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Danas je lep dan.

2014-09-25 正直あの体制が続いてるうちに一度渡航して見てみたい

[][][]ユーゴスラヴィア萌えまくる1冊――鈴木健太,百瀬亮司,亀田真澄,山崎信一『アイラブユーゴ1』

 『アルバニアインターナショナル』『ニセドイツ』と,東欧の現存した社会主義を面白おかしくけれども真面目に取り上げて世の共産趣味者を萌え死にさせてきた社会評論社から,満を持して新シリーズ「自主管理社会趣味」Vol.1『アイラブユーゴ1』が出版されたと聞いて買わざるを得なかったし読まざるを得なかったしレヴューせざるを得なかった。ちなみに本書はフルカラーである。大切なことなので何度でも言うがフルカラーである。大量の図版を載せたフルカラーのユーゴ本が2,000円である。破格のお値段と思うわけだが,どうか。というかこれ続くのか! 期待せざるを得ない。同志,購入は義務です。

 中身は,もうとにかくユーゴ萌えがつまりまくりであり,見所はいくら紹介してもしたりないが,個人的に面白かった箇所をいくつかピックアップ。

 まず,カルデリ,ジラス,ランコヴィチといった,チトーを支えた最高幹部たちの短い評伝(32-37頁)がやたらと面白い。彼らについて知らないひとは是非ともこの箇所を読むべきだ。知っていて読んですら面白かったのだから。最後までチトーの右腕として権力の中枢に居続けた眼鏡の理論家・カルデリ,共産主義の理想を奉じるあまりにユーゴ体制を痛烈に批判しそれゆえに異論派として長い不遇を託った筋金入りの理想家・ジラス,そして秘密警察の長としてユーゴの暗黒面を担うも失脚した闘士・ランコヴィチ,という具合に見事に全員キャラが立っていて胸が熱くなる。史実は小説よりも奇なり。よくこんな濃ゆいキャラばっかり集めてきたなぁというか,周囲がこれだけ濃ゆいからこそチトーのカリスマを強調しないとやってられなかったのかなというか,色々妄想が捗るわけです。女体化してエロゲを作ろう(提案)。あと,イヴォ・ローラ・リバルに関する項(98-99頁)は,リバルについて名前は聞いたことがあってもどんな人物か全然知らなかったわたしのような半可通にとっては有り難い記述だった。

 ちなみにカルデリの項で言及されてる国家の死滅云々について論じてるのが以前紹介したデヤン・ヨーヴィチの研究だよ! みんな読もう! ただヨーヴィチ的にはカルデリはチトーに寄り添ったというよりも気付いたらカルデリ的ユーゴの理念がチトー的ユーゴの理想を周縁に追いやったというか乗っ取ったという構図で描かれるのだけれど。

 そして社会主義体制下における様々な制度についてその概要が纏められていることが入門書として素晴らしい。従来の日本語書籍では,柴『ユーゴスラヴィア現代史』などの各種入門書は大まかな歴史の流れを記述することに力点が置かれていて制度面に関する記述は薄く,小山『ユーゴ自主管理社会主義の研究』のような良書はあれど一般向けとは到底言いにくかった。本書はユーゴにおける議会の構成(42-45頁)のような複雑な制度から,青年労働活動(94-97頁),退役軍人会(132-133頁)のような重要ではあるが触れられることの少なかった社会組織に至るまで概説されており,ユーゴを単に「多民族国家」「東欧の国」というだけでなく社会主義国」として見る上で重要な基礎知識を提供してくれている。何度でも書くが共産趣味同志諸兄は読むべし。

 もちろんユーゴの「多民族国家」としての側面に関しても,公的な民族制度の概説にはじまりそれを構成する様々な民族について触れられているのは素晴らしい(106-123頁)。まさかルシン人やゴーラ人についても触れられているとは予想だにしなかった。ルシン人やゴーラ人がなんのことだかわからないってひとも「ああ,あの……」となるひともどちらも読むべきである。ルシン人については,たとえば三谷『スラヴ語入門』などでも触れられているわけだが,その旧ユーゴ地域における状況に特化して論じたものとなると邦語では類があるまい。

 圧巻はなんといってもひたすらチトー同志について触れられた部分(52-91頁)であろう。けして厚くはない本書においてその分量は異様な存在感を放ち(まあそもそも表紙にどでかく同志の肖像が載っているわけでな),チトーに捧げられた贈り物とかチトーの誕生日に執り行われていたバトンリレーだとかチトーの女性遍歴についてとかをフルカラーで綺麗な大量の図版とともに紹介してくれていて,これまで邦語で出版されてきたチトーの伝記がいい加減時代もあって古くさくなっていただけに(たとえば,ヴィンテルハルテル『チトー伝』)逆に新鮮みすら感じさせ,ともかく面白い。同志,君はまだ読んでいないのかね? ところで最初の奥さんについての記述読んでると割とチトーって家庭人としては最低だったのではという感想が頭をかすめるのだが,どうか。10歳年下の幼妻を告発して強制収容所送りにするとかドン引きする所業だと思う。ちなみに結婚当時最初の奥さんは16歳だったそうで,なんとも羨まけしからん話である。薄い本が厚くなるな。

 あとチトーが北朝鮮を訪問したエピソードも紹介されていて(144-147頁),共産趣味的にこれほど胸躍る組み合わせがあろうか,いやない(反語)。日本で活躍したユーゴ歌手やユーゴの登場する日本のサブカル作品への言及もあり,本当にユーゴについての行き届いた入門書になっているなと。当然米澤穂信の手になるユーゴを扱った名作であるところの『さよなら妖精』についても触れられている! あ,もちろん『宅配コンバット学園』への言及はありませんでした(満面の笑み)

 143頁とかで博物館の展示品の図版で思いっきり撮影者が映り込んでいるのはそういう場所によく行く身としては自戒したいなと思った。まあその辺はご愛敬か。『アルバニアインターナショナル』に附されていたような参考文献や文献案内がないのは,本書さえ読めば他の入門書なんて要らないぜ! という気概によるものか,それとも最後にまとめて提示する目算なのか。個人的にはこの本でユーゴに目覚めるひともいると思うのでそうしたニュービー用の導きの糸もあってもよかったように思うが,とはいえそれによって本書の価値が減じるというわけではなかろう。

 ということで,世の共産趣味者同志諸兄や,東欧マニアの方々,現代史オタの皆様,チトーファンの人びとや米澤穂信フリークの面々にお勧めできる本でありました。何度でも書くが,同志,購入は義務です

 なんか某801ちゃんのアリュージョニストステマ見てたらこのぐらいステマしてもまだ足りないような気がする。あ,次はリアル共産主義体制継続中の北の楽園をフルカラーで,とかどうでしょう(提案)

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