奇怪な喜納昌吉の知事選出馬劇 - 背後に見える小沢派の蠢動と思惑

先週(9/16)、民主党沖縄県連の決定で喜納昌吉が知事選への出馬に走り、その動きを植草一秀や山本太郎が援護して問題になっている。喜納昌吉の言い分によると、本命候補である翁長雄志が辺野古埋め立ての承認撤回を公約しておらず、そのため支持できないので自らが立候補するのだそうだ。これを聞いて、喜納昌吉の動機に思いを巡らせたとき、最初に思い浮かんだのが、2月の都知事選での左翼の選択と行動だった。すなわち、組織の維持と保全のためではないか、という着眼である。翁長雄志は保守と革新の両方から幅広く支持を受けていて、公明の票も取り込む情勢になっている。普通に考えれば、民主党の沖縄県連の態度としては、翁長雄志の支持に回り、正式な推薦はしなくても陣営の末端に参じ、当選後は県政与党の一角を占めるものだ。今、沖縄には民主党の国会議員が一人もいない。もともと、本土と較べて共産や社民(社大)が強い沖縄では、新参の民主の地盤が脆弱だ。喜納昌吉も、2012年の衆院選での落選後は浪人の身で、2013年の参院選にも出馬できなかった。政治家というものは、選挙に出ておかないと有権者に忘れられてしまうのだと、以前、とくらさんが語っていた。国政選挙は2年後の2016年までない。今度の知事選は沖縄を揺るがす大きな政治になる。ここで何もせず、出番もなく、指をくわえて後ろから見ている役割になると、弱体な民主の地盤はさらに干からびる。

現在の民主党沖縄県連なるものは、事実上、喜納昌吉の個人商店に等しい。したがって今回の喜納昌吉の出馬表明は、まさにこうしたビジビリティの確保が動機のもので、2月の都知事選での左翼の動きと同様、組織のサバイバルとメンテナンスを目的とした政治だと考察される。政治戦に主体的に参加しておかないと、存在が埋没し、組織が錆びつき、集票の機能が不全になってしまうため、言わば、エンジンオイルを注入して内燃機関の駆動を整備させるように、選挙に出馬して運動員を回し、地域の支持層を固める機会とするのである。選挙はオポチュニティなのだ。共産と社民は、生き残りのために宇都宮健児の神輿を担いだ。東京左翼(労組や団体や出版などの)は、業界を守るため、自らの食い扶持を死守するために宇都宮健児祭りに狂奔した。左翼業界の恒常性(ホメオスタシス)を維持するため、既成左翼のインダストリーとアクティビティのリフレッシュのため、「種の保存」の機会を他に奪い取られないため、彼らは頑迷に一本化に応じず、宇都宮健児での単独選挙に固執した。選挙の勝敗など二の次で、それよりも大事な組織と業界の論理があったのである。ここで出馬し、存在感を示しておかないと、次の国政選挙のとき「過去の人」になってしまう。二度と永田町の住人に戻ることができず、政治家としての人生が終わってしまう。そういう焦りが喜納昌吉にあったのだろう。それは下地幹郎も同じである。

だがここで、不審に思わされるのは、喜納昌吉の出馬発言の後、間髪を置かず小沢シンパの植草一秀から支持の声が上がり、また同時に、山本太郎がそれに呼応する動きを見せたことである。喜納昌吉の出馬報道が9/17、山本太郎がその動きをフォローするTwを発したのが9/19、植草一秀による翁長雄志叩きと喜納昌吉支持のブログ記事が9/20、普通に考えて、この動きは少し性急すぎるし、突っ込みすぎで、沖縄現地の事情や状況を無視した一方的なものだ。私は、9/19の山本太郎のTwを確認して非常に驚いた。そして、植草一秀の記事を見て、裏に小沢一郎の影が見え隠れしている気配を察知した。最近の植草一秀は、11年前にテレビに出演していたときのような切れ味の鋭いエコノミクスの分析や解説は一切せず、二流の政局評論家に零落している。どこかの新聞社の政治記者上がりのような些末な記事ばかり書き、わが国屈指のエコノミストであったことが嘘のような姿に変わり果てている。11年前の植草一秀は優秀だった。テレ東の夜の番組だったか、竹中平蔵と一対一のディべートをやり、絶妙の論理の切り返しで、竹中平蔵を完璧に論破した一幕があった。生放送の絵で竹中平蔵が屈服して狼狽し、テレビの前で私は歓喜と驚嘆の声を上げた。あの当時の、脂の乗りきった、破竹の勢いの竹中平蔵を相手に、経済討論で論破できたのは植草一秀だけだ。その植草一秀が、今や見る影もない粗悪で貧相な政治記事を書いている。

世の無常を感じる。植草一秀の政治記事は、ネットの世界で一定の数を誇るところの、いわゆる小沢シンパを悦ばせるもので、その需要と市場に特化して供給される「商品」だ。小沢一郎の生活の党は、今や永田町とマスコミではゴミ扱いされる少数勢力で、各社の世論調査でも1%か小数点以下の支持率しかない端数集団だが、ネットの政治空間においては存在感が大きく、BlogやTwでも熱烈な支援者が多く目立っている。リアルとバーチャルのコントラストが著しいと言うか、非常に不思議な政治勢力だ。この勢力を性格規定すれば、基本的には「民主党左派」であり、消費税増税に反対し、TPPに反対し、原発再稼働に反対し、民主党の党内闘争で負けて追放された履歴が表象となる。すなわち政策全般からすれば、今日の座標軸では左派になる。だが、小沢一郎やその側近の思想像、また、15年前までの過去の政治実績を辿ると、ネオコンやネオリベの表象が明確で、右派の巨頭として人気を集めていた経緯があり、その頃の「財産」も捨てずに引き摺っている。右側に山崎行太郎や三橋貴明や副島隆彦がくっついているのはその遺産の磁力の為せる業だろう。森田実も熱心な小沢シンパだが、右翼と左翼の両方のイメージを標榜していて、小沢派の政治的特徴をよくあらわしている。公明のような、言わば物理的な、デディケイテッドな中道ではなく、バーチャルな、右からは左に見え、左からは右に見えという、そういう「イデオロギーを超越した」仮象を説得力の看板として掲げ、大衆に宣伝訴求する勢力だ。

今回の喜納昌吉の出馬劇の裏には、小沢派の暗躍があり、どうやら小沢一郎の思惑がある。これは意外なことだった。単に喜納昌吉の個人的な野心と暴走だけでなく、小沢派という集団が背後に絡んで蠢いている。全国注目の沖縄県知事選で、翁長雄志を支持する保守(沖縄の自民・公明)と革新(共産・社大)の間に楔を打ち込み、選挙戦の論争の主導権を握り、全国の世論と関心を小沢派に惹きつけようという戦略なのだろうか。喜納昌吉が主張しているところの、翁長雄志は公約で辺野古埋め立て承認を撤回せよという要求は正論に違いないけれど、それでは、喜納昌吉が当選したときは承認を撤回するのかというと、それを信用する沖縄の人々はいない。そもそも、喜納昌吉が出馬したところで当選する可能性は全くなく、単に翁長雄志に流れるべき票の一部を奪い取るだけにしかならない。つまり、無意味な分裂選挙になり、仲井真弘多を利するだけだ。喜納昌吉は最初から勝てる候補ではない。このことを、9/19にBSフジの番組に出演した海江田万里が明言し、タイミングを合わせるかのように沖縄の連合が翁長雄志への推薦を表明した。その4日前の9/17の報道では、沖縄連合は民主党沖縄県連と歩調を合わせる姿勢を示していて、踵を返した形になっている。海江田万里と連合本部の意向が作用し、沖縄連合が方針を転換した。海江田万里は番組の中のコメントで、安倍政権に対抗するという全体的な意味が重要だという認識を強調していた。

沖縄の連合があっさり翁長雄志を支持することを決め、喜納昌吉の乱は即時鎮圧されたかに見える。この件で、伊波洋一などが喜納昌吉への批判を公然と発しないのは、喜納昌吉の主張そのものに一理があり、翁長雄志が埋め立て承認の撤回を公約に盛り込むよう、公示日(10/30)までの情勢をドライブしたいからだろうと推測される。この点は重要だ。しかし、翁長雄志が最後まで撤回を公約しなかったからと言って、お呼びでない喜納昌吉が立候補し、反仲井真票を割るのは最悪の事態で、そのような妄動が許されるはずがない。Twを見ていると、山本太郎の動きに牽引されたのか、三宅洋平が喜納昌吉への共感を示し始めている。辺野古の現地で体を張って反対運動をやっている人々にとっては、少なからず迷惑で不快な進行だろう。山本太郎の公設第一秘書は、小沢派のはたともこが務めている。従来、山本太郎の政策と政治信条の認識は、片足(左)が社民で片足(右)が小沢派というイメージだった。デディケイテッドな観点から立場を定義すれば、未来の党の阿部知子に近いポジショニングを連想させていた。ゆえに今回の山本太郎の行動は、その想定の型を破るものであり、軸を右へ移動したハプニングに他ならない。ファッショの政治が全体を覆う中、小沢派集団も追い詰められている。小沢一郎も72歳。次の総選挙で軍団として生き残る展望は見えない。ひょっとしたら、小沢派は、小沢一郎が議員を引退した後の後釜に、山本太郎を(軽くて操りやすい)神輿として担ぐ考えなのだろうか。

政治家は生き残るために何でもやる。政党も政治集団も生き残りのために狂気に奔る。2月の都知事選は狂気と錯乱の坩堝だった。政治の理性と常識が砕け散った。まさかとは思うが、この面妖な政治の背後に菅義偉の狡猾な策略があり、菅義偉が小沢一郎に手を回し、翁長雄志の陣営を攪乱させる戦法に出ている可能性はないだろうか。陰謀論の誹りを恐れず、敢えて不吉な直感を言えば、その謀略の可能性を否定できない。


by yoniumuhibi | 2014-09-24 23:30 | Trackback | Comments(2)
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Commented by あつい at 2014-09-25 06:29 x
>維新に流れていた極右票が、次はごそっと田母神新党に流れる。

しかし田母神もチャンネル桜の水島とかなりゴタついている。

チャンネル桜の映像に出てるが、水島はこの局面での新党結成にかなり強く反対した様子。

それで結局は田母神は「頑張れ日本! 全国行動委員会」の会長を降りたし、
逆に水島は田母神の後援会?の幹事を降りている。

さらに田母神は日本ダイアモンドクラブとかいう非常に怪しげな団体の顧問になったがそれも水島の反対で降りている。

左翼の内ゲバではなく右翼の仲違い、という状況。
 
Commented by かまどがま at 2014-09-25 09:26 x
喜納昌吉と下地幹郎の立候補は政治活動をやっているというただのアリバイ作りという説に同意です。
翁長雄志の当選が承認撤回に直結しないという可能性は承知の上で、それでも、「腹六分目、オール沖縄で反対」の姿勢は、
辺野古の浜やゲート前、高江の座り込みに来たのか来ないのか不明のまま承認撤回や県民投票を主張する喜納や下地の不誠実よりもよほど信頼できる。耳に心地よい、大きな事を公約し、当選後に覆す今までの沖縄の議員にはもううんざりしている。
9.20の県民行動で観衆の中に一人座っていた鳩山由紀夫に、地元へ詫びる姿勢、反新基地建設の意志が感じられる。
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