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 成人の約3人に1人がエイズウイルス(HIV)に感染している南部アフリカの王国スワジランド。世界で最も感染率が高いとされる小さな国を訪ねると、一夫多妻制といった固有の文化と風習が、感染予防の妨げとなっている現実が見えた。

 8月下旬、首都ムババーネ近郊。国内全土の集落から、少女や、未婚で子どものいない成人女性らが長さ約2~3メートルの「リード」と呼ばれるアシを持ち、王宮目指して行進してきた。

 その数、約8万人。裸の上半身に伝統的な飾りを身につけ、「今こそ王家に集う時」などと足を踏みならして歌う。王家への忠誠を示し、女性たちの連帯を深めるため、年に1度開かれる「リードダンス」と呼ばれる祭りだ。古来の風習を取り入れて、1940年代に始まったとされる。

 女性たちは王宮にアシを献上すると近くの競技場に移り、観客席にいる国王ムスワティ3世(46)の前で踊りを披露した。終盤には国王も競技場に下り、駆け足で女性たちを見て回る。

 女性たちがリードダンスに熱狂するのは、国王が毎年のように、この祭りを通じて新たな妃を選んできたからだ。一夫多妻制の風習が残るスワジランドで、国王の妻は14人いるといわれる。見初められれば、裕福な暮らしが約束される。

 参加者の一人、ノジコ・ンバータさん(18)は「リードダンスは母国の文化。参加できて誇りに思う」。ノシミロ・ワイトロンさん(19)は「来年こそ、妃に選ばれたい」と笑った。

■避妊や検査を見下す風潮

 ところが、この固有の祭りは、HIV感染率を世界一にまで高めてしまった「象徴」ではないかとの声もある。

 2011年の政府統計によると、成人(18~49歳)の感染率は31%。特に30~34歳の女性では54%、35~39歳の男性では47%だ。「ここまで広まってしまった原因の一つに、この国の文化や風習があることは否めません」。現地でHIV対策に取り組む国際協力機構(JICA)の持田敬司調査員は話す。

 一夫多妻制の風習が残るスワジランドでは、男性の多くが、交際している女性の数を誇ったり性交渉の回数を自慢したりする傾向がある。その一方、避妊したりHIV検査に行ったりすることを見下す風潮があるという。

 既婚の中年男性と10代の少女が交際することも、当たり前のように行われている。男尊女卑の傾向も強く、レイプや家庭内暴力が後を絶たない。

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