュームが見た目の印象に影響するのか調べてみた - ライブドアニュース http://t.co/OKXHddb4Xr
— 赤沼俊幸 (@toshiyuki83) 2014, 5月 14
今までより正しく商品の方向に説得力がある… / “髪のボリュームが見た目の印象に影響するのか調べてみた - ライブドアニュース” http://t.co/Rr40izIBwr
— しの(デ部) (@raf00) 2014, 5月 14
ネガティブは反応はゼロではありませんが、それ以上に好意的な反応の方が多く、強くありました。
広告に対して否定的なコメントのつくことが多い「はてなブックマーク」においても、かなりポジティブなコメントを頂きました。
参考:
・はてなブックマーク - 髪のボリュームが見た目の印象に影響するのか調べてみた - ライブドアニュース
冒頭での書評、つまり「広告なのにシェアされるコンテンツマーケティング入門」は、Webでのタイアップ広告を発注する側と、発注を受けて作る側、双方に勇気を与える一冊なのではないか、という話に戻りますが、僕自身の経験を踏まえても、やはりWeb広告に携わるものにとって勇気を呼び起こす一冊なのではないかな、と思いました。
谷口さん、褒めたので、ご飯おごってくださいw
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