中国の多数派である漢族と少数派ウイグル族との融和に力を注いできた著名な学者に、理不尽な判決が出された。

 被告人は、経済学者イリハム・トフティ氏。新疆ウイグル自治区の裁判所が無期懲役刑を言い渡した。

 イリハム氏は、民族自治の確立や、漢族との協調を唱える一方で、国家分裂につながる独立運動には反対してきた。

 ことし1月から拘束されて厳しい取り調べを受けたが、公判で「分裂活動はしていない」と反論した。それでも、裁判所は国家分裂罪で重刑を科した。

 一党支配のもとで司法が独立していない国にあって、この判決は習近平(シーチンピン)政権の意思と見るべきである。不当な弾圧だ。

 報道によれば、判決は「国家分裂をたくらむ犯罪集団をつくった」「民族間の憎しみをあおり、暴力行為を扇動した」と断じた。どんな証拠が示されたのかは明らかにされていない。

 昨年からウイグル族がかかわるテロ事件が各地で続発している。テロは決して許されない。イリハム氏を知る友人らは、彼が暴力活動はもちろん、海外のウイグル独立組織とも距離を置いていたと話している。

 09年のウルムチ騒乱事件の後にもイリハム氏は当局に拘束された。当時は中国の学者300人以上が釈放を求め立ち上がった。民族間の懸け橋となる人物であることを物語る。

 ウイグル問題は、漢族優位の社会で、イスラム教信仰や生活習慣が尊重されていないことが根底にある。民族間の不信を解くため、イリハム氏のような存在は貴重だ。分裂を図る人物として扱うとは理解しがたい。

 要するに判決は、ウイグル族には一切発言させない、民族問題は一切議論させない、と言っているに等しい。

 習政権は最近、中東の過激派組織「イスラム国」に対する米国主導の包囲網に理解を示すような態度をとっている。ウイグル族の過激派と「イスラム国」とのつながりを示唆する共産党系メディアの報道もある。

 習政権としては、国際情勢を国内問題に利用したいのだろう。だが、ウイグル族への不当な抑圧には、国際社会として、声を上げなくてはならない。

 イリハム氏への仕打ちは、中国の国内で市民運動や言論活動などへの弾圧が強まっている現状と軌を一にするものだ。

 この強権ぶりは、すでに習政権の体質と化している。イリハム氏だけの問題ではない。中国全土の人々がものを言う権利の問題である。