政策プロジェクト

環境保全(事例集)

富士山クラブ
2002/02/01(金)更新

富士山クラブ

【コンセプト】

自らの手で富士山の環境を守る「人材」と「組織」の育成

我が国の象徴であり、日本人の心のふるさとでもある富士山。しかし、かつて富士山に広く存在した美しき原生林はその姿を消し、大勢の観光客や登山客が残すゴミとし尿の類は、自然の浄化能力をはるかに超え、まさに目を覆う環境破壊の現実が山林をむしばんでいます。山麓に目を転ずると、富士山が持つ最大の恵みであった湧水が減少・枯渇し、本来自然界には存在しないはずの各種有害物質の検出すら相次いでいます。

そこで、富士山クラブは「この富士山の厳しい環境破壊から美しい富士山をいつまでも守っていきたい!」という思いから設立され、平成11(1999)年11月には特定非営利活動促進法(NPO法)による法人格を取得しました。富士山クラブでは、市民・行政・企業がお互いにパートナーシップを取り、三者が一丸となった新たな富士山の環境バイオトイレの設置や富士山麓での森づくり、環境教育エコツアー実施やシンポジウム開催などを通じて、富士山の環境保護・保全活動を推進しています。 

【背景】

「富士山クラブ」は1998年夏に、富士山のすそ野で、ゴミ拾い清掃キャンペーンを始めた頃から結成されました。そのとき、日本の富士山の現状を目の当たりにし、この現実を正しく認識し、富士山の環境問題に取組むことが、私たち一人一人の責務だとの思いから、“日本のシンボル”そして“日本人の心のふるさと”である美しい富士山を次の世代に残していこうと活動がスタートしました。

 


1.自己紹介をお願いします。

今回のインタビューは、東京事務所 青木直子さんに伺いました。
青木直子 「富士山クラブ」東京事務所

平成12年10月より、富士山クラブ東京事務所職員として、東京での行政や企業などとの渉外、広報を行うほか、国際シンポジウム開催にかかわっています。



 2.活動のプロセスを教えて下さい。

●富士山クラブのエコツアー
正しくはエコロジカルツアーといって、自然環境の保全に積極的に関わるツアー形態の総称です。
富士山クラブが考えるエコツアーとは、
1.参加者がツアーの実体験を通して富士山の現状を『知る』
2.参加者同士が富士山の恵みや生態系に対する感謝の念を『分かち合う』
3.参加者自らが富士山の抱える様々な課題に対して『行動する』

年間を通じて、環境教育ツアー、森づくり体験ツアー、自然観察会の開催など、富士山の豊かな自然を楽しみながら、富士山の環境保全を考えるプログラムを企画しています。

・ 平成11(1999)年8月、富士山エコツアー&クリーンコンサート開催
富士山クラブの主催としては初めての試みでした。富士吉田市富士五湖文化センターにおいて「富士山クリーンコンサート」を開催。参加者の多くは、コンサートに来る前に、三島市、富士山五合目、青木が原など富士山周辺の地域においてエコツアー又は、清掃活動に参加してきた方々でした。
・ 他にも、「富士山どんぐりの里親ツアー」や「森づくり体験ツアー」など様々なツアーを行っています。

●エコツアーを担うインストラクターの養成
エコツアーへの取組みの一環としてインストラクターの養成にも取組んでいます。充実した内容の講座が開催されています。

< 講座内容>
富士山クラブ基礎講座、環境教育プログラム運営講座、富士山関連歴史、自然講座、インストラクター実践講座、富士山クラブエコツアーのインストラクター体験実習、救急法講座など

●富士山トイレ浄化プロジェクト
・ 富士山に設置されているトイレ(山頂や八合目にある公衆トイレ、山小屋にあるトイレ)のほとんどは、斜面に掘られた穴にし尿をためています。たまったし尿は、夏のシーズン終了後、山肌に垂れ流されています。今、これが深刻なし尿公害となっています。それらのし尿の量は、雨や雪で洗い流されてしまう量をはるかに超えているからです。また、分解されずに残ってしまったトイレットペーパーは、「白い川」となって、山肌にこびりついています。富士山クラブは、富士山のし尿公害解決のため、平成12(2000)年、初めて、実用試験的に静岡県側の須走口と山梨県側の吉田口(5合目)に1基ずつ「環境バイオトイレ」を設置しました。

※ 「環境バイオトイレ」とは?
バイオ(微生物)の働きを利用した全く新しい完全循環型のトイレです。富士山クラブが設置した「環境バイオトイレ」は、杉チップタイプとおがくずタイプの2種類。
・ 杉チップタイプ…杉チップに棲む微生物の力によって、し尿を水と二酸化炭素に分解、水は水洗トイレで再利用します。
・ おがくずタイプ…おがくずを媒介にして、し尿を発酵させ、堆肥として土に戻すことができます。

・平成13(2001)年、富士山の五合目と山頂にバイオトイレ設置
昨年に引き続き富士吉田口の五合目に杉チップタイプバイオトイレと富士山頂に杉チップタイプ1基とおがくずタイプ1基を設置しました。設置期間中は、水質調査、化学的調査、利用者聞き取り調査を実施、今後の山岳トイレ改善・整備に活かせるようデータを収集しました。

また、今回はあくまで実験なため、設置期限は8月末まででしたが、将来の恒久的な利用の可能性(微生物が冬の厳しい環境に耐え、翌年の夏に再びその力を発揮するかどうか)を調べるために期限延長許可を申請、その結果、翌年の9月末までの延長が認められました。
山頂の厳しい環境の中で無事に越冬することのできた環境バイオトイレは、2002年夏に再稼働させています。



<山頂バイオトイレ>

●「富士山クラブもりの学校」

富士五湖の1つ西湖のほとりにある廃校となった「山梨県足和田村立西浜小根場分校」の校舎とグランドを利用し、地域の文化遺産の保存や富士山クラブの活動の拠点となる場をつくりました。
具体的には、
・ エコツアーやゴミ拾いツアーの拠点として
・ 伝統文化体験学習の教室として
・ 「親子・友達のふれあいの広場」として
・ 「富士山麓環境情報の発信基地」として



3.どういった点に苦労されましたか?

● 山頂のバイオトイレ設置作業
富士山頂は3、776m。多くの作業員が、バイオトイレ設置作業開始後10分~20分で頭痛や吐き気など軽い高山病にかかり、身体を休ませながらの過酷な作業となりました。

●複雑な許可申請
富士山の管理主体は複雑なものとなっています。山自体は静岡県と山梨県にまたがり、その中の市町村も絡んでいます。また、8合目より上は浅間神社の所有地、森林に関しては林野庁と恩賜林組合が管轄。さらに文化財(特別名勝富士山)であることから文化庁、自然公園(富士箱根伊豆国立公園)であることから環境省、それに民有地とが入り混じっています。このため、バイオトイレ設置の許可申請のために16ヶ所も回ることになりました。また、様々な審査が行われるため、許可が出るまで時間もかかりました。

※ 恩賜林組合
正式名称は、恩賜県有財産保護組合。明治天皇が、明治44年3月に県下の御料林(皇室財産として管理している山林)を県土の復興に役立てるよう御下賜。この県有財産(恩賜林)の保護の責任ある市町村または市町村組合のこと。

※国立公園、特別名勝富士山の範囲

<富士箱根伊豆国立公園(富士地域)>
北~西側は富士五湖を含み、第1の稜線まで
東側は演習場等を除く(約1、800~2、000mまで)
南側(静岡側)は約800mまで
ただし、特別保護区、第1種、第2種特別地域となっているのは約1、800mまで

<特別名勝富士山>
北側は、約2、200mまで
南側は、約1、700mまで

●水不足が・・・
バイオトイレは、微生物を使ってし尿を分解する仕組みで、水がないと微生物も活動できません。そのため、トイレの側に貯水タンクを設置。稼働初日に約5トンの水を入れ、蒸発する分も雨水で補給するはずでした。しかし、2001年夏の雨量はほとんどゼロ。気温も例年より高いカラカラ天気が続き、予想以上に水の蒸発が早く、微生物のすみかの杉チップ、おかくずが予想以上に乾燥し、このままではトイレの機能が充分に発揮できなくなる心配が出てきました。しかし、新聞等で登山者に水を山頂まで運んでもらうボランティアを呼びかけたところ、多くの方の協力があり水不足は解消されました。2002年については、再稼動準備中に季節はずれの台風がきたこと、昨年に引き続き登山者のみなさんが、バイオトイレ用の水をボランティアで運んできてくれたことにより、水不足となることはありませんでした。



4.工夫されたのはどういった点ですか?

●企業の方や多くの人の協力を得ること
例えば、富士山頂バイオトイレ設置プロジェクトは、土木・建築のノウハウを持っていた建設業界の方がボランティアで参加してくれたので、成功しました。中でも一番大変なのは資材運搬。富士山は気流の関係で、ヘリコプターでの運搬ができません。そこで、ブルドーザーを使って4~5日かけ、トイレ本体や必要な資材を山頂まで運びました。しかし、そこは富士山頂、簡単に資材を忘れたから取りに行くというわけにはいきません。すべて、このプロジェクトに関わってくれた人の綿密な計画があったからこそ、順調に作業が行われたと思います。また、ホームページやチラシから報道各社に呼びかけるなどあらゆるメディアを利用して、会員をはじめ多くの一般のみなさんにも、「バイオトイレ募金」の協力をお願いしました。さらに、JCBの協力を得て、会員証としてJCBとの提携カード「富士山クラブカード」を発行し、カード使用額の一定の割合を富士山クラブへ寄付してもらっているほか、富士山クラブの個人年会費2000円を引き落としてくれているので、会費の払い忘れなど少なくなっています。



5.コストはどれくらいかかりましたか?

● 平成13年度のおおよその事業規模は以下の通りです。
【収入】
助成金 3、600万円
会費 400万円
寄付金 700万円
募集 300万円
事業収入 1、700万円
雑収入他 100万円
合計 6、800万円
【支出】
バイオトイレ設置 1、500万円
ネットワーク事業 300万円
環境学習など講座 1、300万円
シンポジウム 900万円
広報・ホームページ 200万円
育水基金積み立て 200万円
事務局運営費用※1 2、400万円
合計 6、800万円

※1 事務局運営費用の内訳
人件費、家賃、管理費、事務用品費、通信・交通費など



6.メンバーはどのように参加していますか?

● メンバーの富士山に対する思いは熱く、多くの方が参加しています。
例えば、バイオトイレの設置などでは、土木・建築のノウハウを持っていた住友建設静岡支店長・小浜修一郎さん(富士山クラブ設立と同時に会員となった)が中心になり、小浜さんが理事長を務めるNPO「ふじのくに・まちづくり支援隊」が全面的に協力してくれました。その他に、セブン環境NPOセンター、NPOグランドワーク三島、三島ゆうすい会、あゆむ山の会など多くの市民団体の方が協力してくれました。



7.活動はどのように評価されていますか?

● 富士山全体からみれば、わずかの環境トイレを設置したに過ぎません。しかしこのことは、富士山クラブ自身にとっても極めて大きな1歩になったと思っています。また、多くのメディアに取り上げられ、富士山の山岳トイレ問題について、一般の市民の関心を高めることになりました。



8.これまでの成果をお聞かせ下さい。

●富士山登山者は毎年約30万人、平成13(2001)年、設置し、維持したトイレは7月15日から8月23日までの間、計4、389人に利用していただきました。

●現地ではトイレ1回につき200円のカンパをお願いしており、その結果、747,000円のカンパをいただきました。多くの方に、山頂のバイオトイレ設置の価値を感じてもらえたのではないかと考えています。

 
<バイオトイレ前の様子>



9.これからの活動に関する課題や抱負についてお聞かせ下さい。

● これまでの実験的なバイオトイレ設置で、今後は多くの山小屋がバイオトイレの設置に積極的に取組むのではないかと期待しています。また、山頂や8合目にすでにある公衆トイレに関して、バイオトイレ導入に取組むよう環境省に働きかけていきます。しかし環境省などは、これまでのバイオトイレの実験的な設置に興味を示しているものの、NPOが継続的に管理を続けられるのかということにつき、疑問を感じているようで、なかなかバイオトイレ設置の本格的な導入には慎重な姿勢を示しています。一方で、富士山クラブもNPOとして信頼を確立し、組織としても経営や管理システムが構築されていなければなりません。富士山の環境はどんどん汚染されています。富士山クラブとしても、早く国や自治体の協力を得て、NPOが管理する共同事業ができるような体制にしていきたいと考えております。

● バイオトイレの設置一つとっても、市民ボランティアだけでは限界があります。資材を頂上まで運搬するにはブルドーザーが必要だし、基礎工事や配管、電気工事は専門の知識を持った人が不可欠です。富士山クラブは、市民・企業・行政のパートナーシップをとりながら、あるときは団体間の仲介役として富士山を未来の子供たちに残すために、先駆的で実践的な環境保全活動をおこなっていきます。多くの方の参加を願っています。

 


【お問い合わせ先】
特定非営利活動法人 富士山クラブ
http://www.fujisan.or.jp
東京事務所 青木直子
TEL 03-5408-1541 FAX 03-5408-1507
静岡事務所
TEL/FAX 0559-83-4133
 山梨事務所
TEL 0555-83-3101 FAX 0555-83-3102



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